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皆の強みを解放する旅人サキコの話 第1章
音楽と愛猫とアルコールさえそばにいてくれたら
わたしの人生は満たされていたはずだった。
多くを語らずしてわたしに寄り添ってくれる存在だったのだと思う。
言動でけたたましく感情を主張する人間社会と相反する唯一の癒しだった。
人間のもつ善意とそうでない感情、
発する言葉と裏腹なこころの声、
エネルギーをもつすべての生き物たちの感性を一身に浴びながら、
何度生きることに絶望を覚えたことだろう。
大好きな音楽はいつもそばにあった。
楽器を奏でること、歌を歌うこと、
内なる想いを表現できる手段が音楽だった。
声となり、音となり、みえない何かとなり、
いまのわたしを形成する大切な要素なのだ。
けれども、
音楽一本で大成するほど世の中は甘くなく
わたしたちにも才能は足らず
楽しく付き合っては来たけれど
飲食業のアルバイトで食い繋ぎ、
契約社員の働き口も見つけ、
それなりに恋愛もし、
ついには結婚をすることに。
わたしが25歳のときのことである。
幸せで満ちたものになると願ったのもつかの間、喧嘩と怒号の渦に巻き込まれていく。
残念な夫婦が迎えていた危機をしっかりと準え、円満とは正反対の別れ方をして実家に出戻るわたしは、可哀想と語る眼差しと諦めの境地とを行ったり来たり、
誰かに頼る人生ではダメだと一念発起したのは言うまでもない。
それから30代前半にかけて、
頑張り屋さんの性質を標準装備していたのが功を奏したのかはたまた凶と出たのか、
営業マンとしてのスキルがめきめきと頭角を表し、仕事の成績があがるのと反比例するかの如く精神的に参っていく。
恋愛も続かない、
業績はあがれど満たされない、
気持ちを吐露する場所もうまく作れない、
挙げ句の果てには、
婚約者だった歳上の恋人に自分でも自分が人間であることを忘れるかのような扱いを受け、
独り立ちするために出戻ったはずが
気づけば婚約破棄としての終焉を迎え
またしてもわたしはひとりになり
見事に住む家も、恋人も、
友人関係でさえも手放すことに。
大きな喪失となったことは想像に容易いだろう。
わたしはなんのために生きている?
わたしのほんとうにしたいことってなに?
まるで国民的人気アニメの主題歌のようにして自分と向き合い続けたなかで、辿り着いたひとつの答え。
わたし、踊ってみたい!
こうして、こころの声に耳を澄ませたわたしは
経験皆無にもかかわらず、ダンスを始めたのだ。
つづく
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