妊活日記―“選ばれない”私たち
11/14(月):夫婦の妊活日記⑦
「わたしがあなたを選びました」
この本をご存じでしょうか?
産婦人科医の鮫島浩二さんが、これから親になる人たちに向けて書かれた、優しい本です。
「赤ちゃんは、自分でお父さんお母さんを選んで生まれてくるんだよ」
…そんな内容のお話。
この絵本は私にとってとても大切な一冊で、高校生の時から20年以上、人生を共に歩んできたものです。
高校3年生の春、何となく将来の仕事として「保育士」という職業を意識し始めた頃のこと。
夕方のニュースで取り上げられていたものを見かけた私は、大いに感銘を受け、すぐに本屋さんで購入しました。
それからの保育士時代や幼稚園教諭時代には保護者さんに読んだり、専門学校時代は教え子たちに伝えたり、カフェ経営時代には店内の本棚に並べたり…と、この一冊の本を、大切に大切に抱きしめてきました。
そして不思議なご縁で、当時の常連さんが、この鮫島先生とお知り合いであったことから、手にしてから約25年後にこの一冊に鮫島先生のサインを頂くことになったこの大切なこの本。
きっと私は、もしこのまま子どもを諦める時が訪れることになっても、この本を手放すことはないだろうと思っています。
だけど、夫婦でブックカフェ経営をしていたある日のこと、この本との関係性が変わってしまったことに気が付きました。
本棚に並べていたその本を何の気なしに手に取った時、
「あ…ダメ…無理だ」と感じました。
長年バイブルのように大切にしてきたこの本は、「赤ちゃん、できないかも…」と不安を抱き始めた私には、私の人生のステージに合わせて禁忌の一冊に変化してしまったことは小さな痛みのように感じました。
「大好きでおすすめしてきたこの本は、今の私には刃物なんだ…私は赤ちゃんから選ばれていないんだ」
そんな風に思ってしまう自分に気付き、本を開くことに拒否反応的な気持ちをもつようになりました。
きっと盲目的に大切にしてきたからこそ、この本の書かれていることから目を背けることができなかったんだろうと思います、
常連さんと気軽に「妊活がな~」なんて話せるようになっていたのに、冷静に向き合うことは難しかったのです。
正直、今この本の世界観や「お空の滑り台」とか「神様の話」「レインボーベイビー」「おやつを持ってお空からやってくる」なんてものを見聞きしても
「子育てが大変な親向けの考えられてるものだもんね。それで子どもを愛おしいと思えるなら良いこと。」とにこやかに受け流せるのだけど…
「選ばれる」なんて言葉を使われると、どうしてもそこだけは呪いのように重く響いていました。
テレビで虐待のニュースなどを見ては夫婦で
「この子もこの親を選んで来たの?親を選ぶセンスないやろ?」なんて嫌事をつぶやいたりして…
年齢の変わらない親たちを見ては「何でこの人は選ばれて、私たちは選ばれないんだろう」なんてこっそり悲しくなっていました。
このころ、家でも店でも一緒だった夫に小さくイラっとした時には、
「旦那にイライラする!これは妊娠超初期症状かも♡」なんておバカな妄想を繰り返して泣いて笑って傷ついて自虐して…いろんな気持ちは巡っていたけれど、今になって思うことは「世間に無視して良いものは沢山ある」ということ。そんなことに最近になってようやく気付きました。
それ自体の正誤にかかわらず、「今つらいと思う言葉」は華麗にパスして大丈夫なんだ。
妊活、子育て、進路、夫婦関係…人生に悩みは付き物だけど、いろんな情報への傷つかない為の選択と、上手にあしらって受け流すスキルはきっと、人生をちょっと楽に、幸せにしてくれるのではないでしょうか。
穏やかに、ゆるやかに、しなやかに、だけどこっそり力強く…「ありがたいけど結構です」なんて言いたいアドバイスたちには、気持ちだけ頂いて…これからも妊活と夫婦の日々を紡いで繋いでいきたいと思います。