半径0mの世界/#018
カメラを手にするのは出かける時くらいが普通だろう。
どこかへ旅行に行くときなど思い出として残すためにカメラを手にする。
写真を始めた頃は映えを追い求めては家を後にする日々だったのが懐かしく思える。
今でもカメラを持って出かけることは多い。
けれどその頃に比べると家で撮る機会が増えた。半径0mの世界だ。
何かこれと言って珍しい出来事があるわけでない。
ただ目の前に広がる当たり前の日常を写真に収めている。
28年住み続けた家の光景は目を閉じていても浮かび上がるほどだ。写真というと綺麗な絶景や楽しそうな笑顔が映り込んだ写真を見る機会が多いと思う。
しかしなにげない日常も同じような写真だと感じる。
慣れているから魅力を感じないだけ、いずれ当たり前じゃなかったんだと思う日は来る。
そんな時の自分に向けて残し続けたい。そんな思いから撮り始めた。
自分の目が捉えたものにカメラを向ける。そんな日々の繰り返し。そこで撮った写真は無機質なものも多い。けれど、どこか温かくて優しさがあるそんな感じがする。我が家の温もり、誰かの気配がそこに写り込んでいるように思える。
自分がそこに暮らしていたことは紛れもなく人生の一コマ。それに対して感謝の意味も込めてありがとうとシャッターを切る。自分にとっては大切な瞬間であり、その写真は大切な宝物だ。長い歴史のほんの1ページ。そのひとつひとつを紡いでいきたい。今日も家から半径0mで写真を撮っている。