自分のルーツを知りたいと思った-ドラマ『海に眠るダイヤモンド』の感想
野木亜紀子脚本と聞けば、テレビドラマファンは見るしかない。
「アンナチュラル」や「フェンス」など、圧倒的オリジナリティに満ちたストーリーと、社会とそこに居る人間にしっかりと焦点を合わせた作風は、見れば見るほど考えさせられる。
かと思えば「コタキ兄弟と四苦八苦」は、どこか気の抜けた登場人物達のなんてことないけど愛おしい日々をほのぼのと描き癒されたのを覚えている。
今回は、日曜劇場と野木亜紀子さんの組合わせに加えて、スタッフ・俳優陣も盤石であり、TBSの気合の入り方が伝わってくる。
ミステリー?恋愛?様々な要素を楽しめる歴史ドラマ
「海に眠るダイヤモンド」は、長崎県端島を舞台にした海底炭鉱の歴史ドラマと聞き、戦後復興期の高度経済成長を描くとなると、歴史的背景をしっかり説明しながら進行していくちょっと堅い作品になるのかな?と思っていた。
戦後の高度経済成長期を描いた作品で思い出すのが映画「ALWAYS 三丁目の夕日」だ。ALWAYSは、とにかく感情表現とお涙頂戴演出がおおげさすぎて、何もかもくどかったのを覚えている。
ALWAYSのように、戦後の日本は活力がみなぎって、こんなに頑張ってたんだぜ!感や、昭和特有の人情ドラマ感が強いと、今生きている人達への応援かつ説教的になってしまい、泣かせまっせ!感動させまっせ!という演出がくどくなってしまうのでは?という不安があった。
が、1話の冒頭、神木隆之介さん演じる金髪サングラス姿の歌舞伎町のホストである玲央が現れる。
無気力なかんじで、どうやらホスト業の売上も芳しくなさそうな様子。
そこに宮本信子さん演じる怪しげな高齢の女性が現れ、このホストにいきなりプロポーズをする。
端島の海底炭鉱の話と聞いていたのに、いきなり現代パートから始まった。
しかも、神木隆之介さんは主演で戦後の端島に生きている登場人物のはずなのに、現代のホストも演じている。繋がりがあるのは分かるが、現代のホストと1960年代の端島をどう結んでいくのか。いきなり謎を与えられるという、まさかのミステリー要素にワクワクしながら、見始めた。
端島パートがはじまると、予想通り人情と活気にあふれた人々の仕事と生活を描いていた。
端島は、全国にある炭鉱とは異なり、端島の海底炭鉱はとにかく狭い場所に人々が密集して生きている。
「一島一家」という言葉をモットーとし、島全体が家族のように近い存在で支え合いながらみんなで生きているという意味だ。
なので人間ドラマとしても家族ドラマとしても距離感が近く、濃い人間関係を描いている。
また、歴史モノにありがちな過度な説明もなく、あくまで登場人物達の群像劇として楽しめるものになっていた。
歴史を紐解きながら、端島の炭鉱としての繁栄と衰退をしっかり見せてくると思いきや、2話3話は、島で生まれ育った人達の恋愛ドラマになっていた。
島で産まれて育った幼馴染の男女が、島育ち特有の距離の近さゆえ、友情と恋愛に翻弄され、気持ちを上手く伝えられないジレンマがもどかしく、恋愛ドラマとして素直に楽しめた。
勘違いしていた端島炭坑が閉山した理由
物語中盤は、一島一家をスローガンにする端島が団結する様を描き
終盤は、端島炭坑が閉山するまでの流れが詳しく描かれていた。
ここで、驚いたのが端島炭坑が閉山した理由だ。ドラマを見るまで私は、石炭から石油へと、エネルギー転換の影響から閉山することになった炭鉱の一つだと思っていた。
が、実際には違った。
詳しくは、軍艦島デジタルミュージアムのスタッフブログに分かりやすく書いてあったので、以下のとおり引用させていただく。
実際の採掘区域の図や時系列順に経緯が分かりやすく書かれている。
詳しく知りたい場合は、以下のリンクを参考に。
ガス吐出火災が起き、メイン坑道深部を水没させたことにより、別の坑道を掘り進めていたが、安全に採掘するのは困難と判断され、閉山することになった。
石油のエネルギー転換がきっかけで、なし崩し的に終わっていくのかと思っていたため、ドラマの中でその過程をしっかり見ることができ、大きな発見となった。
玲央の変化を見て、自分だったら先祖のルーツを知りたくなった
現代パートの金髪ホスト玲央は、鉄平(神木隆之介演じる端島炭坑に勤めている過去パートの主人公)の日記や実際に今の端島に行き体感することで、玲央の中で鉄平の人生を追体験し、端島で生きていた人々の活気あふれる日々や当時の想いを自身の中に落とし込むこみ、少しずつ変化していく。
鉄平が外勤として、色々な人に声をかけて、島民のために頑張って仕事をする様や、最後まで朝子や家族など人のために尽くした姿など、その想いを知り、玲央は自身の中に鉄平の姿を落とし込んでいく。
そして最後は、鉄平の想いを受け継ぎある決断をする。
朝子は、鉄平が最後までどう生きたのか、何を願っていたのかという想いを知ることで、朝子自身の止まっていた時間が動き出し、新たな一歩を踏み出すことが出来た。
玲央や朝子の変化を見ながら、ふと私自身に置き換えて考えた。
自分に近いもので言えば、例えば先祖の想いだ。
私は、自分の先祖はどんな人で、どんな仕事や経験をして、私にどう繋がっているのかというルーツを全く知らない。
私の祖父母はすでに亡くなっているから、今、親が生きているうちに聞いておかないと、親が死んだ後では、全く分からなくなる可能性がある。
今までは、家系図や先祖のルーツなんて何の興味もなかったし、仏壇の位牌がそれぞれ誰のものなのか、お墓には誰がいるのかなんて知らなくても大丈夫だと思っていた。
だが、海に眠るダイヤモンドを見て、自分へと繋がる人々のことを知っておきたいと思った。
自分じゃなくてもどこかの誰かに繋がってほしいという誰かの想いを知りたくなった。
近い所で言えば、私が産まれた時にはもういなかった祖父。
どんな人生で何をしていたのか、詳しくは聞いたことがない。
今まで向き合おうとしていなかっただけで、大切な想いを知ることが出来るかもしれない。
そして、それが自分の何かを変えるきっかけになるかもしれない。
次、親に会うときに色々聞いて、どこかに書き留めておこうと思った。
見ていなかっただけで、私の身近な所にも、ダイヤモンドは輝いているのかもしれない。