記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

【ネタバレ感想】映画『ファーストキス』

2月8日(土)に公開したばかりの『ファーストキス』を観てきた。
いまだにその余韻冷めやらぬため、ここに書き記したい。

映画の概要は下記、公式サイトの通り。

結婚して15年になるカンナは、ある日、夫の駈を事故で失ってしまう。いつしか夫婦生活はすれ違っていて、離婚話も出ていたが、思ってもいなかった別れ。しかしカンナは、駈とこちらも思ってもいなかった再会を果たす。しかもそこにいたのは、初めて出会ったときの駈。
ひょんなことから、彼と出会った15年前の夏にタイムトラベルしてしまったカンナは、若き日の駈を見て思う。やっぱりわたしはこの人が好きだ。まだ夫にはなっていない駈と出会い、カンナは再び恋に落ちる。
時間を行き来しながら、20代の駈と気持ちを重ね合わせていく40代のカンナ。事故死してしまう彼の未来を変えたい。過去が変われば未来も書き換えられることを知ったカンナは、思い至る。わたしたちは結婚して、15年後にあなたは死んだ……だったら答えは簡単。
駈への想いとともに、行き着いた答え。
わたしたちは出会わない。結婚しない。
たとえ、もう二度と会えなくてもーー 。

映画『ファーストキス 1ST KISS』公式サイト

以下、ネタバレあり------------------------

・時間軸の逆転した夫婦
離婚届を出すはずの日に駆が亡くなり、関係が冷え切っていたとはいえ、後味も悪いし、喪失感のあるカンナ。タイムトラベルにより、離婚を決意していた45歳のカンナの状態で、かつて恋に落ちた頃の駆に会うことになる。「そうだ、こんなところが好きだった」「こういう顔で笑うんだった」「こんなにしゃべったのいつぶり?」など恐らく色んな感情がかけ巡りながら、再び恋に落ちる。離婚した人の中には同じ状況になったら、ここぞとばかりに「別の運命の人を探しにいく!」という人も大勢いるだろう。カンナの場合は駆が亡くなっている事を差し引いても、「出逢わない」という選択肢を最後まで取っておくあたり、すれ違ってしまっただけで基本的には好きなのだということが分かる。その上、人生経験も重ねてきた15歳年上という完全に余裕がある側の立場で、「自分に恋に落ちている」年下の駆が堪能できるというまたとない機会である。少し無駄にタイムリープしてしまう気持ちは、見ているこちらにも、とてもよく理解できた。
そして駆の方はタイムリープしてきたカンナと先に出逢ったことで完全に「45歳のカンナ」を好きになる。自然と同年代で知り合い、盛り上がり、少しずつすれ違い、冷めていってしまったタイムリープ前の駆と違い、ある意味「45歳のカンナ」が初恋であり、ゴールなのである。恋に落ちた日に、自分が15年後死ぬことを知り、でもこの人と結婚して15年過ごせたんだと少し嬉しくもなる。まだやってもいない事を責められながらも、離婚話が出ていた割に懸命に助けようとするカンナを見て愛おしさが募り、自分はそうなるまいと、赤ちゃんを見殺しには出来ないけれども、この人と過ごす15年間愛し続けるということを決意する。もしこれが見た目まで若返ったカンナが来ていたらどうだったのだろう。もちろん、そうであっても恋には落ちていただろうし、このあと出会う同い年のカンナのことも愛していたと思うけれど、私は自分が死に近づく恐怖と初恋の「45歳のカンナ」へと続く愛おしさとが相殺出来ていたのではないかと思っている。

・余計なところをそぎ落とした脚本・演出
塚原あゆ子監督の「全部を全部、説明しなくても、坂元さんの脚本は雄弁だから大丈夫かなって」という言葉の通り、この映画には観客向けの説明的な部分はあまりない。タイムトラベル、タイムリープものを「書こう」と思った時に恐らく一番難しいのは「どうやって」「何を基点に」タイムトラベルするのかという部分ではないかと思う。しかし、この映画はトンネルの事故が基点ということ以外はうやむやにしている。カンナ自身も「多分、トンネルが直っちゃったらもうタイムリープ出来ないんだろう」と思っている程度。その部分にもやもやしている人の感想も見かけたが、この映画においては「なぜタイムトラベル出来るか」は映画の本質ではないので、ここで下手に辻褄合わせや説明的な時間を取られて肝心な2人のやり取りが減るのであれば、切り捨てて正解かと思う。ただ、個人的には初回の事故の感じから、カンナはこの日に亡くなっていて、タイムリープの末に駆だけ生き延びてカンナはいないという終わりを迎えるのではないかと終盤までヒヤヒヤしていた。まぁ餃子が届くところまでしか劇中に出てきていないので真相は分からないが、多分生きている、はず。

本筋に関係ない人間関係や仕事の描写がないのも良かった。自分がどんな仕事をしているかを主人公が説明しだしたり、両親や友人が出てきたりすると目線が散ってしまいがちだが、あくまで2人の関係性のなかでカンナから見えてるものだけが描かれている。だから、駈が職場でどんなふうでどんな仕事を具体的にしているのかも、カンナが知らないことは観客にも分からない。

・一面的な不満が気にならない
この映画は基本的にカンナの目線で描かれる。駈の気持ちは発される言葉と手紙、実際の行動などでしか知る事ができない。女性が一方的に自分の不満をぶつける、ましてや、まだやってもいないことを15歳年下の男性にぶつけるという理不尽なことがこの映画には起こっている。だけど「これだから女は」という感想が見当たらないのは、どんなにカンナが自分が悪い部分を反省しても、45歳の硯夫婦が不満を言い合い、話し合う事は二度と出来ないというもどかしさをこちらも理解出来るからである。
また、タイムリープ初回ならまだしも、何回も駈に会って愛おしさを思い出したあとの、どうしようもないぼやきなのだ。松さんの演技力がそれをしっかり表現しているから、ただ憎々しげに言っているわけじゃないと分かるから、一方的なはずの言葉を、若い駈も私たちも受け止めることが出来る。受け止める駈の演技を、松村北斗さんも見事に演じている。理不尽だなと思いながら、でもこの人を、運命としか思えない魅力的な目の前の女性を、自分の嫌味っぽい行動で失う未来を想像して心底いやだな、と思う、その過程の表現力が凄まじい。
脚本も演出ももちろん素晴らしいのだが、もしこの2人じゃなかったら、「こんな簡単に29歳が45歳に惚れるか?」と冷める瞬間がいつきてもおかしくなかったと思う。それだけ、松さんと松村さんの惹かれ合う演技の説得力は素晴らしかった。


まぁごちゃごちゃ書いたが、本当にただただ良い。本当に役の2人はもちろんのこと、演じている松さんと松村北斗さんを好きになると思う。
個人的には森七菜ちゃんも贅沢な使い方してるなぁと思いながら凄く好きだった。

私がカンナだったら、ハルキゲニアについて上下だけじゃなくて前後も逆なんじゃない?なんて冗談めいて伝えるかもと思ったけど、そうすると第一発見者の方の人生が変わってしまうかもしれないし、学者を続けることで赤ちゃんを助けられないかもしれない。
結果としてタイムリープして変わったのは2人の時間の過ごし方だけだったというのも、ものすごく美しいなと思う。

結構皆さんがあげていた駈が「お風呂入る人〜?」と言うシーンが何故か記憶にないので、そこも含めてもう一回観に行こうかなと思っている。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集