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『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』公開初日10/11感想(映画の政治学)

この作品、よく公開できたな…(褒め言葉)

こんにちは、まじこじまです。
本日はちょっと毛色を変えて映画のお話を。
この映画を観始めて最初に出てきた心の中での呟きがこれでした。
普段映画を観ない方でも「教養」として観ておくべきかもしれない。

私は大学時代に映画学を専攻していた事もあって、映画には強い思い入れがあります。普段はFilmarksで鑑賞録をつける程度ですが、息抜きを兼ねて記録。

この映画についてネタバレなしで書くのは不可能に近いので、ネタバレ部分を有料設定で隠すことにします。とはいえ、映画の魅力的な部分のネタバレというよりは「こうせざるを得ないよね」という映画の構成の話だけなので、未鑑賞の方が読んでも差し支えない範囲での記載に留めます。


ハロウィン前にこれ上映していいの?

10/11公開です

この映画、DCコミックス屈指の人気ヴィラン(悪役)であるジョーカーを主人公に据えた作品だが、アメコミ・ヒーロー映画的要素は皆無。

このジョーカー、悪のカリスマ・ダークヒーローとしての像が強すぎて歴代の登場映画が公開されるたびに模倣犯が現実でも現れる影響力の強いキャラクター。

バットマン映画の3部作『ダークナイト』の公開時(正確にはライジング)にはアメリカでは映画館で銃乱射事件が起きたり、日本でもこのフォリア・ドゥの前作にあたる『ジョーカー』(2019年)の公開後、2021年のハロウィンの日に京王線でジョーカーの仮装をした男性が事件を起こしている。

本国アメリカではFBIもジョーカーが登場する映画が公開される時には敏感になるくらいの影響力をもつ本作。

さらに、3年前には日本でも実際に事件の起きたハロウィンを目前に公開。よくこのタイミングで公開したなというのが初めの印象である。

前作『ジョーカー』のおさらい

前作『ジョーカー』で彼は徹底的な「持たざる者」として描かれており、幼少期の親からの虐待、トゥレット障害を抱え、夢見るコメディアンとしての才能も認められず社会からも徹底的に否定され、妄想の世界に逃げ込み、しかしそれが現実ではないことを突き付けられて絶望したりと哀れで惨めな存在であることが強調される。

しかし彼がはずみで起こしたエリート会社員の殺害事件が「貧困層から富裕層への反逆」として貧しい人々から共感されるなど、誤った方法でも「注目されること」「見て貰えること」の喜びを感じてしまう。現代SNSへの皮肉も効いていた旧作のシナリオ。

最終的には生放送で自分を笑いものにしていた有名コメディアンのマレーを射殺するが、元々は一人芝居を演じた後に自分を撃って自殺を図る目的で持ち込んだ拳銃で起こした事件。この犯行の動機も自分が訴えかけたかったことを途中途中でマレーに茶々を入れられ、小馬鹿にされ続けたことが原因。

しかしこの凶行をきっかけに、ジョーカーに共感する貧しい人々が町の至るところで暴動を起こし、富裕層の人々が悪辣な暴行を受ける…

このストーリーは格差社会の激しいアメリカ本国だけでなく、日本でも共感を呼んでしまった。誤った手段であれ、迫害を受けてきた人間が注目を集めたり、人々から支持を集めたりする喜びを感じてしまうと凶行はエスカレートするし、そこで生まれた別人格を演じ続けなければならなくなる恐ろしさなんかが読み取れる本作だが、ホアキン・フェニックス演じるジョーカーの悪のカリスマとしての魅力が強すぎたのも事実。結果として模倣犯が生まれてしまった事実は事実として受け止めるべき。

この事件が警鐘を鳴らしてくれたのだから、教訓として日本全体の構造改革が進められても良かったはずだが…結果は増税に次ぐ増税で日本の貧困化はさらに進むばかりだった。

今の日本の社会情勢でこの映画公開して大丈夫?

前作公開から5年、歴史的円安、物価上昇、実質賃金の低下と日本経済はさらに衰退している。

安倍首相が演説中に自作の銃で撃たれて死亡するなど、「日本は安全な国」という概念も崩壊しつつある。移民の増加、治安の低下など暗い話題に事欠かない。

5年前に比べていわゆる「無敵の人」が増えていることは間違いない。

昨年「ハロウィン中止」を掲げた渋谷に続き、今年は新宿もハロウィン期間の路上飲酒の禁止を表明しているものの、本条例に罰則は存在しない。

「人々が仮装してお祭りを楽しむ」ことを規制する日本の不寛容気質も行き過ぎと思わなくはないが、一方でこんな規制をしなければならないくらい「日本の治安が低下している」という本質的な事実、問題の根本を解決しなければならないと感じている。

貧困は犯罪と密接な関係がある。
日本が貧しくなり続ける限り、凶悪な犯罪も増え続けるだろう。

また、これまで虐げられても沈黙していた人が反撃に転じる風潮も記憶に新しい。川口ゆり氏が「男性のニオイ」発言で炎上した構図は前作『ジョーカー』(2019年)のクライマックスでコメディアンのマレー氏がアーサーを馬鹿にした構図と重なる点が多い。

思いもよらない「弱者の反撃」によって殺される。
そんな世の中がじわりじわりと近づいていることを我々は恐れなければならない。

そんな中、この『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は公開された。

フォリ・ア・ドゥの意味は?

狂気の伝染

「Folie à deux」というのはフランス語で「二人狂い」という意味である。
妄想を持った人と親密に暮らす人にはその妄想が感染し、妄想を共有することがある。これを感応精神病というそうで、この映画で描かれるジョーカーと彼に心酔するハーレイ・クインの関係およびジョーカーに共感し現実世界で事件を起こした彼らとの関係もこの言葉そのもの。

【伝染する狂気】と言い換えるのが良いかもしれない。

フォリ・ア・ドゥ批評(ネタバレなし)

最初に言っておくと世紀の大傑作。
近年ポリコレに汚染された駄作が映画市場を盛り下げてばかりだったが、今年に入ってからまた復活してきた。きっかけは直接関係があるかどうか不明だが、私はディズニー社のCEOであるボブ・アイガー氏が「偏り過ぎていた」と認めたことが大きいのではないかと睨んでいる。

数々の名作IPをポリコレで徹底的に潰してきた推進勢力の筆頭であったディズニーが方向転換したのだから、影響力はデカいだろう。

ただ、そんな復活してきた2024年の作品群の中でも本作は最高に面白い。
思わず普段の投稿ジャンルと異なるのに映画の話題をこのnoteに書いてしまうくらいのパワーが本作にはある。

本作は徹頭徹尾、暗い画面、暗い話題、救いのない展開の連続である。
派手なアクションシーンも無ければ、前作のようにカタルシスを感じる場面もない。痛快さとは無縁の作品だ。

主人公アーサー・フレック(ジョーカー)はみすぼらしい囚人。
ガリガリに瘦せこけて髪も薄い、爪の間に垢が溜まって汚らしい囚人服を来た初老の男性。

カッコいい要素なんて1つも無いはずなのに、なぜかメチャクチャに魅力を感じてしまう。ホアキン・フェニックスは凄い役者だ。

本作のヒロイン(もう一人の主人公ともいえる)ハーレイ・クインを演じるのは何とレディ・ガガだが、「こんなに美人だったっけ」と感じる。奇抜なメイク姿が真っ先にイメージされるので素顔のイメージが湧かなかったが、ハマリ役で旧シリーズで同人物を演じていたマーゴット・ロビーの「カワイイ」路線ではなく徹底してダークな作風の本シリーズに違和感なく入り込んでいる。

「サイコパス」の描き方が全く異なる

本作は異色の「法廷ドラマ+ミュージカル+アメコミヴィラン」

ヒーローもので法廷ドラマに挑戦したMARVEL&Disneyの「シーハルク」が最低のクソドラマだったのに対して本作は138分という上映時間の中に完成度の高いこれらの要素を凝縮した傑作だった。

レディ・ガガはさすがの歌唱力でミュージカル映画としても素晴らしい出来。ミュージカル映画の難しいところは「いかに違和感なく歌のシーンに移行するか」であり、無理な展開で観客がシラケた時点で没入感が失われる。

本作では二人とも精神に異常を抱えていて妄想癖があるので、どこからが現実でどこからが彼らの空想の世界なのか?これらの境界線が「音楽」によって表現されている。しかし絶妙なのはこの境界線が物語が進むにつれて曖昧になっていくこと。前半ではミュージカルシーンが終わると共に現実に引き戻され空想に耽っていたことが明かされるが、次第にこの境界線が曖昧になっていくことに気が付けると考察が一層楽しくなる。

結末は…『計算し尽くされた盛り下がり』

ネタバレありの方で詳細に記述するが、この映画の凄いところは盛り上がりに加えて「盛り下がり」が計画されている点だと思う。

世間の評価が賛否両論なのもおそらくこの点。
評価を下げている方々は、ここの考察に至っていないのではないか?

本作の隠されたもう1つのテーマは「エンターテインメント」である。
劇中で1953年のミュージカル映画『バンドワゴン』の劇中歌である「ザッツ・エンターテインメント」が繰り返し歌われるのがその証拠。

この世界はステージなのさ
このステージは
エンターテインメントの世界なんだ
それがエンターテインメントさ!
それがエンターテインメントさ!

フレッド・アステア「That's Entertainment」

現実世界と本作『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の世界の繋がりを考えれば、きっとこの意味が理解できると思う。

ここから先はネタバレ不可避なので、有料設定。
1人の映画好きの考察として、暇つぶしにどうぞ…

フォリ・ア・ドゥ批評(ネタバレあり)

「盛り下がる」ことが必然だった本作のラスト

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