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異聞ええじゃないか/よ・な・ら・し

◉あらすじ


慶応三年夏、東海道三河赤坂の宿。旅籠・金魚屋にお札が降った。赤坂の宿は狂騒に包まれる。金魚屋は店前に酒樽を置き、道ゆく旅びとに振る舞い、店の中ではご馳走を振る舞い宿場の外からもご馳走を飲めや歌えや。夜には夜踊り。
騒ぎが終わって旦那衆の会議。次々に旅籠ばかりにお札が降ることに疑問が湧く。「なぜ水呑に札が降らんのじゃ?」三日に一度の札ふりに首を傾げて、「犯人探し」を始める。旦那衆に命じられた番太の仙太の犯人探しが始まる。

◉登場人物


旦那衆 金魚屋旦那と女将
    猪鹿屋の旦那
    雀屋の女将
番太  仙太 せんた(千造)
売り子 おきん(お千代)
赤坂衆 甚介 じんすけ(繁七)
    お善 およし(辰三)
    佐吉 さきち(隆ニ)
    当選者宗二
加茂  辰三、繁七、隆ニ、千造、お千代
代官
同心 二人

富吉と子どもの富市
富蔵
源三郎
清治郎
トコナベと病の妻のお房

◎シーン① 赤坂宿・猪鹿屋(花札の猪と鹿の看板)


●舞台上手に旅籠金魚屋のあがりがまち、下手は東海道。
大勢の旅人に店前で酒樽の酒を振る舞っている。店の中も膳を前に大勢の人たちが飲み食い、笑い声が響いている。

おきん「兄さん兄さん、あんたも飲んでっとくれん」
旅人「(江戸っ子風に)お、冷かい?真昼間からきゅっと?ありがてえ、乙だねえ。二川、吉田、小坂井、御油と歩きどおしで口が乾いてたところだ」
おきん「はいよ」
旅人「お足は?」
おきん「おあし?これかい?(草履を見せる)」
旅人「何言ってやがんでぇ、おあしったら、銭のことだよ。銭は逃げ足が早えだろ、だから銭のことをお足っていうんだ」
おきん「お代のことかい。(浮かれた調子で)タダだよ。今日は飲み放題の食い放題」
旅人「え! 飲みしでぇの食いしでぇ?」

●旅の商人は驚きつつはあたりを見回して小声で聞く。

旅人「どういう事でぇ? やけに景気がいいじゃねぇか!」
おきん「景気は悪いよ、米は不作続きだろ、その上長州様のせいでコメの値段は天井知らず。ほれに(上手を指さし)将軍様はこんなだし、(下手を指さし)天子様はあんなだし、薩長だ合津だ、佐幕だ倒幕だ、開国だ攘夷だって・・目の血走った不逞浪士は行き交うし」

●聞き咎めた手代が話に割り込む

手代「これ、おきんさん、物騒なこと言っとっちゃあかん」
旅人「何かい(吞みながら手代に)今日は祭りかい?」
手代「いえ、お札(ふだ)降りですがね」
旅人「お札?(少し考える) そういえば吉田の牟呂でも先月お鍬様のお札が降って大騒ぎになったって・・言ってたわ」
手代「こちらではお伊勢さんの外宮のお札が。ありがたくも、昨日、私がとうの猪鹿屋にも降ったんです。お札(ふだ)が。あーおめでたやありがたやありがたや」

●手代が掌をすり合わせ始めたのをみて、売り子のおきんが、またそれにつられて旅人も「ありがたやありがたやー」と言いながら両手をすり合わせ始める。

旅人「ほう、ではおいらもお下がりのご相伴にあずかりますか」
おきん「ああ、お飲みお飲み、ほんで今日は赤坂に泊まってお行き」
旅人「ああ、泊っていくとも、飲みしでえの食いしでえで泊まらねえわけにゃいかねえよ」

●手代、おきん、旅人の笑い声。
●突然のお札降りの祭り気分に浮かれる賑やかな赤坂の宿、暗くなってゆく中で鉦や太鼓や盆踊りのお囃子の喧騒を残したまま、暗転。

◎シーン➁ 代官所(赤坂代官所の看板。金魚屋の帳場を使用)

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