僕と「ヤギ料理」三番勝負 ー沖縄の「へそ」うるま市石川のローカル生活(25)
「沖縄の料理、口に合うね?」と無邪気に聞いてくる県民たちに、逆質問すると意見を二分するのが「ヤギ、食べられる?」という問い。僕の周囲では「臭くて無理」と話す沖縄県人が圧倒的多数でしたが、一部に「大好物」という熱烈なヒージャージョーグーも(沖縄の方言でヒージャー=ヤギ、ジョーグー=上戸、すなわちヤギLOVER)。本日はヤギ食文化について。
沖縄ではポピュラーな家畜だったヤギ。かつては自宅でヤギを飼って、祝い事の席でヤギを屠ってご馳走として食べるという風習があったそうです。当時としては貴重な動物性タンパク質でもあったことでしょう。しかし日本復帰後は、家畜は専門の屠畜場以外での屠殺が禁じられたため、自宅でヤギを食べるという文化は廃れてしまいました。
一方で、地元民向けの居酒屋や食堂の中には今も「ヤギ刺」「ヤギ汁」「ヤギそば」など、ヤギ料理を提供する店があります(定番というほど多くはありません。たまに見かける、くらいです)。僕の胸にはいつしか「熱烈なファンも多いヤギを食べてみたい、でも食べきれず無理でした、で残してしまってはもったいない」。そんなアンビバレントな感情が渦巻いていました。結果として沖縄生活中、三度ヤギ料理に遭遇(トライ)しました。以下はその記録です。
(1)かね食堂の「ヤギ汁」
僕が愛してやまないうるま市のローカル食堂「かね食堂」のメニューにも「やぎ汁」「やぎそば」があります。一度、一緒に店に行った知人が「やぎ汁」をオーダーして、それはそれは旨そうに食べているところ、僕は横でにおいを嗅いだだけでギブアップし、「ヤギは食べられないな……」とそのときは思いました。
その知人は県外の人でしたが、ジビエ料理が大好物!と豪語していたので、なるほど、そういう方はヤギと相性がいいはずです。なお沖縄のヤギ料理は、においを和らげ、風味をつけるため、フーチバー(沖縄の方言でヨモギのこと)を入れるのが定番の食べ方なのですが、目の前でフーチバーをどっさり入れられても、僕の嗅覚ではにおいは全く変わらないように思いました。(むしろ強烈になった気も)
(2)やぎとそば 太陽の「ヤギそば」
さて、うるま市石川には「ヤギが苦手な人でも食べられる」と謳うヤギ料理の店「やぎとそば 太陽」があります。
ここはヤギ好きが高じた店長が牧場まで経営して「あまり臭くないヤギ」を育て、「ヤギピザ」「ヤギカレー」などの創作ヤギ料理を次々と生み出しており、中でも「ヤギラーメン」「ヤギボロネーゼ」は県内飲食店が競う「ガチめしグランプリ」で2連覇を達成するなど県内ヤギ食文化界隈では、新進気鋭の一軒です。
関心の高かった僕、ここには職場の同僚(糸満出身でヤギ大好き)を連れて行き、同僚は「ヤギそば」、僕はフツーの「沖縄そば」をオーダーしました。あわよくば一口もらおうというザ・小心ものチャレンジです。
同僚は「あー、別に臭くないから美味しくないとかなくて、普通にうまいっすね」と喜んで食べています。ここで初めて、僕はヤギの肉を一切れもらって味わいました。肉は柔らかく煮込んであり、それなりにジューシーな感じはするのですが、獣というか野生というか、の香りが鼻を抜けていき、臭くないとかじゃなく、普通ににおいするよ?と、ここでも一切れでご馳走様でした。
(3)居酒屋ちょーすけの「ヤギ刺」
ここはうるま市石川からちょっと離れた、沖縄市の繁華街にある居酒屋です。観光客向けの料理もあるかと思えば、地元のエイサーの青年会の行きつけだったりと非常にバランスの良いお店です。
職場の忘年会で飲んでいたところ、上記「ヤギそば」を食べてもらった同僚が遅れて参加し、メニューを見て最初にオーダーしたのが「ヤギ刺」。その場にいた他の仲間たち(沖縄県人もナイチャーも)は「ヤギ刺なんて、お前しか食べないだろー」と揶揄します。ところが運ばれてきたヤギ刺を見て最初に僕が思ったのは
「においが、しない……?」
生肉だからにおいが少ないのか、その店のヤギがとりわけ新鮮だったなど理由があったのかはわかりませんが、今までで一番いけそうな気がします。ヤギ刺をつまみにビールを美味しそうに飲むその同僚の横で、恐る恐る箸を伸ばし、添えてあった生ニンニクと醤油に浸して、口に運びます。
「あ、美味い……」
やはりちょっとジビエ臭はするのですが、これくらいなら、むしろニンニクと合間って程よい風味のアクセント。すんごく大好物かと言われると微妙ですが、そのあと何切れかパクパクっといただきました。
かくして僕は、ついにヤギを克服したのでした(別に克服する必要はなかった&生肉限定ですが)。
ヤギ周りでもう一つ、強烈に覚えているエピソードが、職場の沖縄県人の先輩女性のお話。脳内でマシンガントークに変換ください。
「私が小さい頃、実家でヤギを飼ってて、私はとっても可愛がっていたんだけどさ。ある日、小学校入学のお祝いで、おじぃが私の目の前で、そのヤギの眉間をスコーン!と殴って殺しちゃったわけ。そのヤギをさばいて祝いの席のご馳走にしたんだけど、それを見てから私、もう無理ー!ってなってさ。それからヤギ料理は絶対に食べられないのよね」
僕はヴィーガンではないので、肉食をする以上は貴重な命をいただいている感謝をして、残さずいただくというのがせめてもの礼儀だと思っていますが、さはさりながら、幼少期に見てしまったらトラウマになるというのもわかります……。
さて最後に、沖縄のヤギ文化について興味を持った方がいれば、地元の出版社であるボーダーインクのこの本が硬軟混ざった良書で、大変おすすめです。上記で紹介した「やぎとそば 太陽」も掲載されています!