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ダビデ 完璧な肉体 1,252 文字
市民プールにダビデが現われたのは今年の8月、うだるような暑い夏の午後だった。
私は日課としていた800mを泳ぎきり、水面から顔を上げると、周囲の空気がいつもとどかか違っていた。
プールサイドを見上げると、そこに若い男性が立っていた。
20代と思われる若々しい肉体。
肉体には筋肉が精緻に刻まれ、力強さと共にどこか優雅さも併せ持っている。背中から腰にかけての線が美しい。
深い思索にふけるような表情は、これから挑む戦いに対する決意をしているかのようだ。
その美しい肉体と顔立ちからは、若者の内面の力強さと同時に成熟も感じさせた。
これは・・・ダビデだ。
ダビデそのものがプールサイドに立っていた。
美大の頃、制作実習で取り組んだあのダビデだ。
頭部がやや大きく、上肢がやや長い造形。
ダビデは日本人体型だと私はずっと思っていた。
それが今目の前にいる。
胸がキュンとした。
ダビデは次の日も同じ時間にプールに現われた。そしてその次の日も、またその次の日も・・・ ダビデは毎日午後3時に市民プールにやって来た。
私はダビデに夢中になった。
43歳になった私が、年若い美しい青年に夢中になった。
好きすぎてダビデがプールに現れると目が離せない。
好きで好きでたまらない。
なんとかダビデに近づきたい。もっと近くであの美しい肉体を見たい。
それが私の願いになった。
いい歳をして美しすぎる青年にアプローチするのは気が引けた。
他人の目も気になる。
自分のくずれた体型も気になる。ダビデの肉体は完璧すぎるのだ。
でもダビデに近づきたい。
悶々としているうちに8月も終わり、市民プールで泳ぐ人もまばらになった頃、ダビデから私に話しかけてきた。予想もしなかったことだった。
本当に心臓が止まるかと思った。
ダビデは私に泳ぎを教えて欲しいと言った。
市民プールに来てからずっと私の泳ぎを見ていたのだと言う。
私は舞い上がり、必要以上の熱心さでダビデに泳ぎを教え、ダビデは燃えるような目で私を見ていた。
私とダビデは恋に落ちた。
43歳と25歳の恋だった。
私達がホテルに入るのに数日も要さなかった。
私から誘った。
私は部屋に入るなりダビデに全裸になるよう懇願した。
もどかしげに服を脱いでいくダビデを見ながら、私は夢想していたダビデの全裸を見れることに興奮した。
ダビデの一糸まとわぬ完全な肉体を私はついに見ることができるのだ。
ダビデがショーツに手をかけ、それを一気に下ろした時、私は息を飲んだ。
そこには美しい肉体の造形に不釣り合いなモノがあった。
◯ンタマが・・・でかすぎる。これじゃタヌキじゃないか。
美しい肉体が放っていた緊張感、絶妙な均衡感は完全にぶっ壊れていた。
私は全裸のダビデに様々なポーズを要求した。
どれもダメダメだった。
たるんだでっかい◯ンタマはどんなポーズも台無しにしてしまう。
その都度、私はベッドにうつ伏せになり枕に顔を押しつけ笑い転げだ。
間抜けすぎる。タヌキすぎる。
笑い転げる私の横でダビデは要求されたポーズのまま呆然としていた。
その日以降、ダビデは市民プールに現れなくなった。
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