やばい、まじやばい! 日本列島だけが500年前にタイムスリップした! 2,296 文字
やばい、まじやばい!
何がやばいって、俺たちの住む日本列島だけが500年前にタイムスリップしちまった。
あの日、海外との通信が途絶えた。
ネットも繋がらなくなった。
海外にクラウドを設置しているサービスも止まった。
入港予定だった船舶は現れず、海外からのフライトも途絶えた。
何が起きたのかよくわからないまま半日が過ぎた頃、在日米軍から驚愕の情報が政府に入った。
太平洋艦隊がレーダーから消滅した。世界で何かが起こっている。これは緊急事態だ。
在日米軍は本国だけではなく、どの国の米軍基地とも一切の通信が途絶えていた。
各国大使館も同様だった。
どの大使館も本国との連絡は一切取れなくなっていた。
日本政府が緊急会見を開いた。
「海外との通信だけではなく、物資の輸入も途絶えた状態にある。全力をあげ何が起こったかの解明を急いでいるので、どうかしばらく冷静に対応して欲しい。」
次々に不可解なことが判明した。
日本上空にある静止衛星以外、地球の軌道上に衛星が存在しなくなっていた。
日米合同で周辺海域を探索したが、船舶は1隻も見つからなかった。
偵察範囲を、台湾、朝鮮半島、中国沿岸部に広げたが、主要都市はおろか、人家すらまともに存在していなかった。
政府は在日米軍の全面協力を得て種子島から偵察衛生を打ち上げた。
そして驚くべきことが判明した。
衛星から送られてくる各国の写真には近代化された都市は皆無だった。
それどころか、ヨーロッパでは中世の世界が広がり。北米は草原だった。
偵察衛星から集められた世界各地の大気を分析すると、化学組成が500年程前のそれと酷似していた。
もはや日本政府、在日米軍の結論は1つだった。
日本列島以外は中世に戻っている。
否、日本列島が中世にタイムスリップしたのだ。
その時点で、日本列島にいる人間がいかに生き延びるかが、日本人の、そして日本で暮らす外国人の最大の関心事となった。
日本政府が中心となり、各国大使も集め、現代人である我々が生き残る道が議論された。
歴史を変えてはいけないという議論は・・・皆無だった。
とにかく何としても今の生活をできるだけ維持して生き残る事。
それが議論を通じて成されたコンセンサスだった。
石油の備蓄量はその時点で、わずかに60日分程度だった。
次世代エネルギーとして期待される核融合炉の実証実験は進んでいるものの、石油はまだ必要なので、日本に近いスマトラの石油採掘、精製工場の建設、稼働を2年で行うことになった。
当面の間は、現有する資源を徹底的に有効活用する統制経済へと移行することになった。
いつもは政府・与党案には反発をする野党、メディアも、その方針に関しての反対意見は出なかった。
輸出関連企業の連鎖倒産が続き街には失業者があふれ、生産、消費を極端に抑制する政策とも相まって、前代未聞の大不況となったが、必要物資の配給を基本とした統制経下で全国民は歯を食いしばって耐えた。
米軍、自衛隊は連携し艦隊を派遣し、スマトラを手はじめに世界の産油地(どこも未開の地だ)を確保した。
わずか約3年ほどで、米国、カナダ、中国、ロシア、中東地域(サウジ、イラク、クエート、カタール、アラブ首長国連邦、イラン)、ブラジルと、現代の生産量上位10国を含む地域における産油地を租借し、日本単独での開発を行える環境を作った。
開発は急ピッチで進み、約10年で小規模ではあるものの精製工場、港湾施設を稼働させ、日本への最低限の継続的なエネルギー供給は確保された。
今のところ統制経済はまだ続いてはいるが(だいぶ緩くなったが)、近代的な生活はほぼ維持されなんとか社会は回っている。
これで核融合炉が実現すればエネルギー供給については心配がなくなるだろう。
今、我々が来てしまった時代は、多くの学者が言うには多分15世紀ぐらいらしい。
世界人口はせいぜい4億人程度で、人口1億人の日本はこの時代では想像を絶する超巨大国家だ。
世界のどの地域においても食料生産性が極端に低いため、一億人の食料調達をいかに安定的に行うかが日本の喫緊の課題となっている。
今、青年海外協力隊が世界各地に派遣され、近代農法の普及活動や上下水道を含む基本的な社会インフラ整備などを進めている。
大手ゼネコンが請け負った食料生産地での港湾輸出基地の整備が進めば、食料調達問題は10年以内にほぼほぼ解決するだろうという話だ。
日本には世界を支配しようという野心はない。
自分達がこの世界で生き残るのが精一杯ということもあるし、民族自決が第一という考えもある。
だが超巨大&超近代国家日本の突然の出現は、中世の人々の価値観、世界観を大きく変えつつあるというのが実際のところだ。
日本をモデルとする議会制民主主義、市場経済が急速に世界に広まりつつある。
神聖ローマ帝国、フランク王国、スペイン王国、ポルトガル王国、イングランド王国、オスマン帝国は瓦解し、欧州・中近東が1つの巨大な経済圏となった。EUが500年早くできてしまった感じだ。
圧倒的海軍力を持つ日本を前に、スペイン国王による大航海時代は始まる前に終焉した。
南北アメリカもアジアもアフリカも、欧州の白人国家に蹂躙されることなく有色人種だけで近代化が進むはずだ。
日本にならい日本国憲法をそのまんま採用する国も続出している。
日本国憲法の採用は、9条の大きな矛盾はあるものの、人権を含めて中世の人々の従来からの価値観を大きく転換させることになるだろう。(コペルニクス的転換と言いたいところだが、コペルニクスはまだ生まれていない!)
天皇陛下が各国の象徴になってしまっているのがちょっと気になるが、とりあえずまあいいだろう。