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【独り語りのような】祖母のモツ煮


私はこれでも主婦でもあり、苦手ながら料理もする。

今日のような寒い日には鍋やおでんなどを作る。

この昨今の不況や物価の値上げのせいか、私が
お姑さんや、周りに「贅沢だね」と時々言われる
ものがある。

それが『モツ煮』である。

たしかに最近お肉コーナーのモツが高い。
そして手間も掛かる。

それでも私は買うし、作る。

毎年冬の寒い日になると、よく思い出すものがある。


それは、専業農家をやっている実家にある
ビニールハウスの中で焚かれた灯油ストーブの上で
ぐつぐつに煮込まれたモツ煮である。

小学生の頃、自宅の玄関にランドセルを投げたら
少し距離のあるビニールハウスまで走って行き、
扉を開けると必ず、両親と祖父母がいた。

お茶とお菓子などは大体この場所にあるので
学校が終わると必ず畑に行っていた。

その中でも私がずっと忘れられないのは
祖母が座っている椅子の横にある灯油ストーブ。

その上には必ず何か乗っていて、日替わりで
やかん、みかん、にんにく、そして大きい鍋。

焼きみかんや焼きにんにくは大好きだった。
当時気にせずにいたけど、焼きにんにくを
丸ごと食べてから遊んでいたので結構匂いが
きつかったかもしれない。

そして私が一番楽しみにしていたのが
大きい鍋の日だ。
その蓋を開けるとぐつぐつに暴れたモツ煮が
出来上がっている。

祖母が「今日は寒いからね」と言う日は
大体このモツ煮込みだった。

これが本当に美味しかったのを覚えている。

祖母は私が15の時に亡くなった。
私と祖母は喧嘩ばかりで、大体は万年反抗期のような
私が悪いことが多かった。
もうどうにもならない後悔は山ほどある。


さらに衝撃的な事実を知ったのは祖母の死後だ。
母親に何度か、モツ煮を作って欲しいと
頼んだことがある。

「モツ煮が好きなのはお祖母ちゃんと
あなただけだから作っても減らないのよ。
あと、お祖母ちゃんは食が細かったから
ほとんどあなたの為に作ってたのよ。」

何故そういう事は、失った後に知るのだろうか。

作り方も教わらなかったのも後悔した。
ネットで調べて作っても、お店で食べても
何かが違ってダメだった。
それから数年間、作るのも飲食店を探すのも
諦めていた。

しかし、意外な場所で運命的な出会いを
する事になった。

当時、仲良くしていたバンドが主催イベントを
する事になり、バンドメンバーが料理を振る舞う
という珍しい企画が開催された。(※コロナ禍前)

その時、ギタリストの人が「俺は料理出来ないから
嫁の一番美味い手料理を作ってもらってきた」と
カセットコンロに大きい鍋を置いた。

ふたをあけたら、モツ煮込みだった。
唐突にすごく懐かしい香りがして、思わず
泣きそうになった。

器によそってもらい、一口食べた。

美味しい、本当にすごく美味しかった。
でもこの味はよく知ってる味だった。

「作り方を教えて欲しい」と思わず頼んでしまった。

教えてもらった作り方は、私が使っていた
出汁が違った。全く使った事ない出汁だった。

そしてやはり
「衝撃的な事実を知ったのは祖母の死後」なのだ。

最後に言われたのは
「これが材料全部で、これを3日間くらい煮込んでね」


みっ、、、3日!!!???


私の祖母は「今日は寒くなるからね」と
一段と寒い日に必ずというほど食べさせてくれた。
それを、3日前から用意していたというのか、、、。

もちろん、同じ作り方とは限らない。でも、
具材の食感、柔らかさ、味の染み方で
同じくらい手間が掛かるものだとわかる。


喧嘩ばかりして、悪いことばかりしてた。
祖母からすれば兄弟の中で一番クソガキな
孫だったと思う。

それでも私はその味を忘れない。
そして、実は一昨日からずっと煮込んでいるので
今日には晩ご飯で食べようと思う。


今日はとても寒くなるからね。




最後まで読んでくれてありがとうございました。

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