ヒロシマにて
変形性膝関節症と診断されてから一年以上経った。傷ついてしまった軟骨さんは再生しないので、膝は一生治る事がない。膝はある角度で動かすといつでも激痛が走る。無意識にちょっと動かして「痛っ」となることは日常茶飯事だ。習慣だったランニングで走ることも少なくなった。1日走って3日安静、ノルディックウォーキングでも痛むので休み休み、ごまかしごまかしやっていたのですっかり身体がなまってしまった。ストレッチしたりヒアルロン酸うったり何をどうやっても痛いので安静にしていても無駄だなと思い走ることにした。
恐る恐る走り出してみたけれど全然息が続かなくなってしまったことに愕然とし、悄然とした。それでも気を取り直して毎日なんとか少しづつ続けた。
そうしているうちに目標が出来た。
広島を走るイベント、広島ランオフ。
参加しているオンラインサロンにランニング部がある。フルマラソンに挑戦する有志たちは金沢マラソンに出場する。このマラソンは人気があり抽選になるそうで、これに漏れたメンバーと何か別のイベントをやろう。こっちは広島を走るぞ。ということになった。
手を挙げたのは5人。
想定のコース、オフ会がメインなので走る距離は5〜6キロだ。
だが今の私には到底完走できそうもない。
我がランニング部のスタンスは『無理しない』だけれど。
「せめて3キロ」は走りたい。
それが目標となった。
走っていなかったのでシューズの新調も棚上げになっていた。これを機会にランオフまでに買うことにした。ずっとONのシューズを実店舗で買おうと思っていたが田舎には種類がなくネットで買うのも躊躇われ、そのまま前のシューズで走り続けていたのも膝に悪かったのかもしれない。
天啓のように、たまたまその時期zoomで会ったクラブのメンバーさんに「HOKAが良いですよ」と教えて貰う事が出来て、翌日早速誂えた。
走ってみるとものすごく調子が良い。
足元がガッチリ固められて動かない。クッションは固めで走る時に前より負荷がかかって走りは重くなったが、クッションが軽すぎて膝を痛めたのか、とわかった気がする。走りやすさは必ずしも身体に良いわけじゃないんだ。購入時に勧められた中敷が最も効果的で、最初は違和感があったのだけれどフォールド感がだんだん心地よくなった。
それでも3㌔〜4㌔まで。
メンバーに少し短い距離を設定して貰い、少し安心して当日を迎える。
住んでいる場所から3時間かかるバスに乗り込んで嫌な予感がした。想定より座席が狭くて足が伸ばせない。「マズい」。確実に膝に来る。3時間いろいろ動かして足を伸ばそうとしたけれどやはり降りるころには違和感があった。
しばらく歩いてならすと大抵痛みがなくなるが、今回は少し良くなったけれど痛みがなくなることはなかった。
それでも、迎えに来てくれた仲間たちに出会ってしまうとそんなことは吹き飛んでテンションが上がっていった。
出会ってすぐお土産を頂いて、何も用意してなかったことを悔やむ。りんごプリッツに推しポン酢。どら焼きにハンドクリーム。
ありがたや。
目的のランステまでずっと喋りっぱなしだった。
田舎住みとしてランステのかっこよさに目がクラクラした。狭い店舗にシャワーとグッズ、スムージーとおしゃれランステを初体験!
準備が済んだら早速ランニング。
スタート地点近くの公園に集い、談笑し準備運動をはじめる。やっぱり膝は少し痛む。念入りに伸ばす。
距離の長いチームと短いチームとで反対から走ってやがて合流する、というコースだ。
私たちは平和公園を通って広島城を目指す。
平和公園へ来たのは多分修学旅行以来で、感傷に浸る。私たちが受けた平和教育が過去のものであることを最近実感する機会があった。地域性もあるのだが、禎子さんの悲劇(原爆症でなくなった少女と折り鶴の話)は世間一般の常識ではなかったし、今では平和教育自体がバイアスかかっているものとされているようだ。不勉強で知らなかった。
そんな感傷に浸っている場合でもなく、走り出して膝はとても良いとはいえず、庇いながらのランとなってしまい、一緒に走ってくれる仲間には先に行ってくれと頼んでとりあえず走る。しばらくすると慣れて来るが痛みはどうしようもない。歩いてくれる距離が長くなった。とりあえずの目標広島城に着くとものすごい人だかりでなにやらお肉のイベントがあるようだ。人混みに巻き込まれ思うように進めなくて結局お城の麓まできた。せっかくだからお城をよく見ようということになった。
可愛らしい猫を石垣に発見し激写、受付の方に聞くといつもいる猫ちゃんらしい。
お城を巡りを趣味にしている仲間も合流してお城の天守閣で広島を眺める。原爆の日に崩れ去ったお城は燃えることがなかったそうでその建材は復興のため持ち去られたりしたそうだ。戦後再建された時には市民も喜んだだろうと想像する。
結局ランニングはそこで終わってしまい引き返すコースは走れない私に気をつかって歩いて戻る。申し訳無い気持ちとありがたさと両方の気持ちだった。
走るはずが歩きとなったので途中でランチする予定のお店に遅くなる旨を告げ、オンラインで集合するはずだった仲間と平和公園噴水のところでzoomを繋げ会うことが出来た。
ランステに戻り身なりを整え、ランチ予定の穴子のお店へ。遅れたのに全く嫌な顔ひとつせず案内してくれるお姉さん。素敵だ。
炙りと焼きで二手に別れたのに対してお姉さん「炙りは煮たのを焼くので普通の焼きが美味しいですよ」に、全員もれなく普通の焼きに手を上げた。
店員さんのオススメにハズレ無し、本当に美味しかった。何よりみんなで食べてるのが美味しい。
私たちが集っているとなんの集まりなのか問われることがよくある。年齢もバラバラだし、さもありなん。「オンラインのランニング部なんですよ」というと大抵驚かれる。
「全国各地から来てます」というとさらにびっくりされる。ランステの店長も感心していた。
こんなふうに集まれるなんて、私が一番驚いている。全く普通のおばさんで全国に散らばる仲間とごくたまに顔をあわせて走ったりご飯を食べる。そんな面白いことが我が身に起ころうとは。とにかくこの日は多幸感でいっぱいだった。
みんながランニング出来なくなって申し訳なかったけれどわたしは楽しくて仕方なかった。それでも次回にはもう少しマトモに走ろう。
旅の締めくくりは折り鶴タワーで風に吹かれてゆったりとした時間を過ごす。
もう少しでみんなとお別れ。
修学旅行以来の広島は、普段せかせか時間に追われる生活から離れて非日常で染み入るように楽しかった。
まだ残る仲間たちを羨ましく思いつつ帰路に着く。
こんな楽しい遠足をいい歳になってから体験できるなんてわからないものですね。
フツウのおばさんにもどります。
さて、次は京都にて。
また会いましょう。
#PLANETSCLUB #ランニング