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医療者として大事なことは、患者さんの倦怠感に気づいてあげることなのです【医】#61

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「がん患者さんが訴える倦怠感」です。

動画はこちらになります。

とても多くのがん患者さんが倦怠感に悩まされているという事実を、あなたはご存じでしょうか?もしかしたら、あなたの患者さんにもそういう人がいるかもしれません。

けれども、多くのがん患者さんはそのことを主治医に相談できないでいるのです。それには理由があります。

今日は多くのがん患者さんを悩ませる倦怠感についてお話します。

がん患者さんの倦怠感は具体的にどのようなものなのか。

がん患者さんの倦怠感をなぜ見逃してはいけないのか。

なぜ患者さんは主治医に相談できないのか。

この記事では、患者さんの倦怠感にどうやったら気付くことができるのかまでをお話します。

この記事は、研修医などの若いドクターや、あまりがん患者さんに接する機会の少ない先生、がんの倦怠感について詳しく知りたい方に診ていただきたい記事です。ぜひ、最後までご覧いただき、実際の臨床に役立てていただければ幸いです。

今日もよろしくお願いします。


倦怠感を見逃すな!

私は大学病院の緩和ケアチームで働いています。

緩和ケアチームは、主治医からの紹介で患者さんを診察します。身体症状では、疼痛・呼吸困難・消化器症状などの緩和をしてほしいという紹介が多いです。

しかし、倦怠感を何とかしてほしいという依頼はほとんどありません。にもかかわらず、緩和ケアの診察をする中で、実は倦怠感を訴える患者さんは最も多いのです。

私の日々の診察の視点から見ると、倦怠感は、疼痛・呼吸困難・消化器症状といった、がん患者さんを悩ませる身体症状と同じくらいつらい症状であり、場合によってはそれ以上つらい症状なのです。中には、「倦怠感のせいで家から一歩も出られない」という訴えをされる方や、「こんなにしんどいなら、抗がん剤治療は続けられない」という訴えをする患者さんもいます。

ここからわかることは、倦怠感は、がん患者さんに生じる最も頻度の高い、つらい症状にもかかわらず、とても気が付きにくく、分かりにくい症状だということです。しかし、倦怠感を放置しておくと、患者さんのQOLは著しく低下します。

医療者として大事なことは、患者さんの倦怠感に気づいてあげることなのです。

そうは言っても、どういうことか分かりにくいかもしれませんので、まずは、がん患者さんによくある倦怠感の例をお話して説明します。


多くのがん患者さんは倦怠感を抱えている

緩和ケア外来に、あるがん患者さんが、次にする予定の抗がん剤治療をやめたいと相談にきました。彼が抗がん剤をやめたいと思った理由は、なんと「倦怠感」でした。

「身体が毎日重くて、しっかり寝てもしんどさは改善しません。最近は起きて食事をすることすらしんどいほどです。仕事にも行けません。この上、抗がん剤の副作用が出てきたらと思うと不安で仕方がありません。主治医の先生は『血液データも問題ないし、抗がん剤治療はできる状態です。』と言っていました。データは問題なくても、今でもこんなにつらいのに、もっと大変になると思うと、とても耐えられそうにありません。でも、主治医の先生は、身体のだるさくらいっていう感じで、わかってくれないんです。」

彼はこのように言いました。

これを聞いてどう思われましたか?

若い先生の中には、倦怠感くらいで、生死に関わる抗がん剤治療をやめるというのか?と驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。

でも、そうなんです。生死に関わる抗がん剤治療を続けることが難しいくらい、患者さんにとっては倦怠感はつらいものなのです。

がん患者さんの8~9割もの方が、倦怠感に悩まされているという報告もあります。外来通院中のがん患者さんの約6割の方が、倦怠感によって日常生活に影響が出ています。

疼痛は22%、嘔気・嘔吐は18%程度だと言われていますので、倦怠感は最も多くのがん患者さんを悩ませているがんの症状だと言ってもよいでしょう。

倦怠感によって、生活や治療に悪影響が出ます。例えば、食事の支度もできず、ほぼ一日中横になっているとか、先週1週間仕事を休んでしまったとか、習慣だった犬の散歩にも全く行けずつらいとか、先程の例のように、今こんなにしんどくて何もできないのに、この上抗がん剤をすると、寝たきりになってしまうのではないか、と心配する人もいます。

このように、多くのがん患者さんは、倦怠感によって、生活や治療が難しくなる場合が多いのです。


がん患者さんの倦怠感は単なる疲労ではない

先程もお話しましたが、がん患者さんが訴える倦怠感は、単に疲れているという程度ではありません。一般の健康な人の倦怠感とがん患者さんの訴える倦怠感は質的に全く異なる病態なのです。

誰でも、倦怠感を感じたことが一度はあると思います。

少し考えてみてください。あなたはどんな時に倦怠感を感じますか?

その時感じた倦怠感には、徹夜やハードな活動などの、はっきりとした原因がありませんでしたか?

一方、がん患者さんの倦怠感は、そういった明らかな原因があるものと、原因がないものがあります。多くは原因が無いものですが、一部、原因がはっきりしているものは治療できることが多いので、倦怠感の原因をアセスメントすることは重要です。

また、健康な人の場合の倦怠感は、一時的で、休息などで改善できることが多いのですが、がん患者さんの場合は、何カ月も続き、しっかり寝ても十分には改善できないことが多いのです。

その結果、先ほどの患者さんの例のように、QOLやADLの低下をもたらし、生活上の問題だけでなく、がん治療にも支障が出てきます。

がん患者さんの訴える倦怠感は、単なる疲労ではなく、疼痛・呼吸困難・消化器症状などと同じくらい、あるいはそれ以上につらいものであることを理解してあげてください。


倦怠感はわかりにくい

そんなにつらい倦怠感なのに、多くのがん患者さんは、先ほどの患者さんのように、倦怠感を感じていても、自分からは訴えてこないことが多いです。なぜなら倦怠感は疲れたりすると誰でもなるものだ、仕方がない、治療法もない、と諦めている患者さんが多いからです。

また、怠けている、頑張りが足りないなど、自分のせいだと思う患者さんも多いです。そして、これは医療者側も同じで、単に疲れているだけだとか、あの患者さんは少し頑張りが足りないようだとか、倦怠感を過小評価してしまうことも多いのです。

しかし、先ほども述べましたが、がん患者さんの倦怠感を放っておくと、QOLやADLの低下をもたらし、生活上の問題だけでなく、がん治療にも支障が出てきてしまうことも多いのです。

したがって、医療者はがん患者さんの倦怠感を過小評価しないで、医療者の側から積極的に聞いてあげる必要があります。

そうは言っても、がん患者さんが訴える倦怠感が本当にはどのようなものなのか、とらえにくいことが多いです。その理由の1つとして、倦怠感は一般的に「だるさ」として表現されることが多いですが、「だるいですか」と尋ねるだけでは相手には伝わらないことが多いからです。

慢性疲労症候群の患者さんを私は昔よく診ていました。慢性疲労症候群の患者さんも、そのしんどさで、仕事も家事も手につかないほどですが、見ただけではわかりにくいのです。その患者さんの訴える倦怠感と、がん患者さんの訴える倦怠感は、捉えにくいという点で、とても似ているように思います。

また、倦怠感は患者さんの訴えによって判断しなければいけないものですが、地方によって「だるさ」の表現は独特なことがあります。

私は香川県出身ですが、「だるい」というよりも、「えらい」と表現する人が多いと思います。他にも、「こわい」「しんどい」「たるい」などと表現する地域もあるようです。あなたの地元では「だるい」ということをどんな言葉で表現しますか?

また、「だるいですか」と尋ねても「だるくはない」と答えた後、「疲れやすいですか」と尋ねると「はい」と答えることがあったりします。それは、その人の倦怠感の感覚が微妙に違うからだと思われます。

ですから、「疲れやすいですか」「億劫になりますか」「横になりたいと思うことは多いですか」などと、いくつか言い換えた質問を複数回行う必要があります。

まとめますと、がん患者さんの倦怠感は、見た目よりも重篤なことが多いにもかかわらず、自分からは打ち明けることが少なく、放っておくと患者さんのQOLを下げてしまうことに繋がります。

また、患者さんに倦怠感を聞く際にも、工夫が必要であり、方言に気を付けたり、別の言い回しの質問を複数回するなど、上手に患者さんの倦怠感を聞くことが大切になってきます。


2種類の倦怠感

倦怠感には一時的倦怠感と二次的倦怠感があります。

一時的倦怠感は、がんが進行することで起こりますが、はっきりとした原因がわからないものです。がん患者さんの倦怠感のほとんどはこの一時的倦怠感です。

二次的倦怠感はがんが進行することで起こるのは同じですが、はっきりとした原因がわかるものです。

一時的倦怠感は、がんから発生するサイトカインが関連していると言われています。一時的倦怠感は一過性のものではないので、長期間継続し、単に休息しただけでは、簡単に消失しないので、患者さんのQOLを大きく低下させます。

一時的倦怠感は、がんがあることで起こるため、がん自体を無くさなければ解消されません。しかし、ステロイドなどの薬剤がとても効果を表すことがありますので、ぜひ使い方をマスターしていただければ嬉しいです。

その他にも、倦怠感を軽くする様々なケアもありますが、医師だけでなくチームを組んで対策する必要があります。

今回の記事では、二次的倦怠感にどう対応するのかを詳しくお話します。一時的倦怠感の治療やケアについては別の記事を作る予定です。

二次的倦怠感は、がんが進行することで起こる、身体の変化の中で起こるものです。二次的倦怠感には色々ありますが、はっきりとした原因があるものが多いということが特徴です。

例えば、貧血、感染、脱水、電解質異常、内分泌異常、栄養障害、肝臓・腎臓などの臓器障害、精神症状などです。抗がん剤に代表される薬剤も倦怠感を起こします。そして原因がわかるものは、多くの場合改善できます。

例えば、抗がん剤治療を長期間続ければ、貧血を起こすことがあります。貧血は、輸血をすることで改善できます。感染や脱水も、抗菌剤の投与や、輸液によって治療ができ、それらによる倦怠感も改善することができます。ただし、がんが進行することで起こる肝臓・腎臓などの臓器障害は、それ自体が回復困難なので、それに伴う倦怠感も改善できないことが多いです。

二次的倦怠感の中でも、とても見逃されやすく、特に注意していただきたいものが1つあります。それは、精神症状です。うつや不眠がひどくなってくると倦怠感も増してくるのです。

倦怠感は精神症状の一つの表現であることも知っておきましょう。精神症状の対応は難しいので、精神科・心療内科・緩和ケアチームなどの専門家にコンサルトしましょう。

以上、がんの症状でとても多いにも関わらず、見逃されやすい、倦怠感についてお話してきました。この内容をぜひマスターして、患者さんが訴える倦怠感をしっかり受け止めてあげてください。


あなたに伝えたいメッセージは

今日のあなたに伝えたいメッセージは

「倦怠感は、がん患者さんに生じる、最も頻度の高い症状にもかかわらず、あまり重要視されていない症状です。しかし放置しておくと、患者さんのQOLは著しく低下します。まずは患者さんの倦怠感に気づいてあげることから始めましょう。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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Dr.Tosh /四宮敏章
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