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【医】グリーフケアとしてのエンゼルケアを緩和ケア医が伝えます#119

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr.Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「グリーフケアとしてのエンゼルケア」です。

動画はこちらになります。

今日は医療者、特に看護師の方にお話しします。

エンゼルケアを看護師の方で知らない人は少ないのではないでしょうか。最近では、ご家族も一緒にエンゼルケアをしているところも増えていると聞いています。

実は、エンゼルケアは、単なる死後の処置だけではありません。グリーフケアとしてとても大事なものなのです。

亡くなられた後の患者さんの顔や表情が穏やかであることは、ご家族にとってとても大切です。そのことが、後々の遺族が立ち直るモチベーションになることがあります。

今日はグリーフケアとしてのエンゼルケアについてお話します。

この記事を見ることで、ご家族がエンゼルケアに参加することが良いことだと知り、ご家族と一緒にエンゼルケアをしたいと思う看護師が増えればうれしいです。

今日もよろしくお願いします。


エンゼルケアはグリーフケア

私がホスピス医になったばかりの頃です。ある80代の女性の患者さんがホスピスで亡くなりました。

娘さんはずっと付き添っていましたが、付き添い中もつらくてよく泣いていました。「お母さんが亡くなったのはとてもおつらいだろうな。」と思っていたところ、娘さんが満面の笑顔で私のところに走ってきたのです。

彼女は私に言いました。「先生、記念写真を撮りましょう。」と私を亡くなった患者さんのところに連れて行きました。

「記念写真?もう亡くなっているのに?」と思いながらついていくと、エンゼルメイクにより、とても美しくなった患者さんの姿がありました。

私たちは、亡くなった患者さんとともに、最期の記念写真を撮りました。娘さんは、エンゼルメイクをされたおかあさんがあまりに美しかったので、記念写真を撮ってほしいと思ったそうなのです。半年後の遺族会でも、娘さんは嬉しそうにその時のことを語ってくれました。これは私にとって衝撃的な出来事でした。

お化粧1つで、ご家族のつらい気持ちを一瞬で笑顔に変えてしまう、エンゼルメイクのすごさを初めて体験した瞬間でした。

エンゼルケアとは、死後に行う処置、保清、エンゼルメイクなどの全ての死後ケアのことで、逝去時ケアとも呼ばれます。病院であれば、患者さんがお亡くなりになった後、お見送りするまでを指します。つまり、エンゼルケアとは、ご家族への対応なども含んだ臨終後の全てのケアのことをいいます。

一緒に身体を拭いて「よく頑張った。きれいな体にしてもらおうね」と患者さんに声をかけ、体に触れることが、ご家族自身も最期のケアに参加しているという気持ちになれるのです。

また、生きていたころのその人らしい顔にすることで、患者さんの尊厳が守られたという気持ちにもなります。穏やかな顔で旅立てたということは、後々の遺族の適応にプラスになったという報告もあります。

ご家族が、亡くなった患者さんへのエンゼルケアに参加することは、グリーフケアに繋がります。

ご家族の気持ちに配慮することは必要ですし、無理強いはいけませんが、ご家族にもエンゼルケアに参加してもらうことはとても良いことです。


エンゼルケアにご家族が参加する意義

日本において、エンゼルメイクを定着させた看護師の小林光恵さんは、エンゼルメイクについてこのように言っています。

「エンゼルメイクは、その人らしい顔を残すことを重んじる、日本人の死生観や遺体観と関係が深いのです。日本には、遺体の状態が、死後の世界での死者の霊の安寧と深くかかわっているとする信仰があります。安らかな死に顔によって遺族の心が慰められるのです。一方、遺体がどんなに無残な状態になっていたとしても、あるいは人間の形をとどめていない身体の一部であったとしても、確認することへのこだわりが強いのも、日本人の特徴だと思います。エンゼルケアは、遺体の清拭や整容、保清などのケアを通して、患者さんの尊厳を保ち、遺族の悲嘆や喪失の過程をサポートするグリーフケアの1つと捉えることができます。」

ホスピスで亡くなった患者さんのご家族への、エンゼルケアについての調査結果があります。80%近くが、エンゼルケアについて満足であった、と答えています。

「穏やかな表情にしてくれた」
「生前と同じような扱いをしてくれた」
「家族の意向を聞いてくれた」

などの具体的な回答がありました。

またエンゼルケアに参加した家族は全体の40%程度でしたが、参加した家族の90%が、一緒にケアをしたことに満足だった、と言っています。そして、

「個人への感謝の気持ちが持てた」
「死別へ気持ちの整理がついた」
「ケアを行ったことの満足感が得られた」

などと答えています。

さらに40%以上の人が、「看護師に勧められなかったら、エンゼルケアには参加しなかった」と答えており、看護師からの声掛けは大事であると思います。

このような声掛けはいかがでしょうか。

「今から看護師が○○さんのお体をきれいに拭かせていただきます。お着替えが終わった後、よろしければ一緒に手や足、お顔を拭かれませんか?」

また別の研究では、エンゼルケア参加の家族のほうが不参加の家族より、エンゼルケアを経験することによって家族の死を受容しやすいと報告しています。エンゼルケアの経験は、悲嘆について特に差はなかったそうですが、家族が死亡するという出来事に適応できる傾向があったそうです。

エンゼルケアを死亡直後に体験することにより、死を早期から受容できる可能性が考えられます。そして、エンゼルケアは、看取り後の家族にとって、満足をもたらす経験であるかもしれません。

一方で、「身体の傷や腫瘍、管が入っているところは見たくなかった」「陰部は見たくなかった」というご家族もいました。エンゼルケアを希望されたご家族でも、ドレーンなどの抜去や陰部の洗浄などは看護師が行い、それが終わってからご家族と一緒にケアをすることが望ましと考えておいてください。

以上、エンゼルケアをご家族と一緒にすることの大事さについて話してまいりました。

ご家族と一緒に行うエンゼルケアは、その後のご家族のグリーフケアに大いに関係があります。できるだけご家族とエンゼルケアをするような関わりをよろしくお願いします。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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