
ステロイドを超有効に使うための4つの大切なポイント【がんの倦怠感】【医】#65
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「倦怠感におけるステロイドの扱い方をマスターする」です。
動画はこちらになります。
ほとんどの終末期のがん患者さんは倦怠感に悩まされています。これらのがんの終末期におこる倦怠感は一般的に治療が難しいと言われていますが、長年緩和ケア医をしてきて、ステロイドはとても有効だと私は思っています。
私の病院でもこのような倦怠感の緩和の依頼を受けることがありますが、ステロイドの効果を実感した治療医の先生から「自分も使えるようになりたい」と相談を受けることがよくあります。
治療医の先生にも積極的にステロイドを使い、患者さんの倦怠感を楽にしてあげてほしいと思い、今回はステロイドの有効な使い方について詳しくお話したいと思います。
この記事は、がん治療医の先生、ステロイドを効果的に使いたい先生、がんの倦怠感の治療について詳しく知りたい方に観ていただきたい記事です。ぜひ、最後までご覧いただき、実際の臨床に役立てていただければ幸いです。
今日もよろしくお願いします。
終末期の倦怠感にステロイドは有効!
前回の記事で、悪液質が原因の倦怠感の治療薬として、エドルミズ®が有効であることをお話しました。
ところが、悪液質が進行して不応性悪液質になると、エドルミズ®では効果は出なくなるということもお話しました。
ではこの不応性悪液質の時期の倦怠感の治療薬はないのでしょうか?
実は、あるんです。それは、ステロイドです。
私はこの時期に倦怠感を訴える患者さんには、ステロイドを積極的に使います。ステロイドは、一時的倦怠感の中でも、特に不応性悪液質となった悪液質が原因の倦怠感、すなわち終末期の倦怠感に対して、とても効果的な薬剤だと私は実感しています。ステロイドの効果が出てくると、多くの患者さんは倦怠感が解消し、元気になります。その時に、たとえ終末期であったとしても、自分に残された課題や、やり残したことをすることができるのです。
しかし、注意していただきたいのは、ステロイドには有効な「時期」というものがあるということです。それより早くても遅くても効果的ではありません。
ステロイドが有効な「時期」は、患者さんの余命が、短い月単位の頃からです。すなわち余命が2~3カ月くらいになった頃です。この時期に使い始めると、ステロイドの効果がはっきりわかります。
一方、余命が短い週単位、すなわち2~3週間以内になると、効果は得られないばかりか、むしろ、不眠・せん妄や体液貯留などの有害事象が生じてくるので、ステロイドは減量、中止が望ましいと思います。
また、余命が3ヶ月以上の長い時期に使い始めると、効果も少ないばかりか、結果として長い期間ステロイドを使うことになるので副作用が出てくることがあります。
余命が3ヶ月以上の長い時期の倦怠感には、ステロイドではなくエドルミズ®を使う方が効果的です。ただし、エドルミズ®に関しては限られたがんにしか使えませんので注意してください。エドルミズ®が使えないがんについては漢方薬などが使えますが、それについては別の動画で説明します。エドルミズ®に関して詳しくは前回の記事をご覧ください。
いずれにせよ、ステロイドには有効な「時期」があるということが、重要なポイントです。
それでは倦怠感を訴える患者さんに対する、ステロイドの有効な使い方について具体的にお話していきたいと思います。ポイントは次の4点です。
1倦怠感の原因が一次的倦怠感であることをアセスメントする
2ステロイドの効果的な投与時期かどうかをアセスメントする
3基本的にコルチコステロイドを使う
4ステロイドは漸減法で使う
それでは、具体的に見ていきましょう。
倦怠感の原因が一次的倦怠感であることをアセスメントする
前回の記事でも申し上げましたが、倦怠感は大きく分けて二種類あります。一時的倦怠感と二次的倦怠感です。
二次的倦怠感にははっきりとした原因があり、その原因を治療することで倦怠感を取ることができます。例えば、貧血、感染、脱水、電解質異常などです。二次的倦怠感の具体的な治療に関しては、以前の記事で解説していますので、そちらをご覧ください。
原因がはっきりしている二次的倦怠感ではなかった場合、一時的倦怠感だとアセスメントします。その場合、エドルミズ®かステロイドの投与を考えてください。時期によってエドルミズ®を使うかステロイドを使うか変わってきます。
次にその使い分けのお話をします。
ステロイドの効果的な投与時期かどうかをアセスメントする
先ほども申し上げましたが、余命2~3カ月になった頃がステロイドの効果がある投与時期です。しかし、なかなか患者さんの余命を見定めることは難しいですよね。
一般的に余命2~3カ月の時期は、がんの進行速度が速くなり、抗がん剤治療が難しくなり、中止する時期です。倦怠感の訴えも、「動くのが億劫になった」「最近疲れやすい」「動くとだるいので、休みがちになる」などの比較的軽い訴えから「だるいので、横になっている時間が増えた」「横になってもしんどさは変わらない」「少し動くだけで身体中が気怠い」などの訴えに変わってくることが多いです。
こういった時が余命2~3カ月だと考えてください。
この余命2~3カ月の頃にステロイドを使うとがん終末期の一時的倦怠感にはとても効果があります。ステロイドがサイトカインによる炎症反応を抑える効果がありますが、この時期に使うとその悪影響が無くなるので元気が出てくるのではないかと私は考えています。
一方、余命が1カ月を切る頃になると、患者さんの倦怠感の訴えは「だるくて、一日のほとんど横になっている」「横になっていても身の置き所が無い」といった訴えに変わってきます。
もし今までステロイドを使用していたとしても、ステロイドの効果がないな、と感じるようになるでしょう。経験的に、ステロイドを使っていても、倦怠感が増していると感じるようになると、私は患者さんの残された時間はだいたい数週間だと思っています。
このような時期になって体力が無くなった時にステロイドを使っても、サイトカインの勢いの方が強くなってそれを抑えられなくなるので効果がなくなると考えられます。
この余命1カ月未満の時期にステロイドを使用・継続すると、長期に使うことになります。したがって、不眠、せん妄や体液貯留などの副作用が前面に出てきてしまうので、余命1カ月未満の時期にはステロイドの減量・中止を考えてください。
また、治療中の場合はだいたい余命が3ヶ月以上ありますが、その時期の倦怠感にステロイドを使っても、効果が少ないばかりか、結果として長い期間ステロイドを使うことになるので副作用が出てくることがあります。
この時期でエドルミズ®が使えるがんであれば、エドルミズ®を使うと、とても効果があります。逆に言うと、エドルミズ®の効果がなくなってきた頃が、ステロイドの有効な時期だとも言えます。エドルミズ®の詳しい使い方は以前の記事を参考にしてください。
まとめますと
余命3ヶ月以上の時期には、ステロイドではなくエドルミズ®が使えるがんであれば、エドルミズ®を使います。
実際にがんが広がっている、さらに患者さんの倦怠感の訴えが変わってきたと判断したら、余命2~3カ月と考え、迷わずステロイド投与をしてください。
余命1カ月未満の時期にはステロイドを減量・中止します。
具体的なステロイドの投与法
私をはじめとする多くの緩和ケア医が倦怠感の緩和に使用するステロイドは、コルチコステロイドです。商品名はリンデロン®、デカドロン®です。
なぜコルチコステロイドを使うかというと、他のステロイドに比べステロイドとしての力価が強いこと、半減期が長く安定していることが挙げられます。コルチコステロイドはとても効果がある反面、長期・大量に使用すると、せん妄をはじめとするステロイド精神病になりやすいので、その時には、減量・中止を考えてください。あるいはプレドニゾロンのような他のステロイドにスイッチすることが良い場合もあります。
倦怠感の緩和にコルチコステロイドを使う場合の量は、私の経験的に4~8㎎/日が適量です。量については少し後で詳しくお話します。
ステロイドの導入には、少ない量から増量する漸増法と、多い量から開始し効果が出たら減量する漸減法の二種類があります。
私は多い量をはじめから投与する漸減法を採用しています。なぜなら、患者さんの倦怠感を早く取ってあげることができるからです。効果が早く出る漸減法の方が良いと考えています。
いきなり多い量のステロイドを投与すると、感染を悪化させたり、糖尿病の患者さんなら高血糖が問題になるのでは、と心配する先生もいるかもしれません。しかし、この時期の患者さんにいきなり大量のステロイドを投与しても私の経験上、ほとんど問題はありません。その理由は、長期間使わないからです。感染症がある場合には抗生物質を併用すること、糖尿病の患者さんは定期的に血糖をチェックすることでほとんどの場合対応可能です。
問題になってくるのは、2か月以上の長期投与になった時です。
もし、早い時期からステロイドを使用して、2か月以上経過した時には、日和見感染防止のため、バクタ®を半錠~1錠/日の予防投与を行います。患者さんの腎機能が悪い場合は、薬剤師と相談してバクタ®の量を減らします。
また、口腔内カンジダ症も発症しやすいので、必ず口腔内の診察と、患者さんに最近舌がピリピリしていないかなどの問診が必要です。
もし口腔内カンジダ症になっていた場合の治療法としては、うがい薬、軟膏などの抗真菌薬を使用します。薬を使用することで、ほとんどの場合、早期に症状が軽快します。
ステロイドを長期に服用すると、胃粘膜障害を起こしやすくなります。Nsaidsが併用されていると、特に起こしやすいので、PPIなどの胃薬は忘れずに処方しておきましょう。
ステロイドの量に関してですが、私は外来ならデカドロン®4㎎錠を1錠、朝に内服処方します。1~2週間で効果判定をし、効果があるなら2~4㎎/日で継続します。
効果がないなら速やかに中止します。
また入院中なら、リンデロン®あるいはデカドロン®を6㎎~8㎎、朝に点滴します。その方が内服よりも効果が早く出るからです。これも3日から1週間程度続けて、効果があるなら2㎎~4㎎に減量して継続します。効果がないなら速やかに中止します。
注意点として、ステロイドは夕方以降には使用しない、ということです。なぜなら、夜寝られなくなることがあるからです。
先ほど、余命1カ月を切った場合、ステロイドの効果はないとお話しましたが、患者さんの余命がわからなくて、ステロイド投与をすべきかどうか迷うことがあるかもしれません。その場合、迷ったらステロイドを投与してみてください。
効果があれば、余命は1カ月以上あると考えて継続します。逆に効果が無ければ、余命は1カ月を切っている可能性が高いので、ステロイドは中止します。そしてその場合、私は患者さん・ご家族には終末期後期の状態であることを伝えて、終末期に備える準備を促しています。
ステロイドの効果が無くなった時の倦怠感の治療・ケア
余命1カ月未満の終末期になると、ステロイドが効かなくなることは先ほどお話しました。ステロイドが効かなくなったら、ステロイドは減量・中止しますが、この時期の倦怠感はどのように対応したら良いでしょうか。
余命1カ月未満の終末期の時期は倦怠感を取るというよりは、むしろ倦怠感とうまく付き合うという事に目標をシフトします。
エネルギー温存療法というものがあります。エネルギー温存療法は、普段はできるだけ横になった状態で、主として休息を十分に取りながら、患者さんにとって大事な活動をしたいときに動くということです。エネルギー温存療法は休息すること自体が治療です。
また、この時期は特にアロマセラピー・マッサージも効果のあるケアです。余命1カ月未満の終末期には、薬の投与よりも、患者さんが気持ちが良いと思えることをすることが、倦怠感を取る最も良いケアです。
また、患者さんの余命が1週間未満となった場合、倦怠感が増し、身の置き所のなさが十分に取れないこともしばしばあります。その時には鎮静も考慮する必要があるかもしれません。鎮静に関しては詳しい記事がありますので、参考にしてください。
以上、がん患者さんが訴える一時的倦怠感に対しての、ステロイドの有効な使い方についてお話してきました。がん患者さんが訴える一時的倦怠感に対して、適切な時期に適切な量のステロイドを投与して、患者さんの倦怠感を軽減してあげてください。
あなたに伝えたいメッセージ
今日のあなたに伝えたいメッセージは
「がんの倦怠感の治療には、ステロイドはとても有効です。しかし、ステロイドが有効な時期というものがあり、それより、早くても遅くても効果的ではありません。予想される予後や、患者さんの訴える倦怠感の状態を考慮し、適切な開始時期を見極めましょう。」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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