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多くの医師が誤解している!エドルミズ®︎使用の際の最重要ポイント【医】#64

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「倦怠感におけるエドルミズの扱い方をマスターする」です。

動画はこちらになります。

倦怠感は最も多くのがん患者さんを悩ませているのにも関わらず、医療者はそれを見逃してしまいがちです。

前回までは、がんの倦怠感のアセスメントと、原因のはっきりとした倦怠感の治療についてお話してきました。

今回は、治療の難しい倦怠感のお話をします。

このような治療の難しい倦怠感には、私はエドルミズ®がとても有効だと思いますが、実際に使ってみると、あまり効果を感じられないという声もよく聞きます。しかし実は、エドルミズ®を効果的に使うにはポイントがあり、それを外しているがために、効果を感じられないでいるのです。

今回はエドルミズ®の効果的な使い方についてお話します。

この記事は、がん治療医の先生、エドルミズ®を効果的に使いたい先生、がんの倦怠感の治療について詳しく知りたい方に観ていただきたい記事です。ぜひ、最後までご覧いただき、実際の臨床に役立てていただければ幸いです。

今日もよろしくお願いします。


悪液質の倦怠感を改善する!

治療の難しい倦怠感の原因はほとんどが悪液質です。その場合、悪液質を改善すれば、倦怠感も改善できます。この悪液質の状態のときに起こる倦怠感の改善に、とても有効なのはエドルミズ®です。

しかし同じ倦怠感を訴える患者さんでも、悪液質のどの段階にあるかで、エドルミズ®が有効な場合と、そうではない場合があるのです。エドルミズ®を使ったけれど、効果を感じられなかったという場合はほとんどがこの使う時期を間違ったためです。

悪液質の時期は、『前悪液質・悪液質・不応性悪液質』の3つの段階に分けられ、この順番で悪くなっていきます。

それではどの段階で、エドルミズ®を使ったら良いのでしょうか?

結論から申し上げますと、エドルミズ®は『悪液質の段階』で使う必要があります。もっと言えば、『悪液質の段階』の中でもできるだけ早い時期に使うことが大事なのです。

『不応性悪液質』の段階にまでなってしまうと、エドルミズ®は効果がありません。この時期にはエドルミズ®ではなく、ステロイドが有効です。

ステロイドの効果的な使い方については、次回の記事でお話しますので、よろしければフォローしてお待ちください。

それでは倦怠感を訴える患者さんに対する、エドルミズ®の有効な使い方について具体的にお話していきたいと思います。ポイントは次の5点です。

1倦怠感の原因が悪液質であることをアセスメントする
2悪液質の時期のアセスメントをする
3エドルミズ®は早い段階で使う
4エドルミズ®の処方にはe-learningが必要
5エドルミズ®の治療と同時に食事・運動指導も行う

それでは、具体的に見ていきましょう。


倦怠感の原因が悪液質であることをアセスメントする

倦怠感は大きく分けて二種類あり、一時的倦怠感と二次的倦怠感です。

二次的倦怠感にははっきりとした原因があり、その原因を治療することで倦怠感を取ることができます。例えば、貧血、感染、脱水、電解質異常などです。

二次的倦怠感の具体的な治療に関しては、以前の記事で解説していますので、そちらをご覧ください。

原因がはっきりしている二次的倦怠感ではなかった場合、一時的倦怠感だとアセスメントします。一時的倦怠感は、がんから出されるサイトカインが原因だと考えられていますが、そのほとんどは悪液質が原因であることがほとんどです。

ですから、二次的倦怠感出なかった場合、倦怠感の原因は悪液質だと判断します。


悪液質の時期のアセスメントをする

倦怠感の原因が悪液質だとわかったら、次にどの段階の悪液質に当たるのかをアセスメントします。つまり、患者さんの悪液質が、『前悪液質・悪液質・不応性悪液質』のどの段階になるのかをアセスメントするということです。

その説明の前に、なぜ悪液質によって倦怠感が起こるのかを理解するために、悪液質について簡単に解説します。

悪液質とは、食欲低下と、筋肉減少を中心とした体重減少が起こる病態のことです。それに加え、強い倦怠感が起こります。

がんの悪液質のメカニズムは、まだ明確には明らかになっていませんが、がんから出される様々なサイトカインにより、エネルギーを消費するスイッチがオンになります。それにより、常にエネルギーを使い続ける代謝の状態になります。この状態が、がんの悪液質だと考えられています。

正常な状態では、エネルギーは貯蔵している脂肪を燃やして得られますが、悪液質の状態では本来は燃やしてはいけない筋肉も燃やしてしまうのです。脂肪のみならず、筋肉も減ってしまうことが悪液質の特徴です。そして、身体を支える筋肉が落ちるため、倦怠感、疲労感も生じるのです。

悪液質の段階によってエドルミズ®が適応になるかどうか変わってきます。

悪液質の段階は『前悪液質・悪液質・不応性悪液質』に分かれます。エドルミズ®の適応基準となるのはこの中の『悪液質』です。

この『悪液質』の定義は、

過去6ヵ月間で5%以上の体重減少と食欲低下があり、
1.疲労感・倦怠感
2.全身の筋力低下
3.CRP0.5mg/dl以上、Hb12g/dl以下、Alb3.2g/dl以下のいずれか1つ以上

1,2,3,のうちの2つ以上当てはまる場合、エドルミズ®の適応になる『悪液質』だと診断できます。

『悪液質』の定義には当てはまらず、過去6ヵ月間の体重減少が5%よりも少なく、食欲不振・倦怠感・代謝異常が起こってきた状態を『前悪液質』といいます。『前悪液質』の段階はエドルミズ®の保険適応ではありません。このことには注意してください。

『不応性悪液質』の段階になると、起きている時間の半分以上を、横になった状態で過ごしているくらいのADLになります。パフォーマンス・ステイタスではPS3以上となり、抗がん剤治療はできなくなっています。この時予想される余命は3カ月未満です。

『不応性悪液質』の段階では終末期になっている場合が多いと思われます。この段階でエドルミズ®を使っても効果はありません。エドルミズ®を使っても効果が感じられないというのは、ほとんど『不応性悪液質』の段階で使っているためです。

したがって、エドルミズ®を使う際には、患者さんの悪液質が、『前悪液質・悪液質・不応性悪液質』のどの段階なのかをしっかりとアセスメントすることがとても重要なのです。


エドルミズ®は早い段階で使う

先ほど『不応性悪液質』の段階でエドルミズ®を使っても効果はないと言いましたが、その理由は『不応性悪液質』になると、がん細胞の増殖スピードが速くなり、悪液質自体も改善が困難になるからです。『不応性悪液質』の時期にエドルミズ®を使っても、残念ながら焼け石に水なのです。

したがって、エドルミズ®は『不応性悪液質』になる前の、『悪液質』の段階、しかもできるだけ早い時期に使うことがポイントです。

エドルミズ®は『前悪液質』の場合にも効果はあることがわかってはいますが、保険適応とはなっていませんので、先ほど述べた悪液質の診断基準を満たした場合に使用してください。

しかし、『前悪液質』でも、食事療法や運動療法などの適切な対処をすることで、悪液質にならないよう予防できることも明らかになっているので、食事療法や運動療法で対応します。

『悪液質』と『不応性悪液質』の線引きは難しいかもしれません。しかし、『不応性悪液質』かどうかよくわからなくても、エドルミズ®の効果が発揮されるためには、できるだけ早く使うことが大切なので、悪液質であることに気づき、悪液質であると診断出来たらまず、使ってみることが大事なのです。


エドルミズ®の具体的な使用方法

エドルミズ®は、現在、肺腺がん・すい臓がん・大腸がん・胃がんの4種類のがんにのみ使用が限られています。このことも注意してください。

具体的な使用方法の話をする前に、なぜエドルミズ®が悪液質からくる倦怠感に効くのか、その作用機序をお話します。

エドルミズ®は2021年に発売された、がん悪液質に対する日本初の治療薬です。

エドルミズ®は、グレリン様作用薬と呼ばれる作用機序を持つ経口薬です。グレリンは、主に胃から分泌される内在性ペプチドで、受容体に結合すると、体重・筋肉量・食欲・代謝を調節する複数の経路を刺激します。

エドルミズ®はグレリンと同様の働きをすることで、がん悪液質の患者さんの体重と筋肉量を増加させ、食欲を亢進させる作用があります。その結果、倦怠感も改善することができるのです。本来はほとんどのがんが悪液質を来しますので、今後は適応範囲の拡大を望みます。

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エドルミズ®は図のような錠剤で、アナモレリン塩酸塩として100 mgを1日1回、空腹時に経口投与することと添付文書には書かれています。

1錠50㎎なので、患者さんは1日2錠を内服するように処方します。空腹時に飲む必要があるので、私は寝る前に飲むよう患者さんには指導しています。発売して1年以上経過しましたので、長期処方が可能になっています。

エドルミズ®を処方するためのもう1つ大事な点は、処方する医師がe-learningを受講しなければいけないことです。詳しくはメーカーにお問い合わせください。

エドルミズ®を処方するときには、e-learningを受講する必要があるということもポイントです。


エドルミズ®の治療と同時に食事・運動指導も行う

最後に重要なことをお伝えしまします。

悪液質が原因の治療の難しい倦怠感は、エドルミズ®のような薬だけの治療では十分ではありません。つまり、悪液質が原因の倦怠感の治療には、薬に加えて、栄養療法と運動療法、これら三つを組み合わせて行う必要があるのです。それぞれ単独ではなく、これら3つを組み合わせて行うことが大切なのです。

栄養科には、悪液質で食欲が低下しているだけではなく、筋肉も落ちているので、効果的にたんぱく質が摂取できるように、患者さんへの指導を依頼します。また、リハビリ科には、悪液質の程度、ADLの状態にもよりますが、筋力アップのためのリハビリや、筋力低下防止のためのマッサージ主体の介入を依頼します。その際、具体的な指示をしてあげると、栄養科・リハビリ科は助かります。

繰り返しますが、悪液質の治療は、薬物療法・栄養療法・運動療法の3つを効果的に組み合わせることが大切です。それぞれ単独で行うのでは、効果は半減します。

栄養士・理学療法士とチームを作り、医師がチームリーダーとして他のスタッフとコミュニケーションを取りながら、患者さんの倦怠感の治療に当たることが、最も効果的な方法です。

以上、悪液質が原因の倦怠感の治療薬として、エドルミズ®が有用であることをお話してきました。エドルミズ®が効果を発揮する時期に正しく使って、患者さんの倦怠感を取ってあげてください。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

「悪液質による倦怠感の治療にはエドルミズ®はとても有用です。しかし、エドルミズ®は使う時期がポイントです。倦怠感が出始めた頃にエドルミズ®の処方をし、同時に食事・運動指導も一緒に行いましょう。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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Dr.Tosh /四宮敏章
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