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【医者に届かない声】小さなモヤモヤ、溜まっていませんか?【患】#165
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「わかりにくい医師の言葉」です。今日は、患者さんとそのご家族にお話します。
動画はこちらになります。
皆さんは、医師と話していて、分かりにくい言葉を言われた経験はありませんか。
例えば、「この抗がん剤は腫瘍に対して感受性が強いから続けましょう。」と医師から言われて、「どういう意味?」と思う人もいるでしょう。
実は「感受性が強い」とは、効果が高いという意味なのです。
医師が当たり前だと思って使っている言葉には、一般的には使われていなかったり、違う意味合いで使われている言葉が実はたくさんあります。
今日はそんなわかりにくい医師の言葉の中で、特にがん患者さんが迷いやすい「寛解」と「完治」の違いについてお話します。
この記事の最後に、医師の言っている言葉の意味が分からない時にどうすればいいかについてもお話しますので、ぜひ最後までご覧ください。
今日もよろしくお願いします。
医師の使う言葉と意味合いには要注意!
先日、あるがん患者さんの娘さんから相談がありました。
「すい臓がんの父のことです。抗がん剤をした後、手術をして取り切れたと言われました。それは良かったのですが、先生から、『寛解状態だから、これからも抗がん剤治療をしましょう』と言われたんです。それを聞いた父は、絶対に抗がん剤治療をしないと言うんです。」と娘さんは言いました。
「なぜですか?」と私が聞くと、
「『がんは取り切れたんだから、がんは無くなった。なのになんでまたあんなつらい抗がん剤をしないといけないんだ。断固拒否する』と言うのです。どうすればよいでしょうか。」
この会話を聞いてあなたはどう思いましたか。
この患者さんは、「がんが取り切れた」と医師に言われ、がんは治ったと思ったのでしょう。しかし、医師は「寛解」であると言っています。「寛解」とは「がんが治った」のではありません。
がんが治った時は、医師は「治癒」「完治」という言葉を使います。
この話から推測すると、患者さんのすい臓がんはある程度進行していたのだと思います。このような場合、医師はまず抗がん剤で腫瘍を小さくしてから、手術を行います。
確かに、目に見える範囲でのがんは取り切れたのでしょう。しかし、進行しているすい臓がんですので、まだ目に見えないがん細胞が体内に残っている可能性は十分にあります。
したがって、医師は患者さんに「寛解」であると言って、抗がん剤治療を続けたいと思ったのでしょう。しかし、患者さんは「寛解」の意味が分からず、がんは治ったのだと思い込んで、つらい抗がん剤治療はもうしたくないと、治療を拒否したのだと思います。
このように、医師が普段当たり前のように使っている言葉が、一般的には使われていなかったり、違った意味合いで使われていることはとても多いのです。
かくいう私も、無意識に使っていた言葉が「理解できない」と何度も指摘されたことが あります。医師は、一般的には特別な言葉でも、当たり前だと思って使ってしまうことがよくあるのです。
したがって、もし何か少しでも疑問に感じた言葉があるなら、遠慮せず、恥ずかしがらず、主治医に聞いてください。
わからないことを素直に主治医に聞くことはとても大切なことです。
お互いのコミュニケーションエラーを解消することは、主治医と信頼関係を作る第一歩なのです。
「寛解」と「完治」の大きな違い
それでは、「寛解」と「完治」の違いをもう少し詳しくお話します。
「寛解」は血液がんなどでよく使われる言葉です。
先ほども言いましたが、「寛解」とは、目に見える範囲でのがんはなくなった状態です。けれども、まだ目に見えないがん細胞が体内に残っている可能性はあるのです。
したがって「寛解」になっても、がん細胞が再び増え始めたり、残っていたがん細胞が別の部位に転移しないように、さらに治療を継続することもあります。
先ほどの患者さんの場合その可能性が高いため、術後も抗がん剤治療をして、再発の可能性をできるだけ小さくすることが必要だと思われたのです。
一方、「完治」とは、身体から完全にがんが無くなった状態のことを指します。
がん以外の病気では、例えば、かぜが治ったかどうかは、発熱の程度や咳や喉の痛みの具合から、自分自身で判断することが可能です。また、胃潰瘍や急性虫垂炎などでは、医師が検査の結果を見て、「診療は一旦終了です。また、症状があれば受診してください。」ということになります。
しかし、がんの場合はどうでしょうか。
がんの場合5年後に、乳がんの場合は10年後に再発せず生存しているかどうか、ということを「完治」の基準にすることが一般的です。
以上のことを理解できていれば、先ほどのすい臓がんの患者さんも納得できたかもしれませんね。
医師は患者さんが何がわからないかわからない
冒頭で述べた「感受性」という言葉は、一般的には「心で感じる能力」という意味で使いますが、医療では、反応が良いとか、薬剤に対して効果があるなどの意味で使います。
このような場合、患者さん・ご家族は、医師が使う言葉に違和感を感じると思います。
また、「標準治療」という言葉があります。
患者さんの中にはこの標準治療を「並の治療」でもっといい治療や最先端の治療があるならそっちの方が良いと思っている方も多いのです。しかし、本当は「標準治療」とは、大規模な臨床試験に基づいて効果の証明された、その時最も推奨される治療法のことなのです。
このように、医師が普通に使う言葉を患者さんが理解できていないことは多いのですが、このことに医師は気づいていないことが多いのです。けれども、多くの患者さんはそんなことを言いにくいと思います。
でも、できればあなたから医師に言ってほしいのです。それをしないとお互いに誤解をしたまま、過ぎてしまうからです。場合によっては、大切な治療選択にも影響が出てくるのです。先ほど話した「寛解」と「完治」を勘違いしたようにです。
実は医師はそれを教えてくれたらうれしいのです。なぜなら、多くの医師は患者さんと良いコミュニケーションを図りたいと思っているからです。少なくとも私はそう思うし、私の周りの医師も常々そう言っています。
だから安心して、何がわからないのかを遠慮せずに教えてください。
あなたはがんを良くしたい、できれば治したいと思っているでしょう。がん治療は患者さんを中心としたチーム医療です。みんなが心を通わせることが一番大事なのです。主治医を信頼できないと、同じ治療をしていても結果が違ってくるのです。データはありませんが、長年の私の経験から、これは正しいです。
よい治療をするためには、主治医と患者さんが良い関係性を作ることが大切です。もし遠慮していたら、自分の病気や治療のことを把握できないし、納得して治療を選べません。
ぜひ医師が話している言葉がわからなければ、しっかりと分かるまで聞いてください。
あなたに伝えたいメッセージ
今日のあなたに伝えたいメッセージは
「医師が使う言葉と意味合いに注意し、少しでも疑問があれば解消しましょう。わからないことを主治医に聞き、解消することが、主治医と心と心が通える信頼関係を作る第一歩なのです。」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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