
【完全版】再発告知の際に絶対に知ってほしい4つの極意と具体的な伝え方【医】#48
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「バッドニュースを伝える〜がんの再発〜」です。
動画はこちらになります。
あなたは今までの診察の中で、患者さんにバッドニュースを伝える際に困ったことはありませんか?
今日は、バッドニュースの中でも特に、完治が難しい再発のバッドニュースを伝える際に、押さえておいてほしい大切なポイントと、その具体的な伝え方についてお話します。
この記事は、がん治療医の先生、これからバッドニュースを伝える可能性がある若いドクターや医学生の方にも、ぜひ見ていただきたい記事です。
今日もよろしくお願いします。
がんの再発を伝える際に押さえなければいけないこと
以前、難治がんというバッドニュースを伝える際の話をしました。
患者さんは自分ががんであること、しかも完治が難しいがんと知らされ、非常にショックを受けます。医師側からすると、あまり人間関係ができていない患者さんにこのような話をしなければいけないので、特別な配慮が必要です。
一方、今回お話する、がんの再発というバッドニュースを伝える際、多くの場合、長年治療をともにしてきた患者さんに伝えるので、医師の側もまた違ったつらさと難しさがあります。
そんな、完治が難しいがんの再発を伝える際に、押さえなければいけないポイントは4つあります。
1. 再発という言葉の意味を明確に伝える
2. これからできることも同時に伝える
3. 患者さんの気持ちの配慮と自分自身の気持ちの扱い方
4. 時期を見てACPの話を始める
この4つです。
再発という言葉を明確に伝える
では、先ほどの4つのポイントをそれぞれ詳しくお話します。
1つ目のポイントは、再発という言葉の意味を明確に伝えることです。
完治が難しいがんの再発を伝える際に大事なことは、再発という言葉の意味を明確に伝えるということです。この場合の再発は、再発した部位が局所であったとしても、すでにがんが全身に広がっており、手術や放射線ですべてのがんを取り切ることができません。
抗がん剤は全身に作用する治療なので、一定の効果はありますが、抗がん剤でもすべてのがんをなくすことは非常に難しいです。この事実をあいまいに伝えてしまうと、患者さんが誤解することがあるのです。
以前アメリカの論文で、再発してステージⅣになった患者さんの8割以上が、自分のがんは治ると思っているという報告がありました。これは、再発するということの意味を患者さんがしっかりと理解できていなかったためです。
再発の意味を理解しないまま治療をしていると、病気が悪化し終末期になった時に、現実を受け止められないだけでなく、最期の大切な時間を有意義に使えないまま亡くなってしまうことがあります。
したがって、完治が難しいがんの再発を告知する時には、再発すると完治は難しく、今後の治療の目的は、完治ではなく、がんが悪化しないようにQOLを高めることだ、ということを明確に伝える必要があります。
これからできることも同時に伝える
2つ目のポイントは、再発を伝えると同時に、これからできることも伝えることです。
再発の事実だけを単に言うだけではなく、これから生きていくためにできることがあることも同時に伝えることが重要です。
以前の記事で、初めてがん、特に「難治がん」だと伝える際は、治療法など医学的なことを話すのは後でも良いということをお話しました。その理由は、予想せず難治がんだと言われた患者さんはショックを受け、詳しい話をしても内容をほとんど覚えていない人がとても多いので、気持ちが落ち着いてから、別の日にご家族と共に説明する方が良いからです。
一方「再発」の場合には、患者さんはある程度そのことを予想していることが多いです。そんな時は「単に再発です」と言うだけではなく、先ほど述べたように「再発はしたけど、あなたがより良く生きていくためにできることがある」ということを知ることで、患者さんは現実を受け入れ、治療の目標を変えることができるようになるのです。
確かに再発すると、がんの完治は難しいけれど、がんを抱えながらでも、まだまだ生きていくことは十分可能です。
がん治療は年々進歩しており、様々な治療法も出てきています。そういったこともあり、今は、がんは様々な方法でコントロールしながら生きていく慢性疾患である、という考え方もあります。
慢性疾患の糖尿病や高血圧などは、完治は難しいですが、悪化しないようにコントロールできれば、普通の生活を続けることができます。
完治が難しいがんが再発したときには、糖尿病や高血圧などの慢性疾患と同じように考え、できるだけ悪化しないようにして今の生活を続けることが、これからの治療の目標になるのだということを伝えてください。そのために、医療者としてできる限りのサポートをするということをお伝えください。
患者さんがより良く生きていくために、これからできることはたくさんあります。
まず、抗がん剤治療ができます。そしてその目的は、患者さんのQOLを向上させることで、より自分らしく生きることを援助できるのだということを伝えてください。また、疼痛などの症状があれば、症状緩和ができることもお伝えください。症状緩和もQOLの維持のために必須です。
再発の治療を行っていると、患者さんは気持ちがつらくなることも多いかもしれません。場合によっては、スピリチュアルペインが表出することもあります。
そんな時には、患者さんの話を聞き、しっかりと気持ちを受け取ってあげてください。スピリチュアルペインについて詳しくは別の記事で解説していますので、参考になさってください。
ぜひ、「再発を明確に伝える」ことと、「これからもできることがある」ということを一緒に伝えてください。
患者さんへの配慮と自分自身の気持ちの扱い方
3つ目のポイントは、患者さんへの配慮と自分自身の気持ちの扱い方です。
「再発」は、がん患者さんにとってとてもつらい言葉です。なぜなら多くの場合、がんの再発は「治らないがん」になったということだからです。
「がんと言われた時には、まだ頑張ればなんとかなる、と思ったけど、再発したと言われ、ああもう自分は死ぬのかと実感した。」と思う患者さんは多いです。このように、再発と告げられると、より死を意識する患者さんは少なくありません。
また、再発を告げなければいけない多くの医師にとって、患者さんは初めて会う方ではありません。
多くの場合、長い間治療をしてきた患者さんだと思います。患者さんのことを、長い間苦労を共にしてきた仲間、戦友のように感じる先生方も少なくないでしょう。
つまり再発を伝える際、伝えられた側の患者さんも、伝える側の医師も、どちらもとてもつらいのです。
したがって、再発を伝える際の大事な点は、患者さんの気持ちに配慮することはもちろん必要ですが、医師は自分のつらい感情を抑える必要はないのです。医師が患者さんと一緒につらい感情を共有することで、患者さんの気持ちが癒されることも多くあります。
以前、主治医が泣きながら患者さんに再発を伝えていた場面を見たことがあります。言われた患者さんは後で「先生の気持ちがとてもうれしかった」と言っていました。一緒に泣いてくれる医師を見て、患者さんは主治医からとても大切にされていたのを感じたのかもしれません。
時期を見てACPの話を始める
最後のポイントは、時期を見てACPの話を始めることです。
ACPは最期をどこで迎えるかを考えることだけではありません。最期は自宅が良い、ホスピスが良いというようなことを話し合うことだけがACPではないと私は思うのです。
「再発」という場面は、患者さんがこれからの生き方を考える大きなチャンスです。「自分の死」と向き合い、自分らしく生きるにはどう生きればいいのかを話し合うことがACPなのです。
ACPは患者さんが、再発の現実を受け入れられるようになってから、徐々に時間をかけて話し合っていきましょう。その中で、医師のあなたも、自分自身のACPを普段から考えておくことで、さらに深い話ができるようになるでしょう。
がんの再発の具体的な伝え方
では具体的に「完治が難しいがんの再発」をどのように伝えればいいのでしょうか。
1.アイスブレイキング
まず、いきなり病気の話題に入る前に、お互いの緊張を解くためのアイスブレイキングから入りましょう。
良く知っている仲であったとしても、バッドニュースを伝える際は緊張感があります。「昨日は眠れましたか?」などと聞くことによって、自分も患者さんも少し緊張がほぐれ、話しやすくなります。
2.患者さんの体調や気持ちの変化を尋ねる
患者さんが今どのような認識をしているかを尋ねることも大切です。
「前回の診察と比べて、体調や生活に変化はありましたか?」
「何か心配なことはありますか?」などと聞いてください。
これもアイスブレイキングの一環ですが、これらを聞くことで、患者さんが今どんな心境にあるのかが理解しやすくなります。バッドニュースを伝えた後の患者さんの気持ちに配慮する準備のためには、このプロセスは大切です。
3.バッドニュースを伝える
患者さんの話を聞く準備を作るために、「これから大切な話をしますが、よろしいですか」と前置きをしてから、「再発」したという事実を伝えてください。ここでは、画像や検査データを示して、視覚的にも分かりやすく再発の事実を説明してください。
先程、再発の事実と同時に、再発の言葉の意味を明確に伝えることが大切であると言いましたが、この時点では、まず再発の事実のみを伝え、患者さんの状態をしっかり観察してください。
4.患者さんの気持ちに寄り添う
患者さんはある程度、再発は予想していたかもしれませんが、あなたから実際にその事実を言われると、ほとんどの患者さんはショックを受け、気持ちが沈みます。
ショックのあまり、言葉も出ない人もいるかもしれません。そんな時は、患者さんがしゃべり出すまで、やさしく待ってあげてください。
「沈黙」の時間も大切です。「ショックです」と患者さんが言ってきたら、「ショックですよね」と言ってあげてください。
5.自分の気持ちも伝える
相手の気持ちに寄り添うと同時に、この時に自分の気持ちも一緒に伝えると良いと思います。
「実は私もショックです。あなたが頑張ってきたことは、一緒に治療してきた私が一番わかっているつもりです。それなのにこんなに早く再発するとは。私も残念で、とてもつらく思っています。」などと言ってあげてください。
先ほども申し上げましたが、医療者も自分の気持ちを隠す必要はなく、むしろ正直に話すことが、患者さんの気持ちを癒すことになるのです。
6. 再発の言葉の意味と治療の目的を伝える
そしてお互いの気持ちが落ちついてきたら、再発の言葉の意味を正しく説明してください。また、治療の目的が「完治が目的ではなく、がんが悪化しないようにQOLを高めることに変わった」ことも明確に伝えましょう。
先ほど申し上げたように、再発のがんの治療は、慢性疾患と同じであるということを伝えたら、患者さんは受け入れやすいかもしれません。もちろん、痛みなどのがんによる症状があれば、それもしっかり緩和できることもお伝えください。
7. これからできることを伝える
再発の言葉の意味と治療の目的を伝えた後には、これからより良く生きていくために、できることがたくさんあることも伝えてください。それが今後の患者さんの支えになります。
また、ACPについては、再発を伝えたその日のうちにしなければいけないことではありません。けれども、今後していく必要があることは、医師のあなたには常に認識しておいてほしいと思います。
ただ、患者さんの方から「これから私は何を目標に生きていけばいいのでしょうか。」などと聞いてきたら、ACPの話をする機会だと思います。「OOさん、今までは何を目指して生きてきたんでしょうか?」などと切り出し、ACPに繋げるといいと思います。
面談の最後は、患者さんがより良く生きていくために、医療者としてこれからもできるだけのことをしていくという保証の言葉で終わってください。
以上、「完治が難しいがんの再発」を伝える時の大事なことについて話してまいりました。
ただ、やりかたはわかっても実際に自分で話してみなければ、身には着きませんよね。いくら泳ぎ方を頭でわかっても、実際に水に入って自分で泳いでみなければ泳げるようにはならないことと同じことです。自分で直接やることが一番の勉強だと思います。
緩和医療学会・サイコオンコロジー学会で、コミュニケーションスキル・トレーニング:CSTというものをしています。模擬患者さんを相手に、難治がん、再発、積極的抗がん治療の終了を伝えるなどのトレーニングをしています。
今日のお話をきっかけに、がんの再発を患者さんにしっかり伝えることのできる医師が増え、そのことで前向きになれる患者さん・ご家族が増えれば幸いです。
あなたに伝えたいメッセージ
今日のあなたに伝えたいメッセージは
「がんの再発は、患者さんにとってとてもつらいバッドニュースです。患者さんの気持ちに配慮し、つらさに共感する態度はもちろんのこと、ただ再発の事実を伝えるのではなく、今後の治療の見込みや治療の目的なども一緒に伝え、患者さんを支えることが重要です。」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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