
【医】希死念慮のある患者さんの見つけ方と対処法 #61
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「気持ちのつらさ③:希死念慮のある患者さんの見つけ方と対処法」です。
動画はこちらです。
今回は、気持ちのつらさシリーズの3本目の記事です。
前々回の記事では、患者さんの気持ちのつらさが、専門家に紹介すべきかどうか
そして前回の記事では、そのつらさに対する、基本的緩和ケアの方法と専門家への紹介の仕方について話してまいりました。
まだご覧になっていない方は、ぜひご覧ください。
気持ちのつらさが強くなってくると、死んでしまいたいという「希死念慮」を、患者さんは抱くことがあります。
今回は、主治医のあなたが、希死念慮のある患者さんを見つけること、そして、あなたができる対処についてお話します。
本日もよろしくお願いいたします。
「死にたい気持ち」は自分からは言ってくれない
希死念慮とは、死にたい気持ちのことです。他にも、消えてしまいたい、自分が生きているとみんなの迷惑になる、眠ったまま起きなければいいのに、という表現を言う人もいます。
希死念慮を持った患者さんは、放っておくと自殺に至ることも多く、早急に対処が必要です。
しかし、希死念慮については、ほとんどの場合、本人からは、誰にも言ってこないのです。ですから、本人に聞くことが大事なポイントになります。
どのように聞くかについても、難しいと思われている先生は多いと思います。今回の記事では、希死念慮について、患者さんにどのように尋ねるかを詳しく解説します。
一方で、患者さんから「死にたい」と言われた時、先生方はどうしますか?困りますよね。患者さんから「死にたい」と言われた時に、私ならこうする、ということを、今からお話しします。
希死念慮のある患者さんの見つけ方
まず、希死念慮のある患者さんの見つけ方についてお話します。
先ほども言いましたが、多くの患者さんは、自分からは希死念慮を言いません。ですので、主治医のあなたが、積極的に、患者さんの希死念慮を見つけてあげる必要があるのです。
前々回の記事でお話したように、ほとんどの患者さんは、気持ちのつらさを持っています。そこで、主治医のあなたが、気持ちのつらさの程度を測らなければなりません。これは、基本的緩和ケアです。
具体的には、次の2つの質問をします。
「1日中気持ちが落ち込んでいませんか?」
「今まで好きだったことが楽しめなくなっていませんか?」
この2つです。
私は、この質問のどちらか1つ以上に「はい」と答えた患者さんには、希死念慮について必ず聞くことにしています。
私は、次のように、希死念慮を聞いています。
「私の経験では、つらいという気持ちが強くなってきた患者さんの中には、このまま消えてしまった方がいいとか、死んでしまった方が楽だとか思う方が多くいらっしゃるんです。最近、あなたはそんな風に思ったことはないでしょうか。」
もし可能なら、ご家族にも、患者さんが希死念慮を持っていないかを聞いてください。
死にたいということは、別の言い方をすると、「死にたいくらいつらい」ということなのです。ですので、患者さんのつらさを受け入れ、理解し、共感する態度が必要です。
患者さんの希死念慮を否定をしてはいけません。どうにかしようと思わなくてもいいのです。主治医の先生の大切な仕事は、希死念慮のある患者さんを見つけることです。
同時に、患者さんのこころに寄り添ってあげてください。そうすることで、患者さんはとても安心するのです。そして、希死念慮がある場合は、必ず緩和ケアチームなどの専門家に紹介して下さい。
死にたいと言った患者さんにどうするか
前にも、別の記事でお話しましたが、大事なことなので、もう一度お話しします。それは、「死にたい」と言った患者さんにどう対応するかです。
もし、あなたの患者さんから、「死にたい」と言われた時、どうしますか?
そんなことは考えないで、頑張りましょうと、言いますか?
あるいは、私にはどうすることもできない、と思いますか?
今一度考えてみてください。「死にたい」というとても重大なことは、誰にでも言えることではありません。あなたのことを信頼しているから、患者さんはあなたに言うのです。
なかなか、希死念慮に踏み込めないと言われる先生方もいると思います。しかし、希死念慮を話題にする事はタブーでありません。まず、患者さんのつらさをしっかりと聴いてあげましょう。
「今、死んでしまいたいと言われましたが、死にたいくらいつらいんですね。できたら、そのつらいことを私にお話してくれませんか。」と聞いてあげてください。
そして、患者さんの言うことを、いいとか悪いとか判断せずに、受け取ってあげてください。それだけで、癒された、と患者さんは感じます。
その後、必ず、我々専門家に紹介してください。
主治医が希死念慮を見つけ紹介となったケース
ある日、40代の卵巣がんの女性が、緩和ケア外来に来られました。彼女は、8か月前にも主治医から紹介されて診察した患者さんでした。
8ヶ月前は、卵巣がんと診断され、手術に対する不安感が強いということで、私の所に紹介されたのでした。その時は、外来で数回診察後に手術となり、その後は気持ちも落ち着いてきたので、緩和ケアの診察は終了となっていました。
彼女が診察室に入ってきた時、私が「お久しぶりですね。どうされました?」と聞くと、急に彼女は泣きだしたのです。私は黙って彼女を見守っていました。
しばらくして彼女は話し始めました。
「ごめんなさい、泣くつもりはなかったんですけど、先生の顔を見たら何かほっとして、涙が出てしまいました。手術した後しばらくは良かったんですが、3か月後、がんが再発したんです。
抗がん剤が始まったんですけど、しんどくて。本当はやめたくて。でも先生たちが頑張りましょうと言ってくれるので、なかなか言えませんでした。
そしたら、夜も寝られなくなってきて、気持ちも落ち込んできたんです。どうせ病気が悪くなっていずれ死ぬのなら、もういっそのこと早く死んだ方が楽だって思うようになってきたんです。でも、誰にも言えなくて。
そんな時、主治医の先生が外来で、『1日中、気持ちが落ち込むの?』と聞いてくれたんです。私は、はい、と答えていました。
そうしたら『気持ちが落ち込むっていうのはつらいね。大事なことを聞きたいんだけど、死にたいと思ったことはある?』と聞いてきたので、はい、と答えました。
先生は『そうなんだ、死にたいくらいつらいんだね。』と言ってくれました。私は思わず泣いてしまいました。それでもう1度、緩和ケアを紹介してくれたんです。」
と一気に話してくれました。
私は診察した後、彼女に言いました。
「よく、話してくれました。あなたは病気のことや治療のつらさが原因でうつになっています。これからここで治療していきましょう。必ず良くなりますからね。
死にたい気持ちは、病気がさせるものです。うつが治れば、そのような気持ちも消えていきます。でも、良くなっていく中で、死にたい気持ちが一時的に強くなることもあります。その時は必ず知らせてください。自殺はしないでください。お約束できますか?」
彼女は「はい。」と答えました。
その後、主治医の先生から連絡がありました。
主治医の先生は「先生が教えてくれたやり方で患者さんに聞いてみたんです。そしたら希死念慮があることが分かりました。それで先生に紹介させてもらいました。よろしくお願いします。」と言いました。
私は「よく見つけてくれましたね。彼女のうつはこれから治療します。良くなると思いますよ。」と返しました。
患者さんは、主治医の先生が自分の気持ちのつらさを聞いてくれるのを、この患者さんのように待っているかもしれません。
勇気をもって、患者さんに気持ちのつらさを聞いてあげてください。
希死念慮を話題にする事はタブーでありません。主治医であるあなたが、希死念慮のある患者さんを発見し、専門家に繋げてください。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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