枕草子 上にさぶらふ猫は(2)
清少納言先生:続きをお願いします。
舞夢 :それでは続けます。
私(清少納言)は
「ほんとうに可哀そうです、今までは威張ったような様子で、堂々と歩いていたのに」
「三月三日には、頭の弁が柳を頭に飾らせ、桃の花をかんざしにささせ、桜を腰にさしたり、本当にお洒落して、練り歩いた時もありましたのにね・・まさか、こんなことになるとは思いもしなかっただろうに」と同情する。
他の女房たちと
「定子様のお食事の時だって、必ずこちらを向いて大人しくかしこまっていたのに、いなくなると寂しい」などと噂をして、三、四日たったお昼頃のことです。
犬の激しく鳴く声が聞こえてきたので、一体どうしてこれほど鳴き続けるのかと思っていました。そうしたら、そこらにいた他の犬たちも、全部様子を見ようと駆けていくのです。
そうこうしているうちに、御厠人の女が走ってきました。
「ねえ、大変です、犬を蔵人二人が打っていらっしゃる、あんな打ち方ですと死んでしまいます、流罪の犬が戻って来たので、懲らしめていらっしゃいます」と言う。
本当に可哀そうなこと、あの鳴き声は、やはり翁丸でした。
「忠隆、実房たちが打っている」と言うので、止めにその女を遣わしました。
そのうちに、ようやく鳴き声が止み、使いにやった女から
「死んでしまったので、御門の外に放り捨てました」と報告がありました。
本当に、むごいことをと、皆で話しておりましたその夕方、散々に膨れ上がり、ボロボロになった犬が震えて御門の周りをうろついておりました。
私が、「翁丸かしら、最近、こんな犬がうろついておりましたかしら」と言ったところ、他の誰かが「翁丸」と声をかけました。
しかし、見向きもしません。
「やはり翁丸よね」と言う女房もあれば、「いや、違いますよ」と言う者もあり、なかなか話がまとまらない。
定子様が「右近なら見分けがつくかしら、右近を呼びなさい」という事で、お召しになりました。
定子様が「これは翁丸ですか」と、その犬をお見せになると、
右近は「いや、似てはおりますが、あまりにもみすぼらしすぎます。それに翁丸と名を呼べば、喜んで飛んで参りましょう、しかし呼んでもそばに来ません、どうやら違う犬なのでは。翁丸はもう、打ち殺したと、他の人が申しておりましたよ、大の男が二人がかりで打ったのですから、とても生きてはいないでしょう」などと申し上げるので、
定子様は、眉をひそめ、「なんとひどいことを」と、お思いのご様子です。
清少納言先生:・・・ねえ、ひどいでしょ、可哀そうなんてもんじゃない。
舞夢 :あまりにもねえ、こんなことが宮中でねえ・・・
清少納言先生:まだ、続きがあります。
舞夢 :なかなか、闇が深そうですね。
清少納言先生は、それには答えなかった。
かなり、物思いに沈んでいる。