土佐日記 第37話 十八日、②
(滞在地)室津
(原文)
船も出(い)ださでいたづらなれば、ある人の詠める、
「磯ぶりの 寄する磯には 年月を いつとも分かぬ 雪のみぞふる」
この歌は常にせぬ人のごとなり。
また、人の詠める、
「風による 波の磯には うぐひすも 春もえしらぬ 花のみぞ咲く」
(舞夢訳)
船が出ることもなく、暇で何もすることがないので、ある人が詠みました。
白い波が途切れることなく打ち寄せる磯辺には、年も月も季節の区別もありません。
波しぶきの白い花だけが雪のように降り続けるのです。
(この歌は、いつも歌を詠まない人が詠んだものです)
また別の人も、歌を詠みました。
海の風を受けて、白い波しぶきが打ち寄せる磯辺には、ウグイスも春も関係はないのです。
ただ、白いだけの波の花が咲くのです。