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妙華(3)妙華の想い 史は泣き出す
「ただいま、戻りました」
相変わらずおっとりした顔で史が帰ってきたのは、午後四時。
出かけたのが、午前十時だからほぼ六時間程度。
長い待ち時間を過ごした妙華は、弾かれたように出迎えに行く。
「うわっ・・・」
史を出迎えた妙華は声をあげた。
「何よ!それ!」
妙華の目に飛び込んで来たのは、女学院専用の車と、車に積み込まれた色鮮やかな大量の花。
そして史の鞄からはみ出るほどの、手紙。
「車で送ってもらって、花をもらって、そんなたくさんの手紙をもらったの?」
妙華は呆れた。
「うん」
史は素直に答えた。
「よくわからないけれど、女学院に筆道具納めて、お茶を入れただけで、いろいろもらった」
「あのね、花をもらって、手紙をもらったら、お返ししなければならないの」
妙華は、ヤキモキとイライラが同居している。
「そういっても、たくさんだから、すぐには無理」
史は、少し困った顔。
「少しずつ返すしかないかなあ」
「それも誰からって大変なのよ」
妙華の応えも本来の自分の心から離れてしまっている。
本当は、自分にだけ振り向いてほしいのに、トンデモナイ事態になってしまった。
しかし、史の次の言葉は、本当にマズかった。
「手紙の返事を書くのを、手伝ってもらうと助かるんだけど」
史は全く妙華の心を理解していない。
妙華のイライラは頂点に達した。
「パシッ!」
妙華の右手が史の左頬を襲った。
「え?」
呆気にとられる史。
妙華に嫌われたのかと心配になる。
しかし、次の瞬間の妙華の行動は、史にとって全くの予想外だった。
妙華の顔は真っ赤。ゆっくりと史の背中に腕を回した。
史の顔を真っ直ぐに見つめる。
史は目をそらすことが出来ない。
次の瞬間、妙華の唇が史の唇をふさいだ。
史にとっては、初めての体験。
何が何だかよくわからない。
トンデモナイ状態であることは理解した。
史の心臓はバクバクと鳴っている。
妙華は必死だった。
「とにかく、この私が最初」
「他の娘には絶対あげない」
「この史は私のものにしなければ」
腕の力も強くなるし、史の唇を吸うのも強くなる。
二人にとって、ドキドキの時間は数分だった。
「史・・」
妙華はゆっくりと唇を離した。
その顔は、ますます赤い。
はじめて史を抱きしめたことと、史と唇を合わせたこと。
それが妙華の心を高ぶらせる。
妙華にとって、この店に来てからずっと、史は、可愛くて仕方がない。
そもそも、一目ぼれだった。
史の仕事の間中でも、本当は、ずっと一緒にいたい。
史にはずっとシグナルを贈ってきた。
少しはなびくとか、気が付くと思っていたけれど、史にはそんな素振りはまったく無い。
それどころか、思いつきで教えた「お茶の入れ方」で、裕福な女学生たちのアイドル化してしまった。
「ウカウカしていると、とられちゃう」
「こうするしかなかった」
妙華は、ちょっとした征服感と満足感をもって史を見つめた。
「好きだよ、史」
妙華にとって、これが殺し文句であると確信した。
自信タップリだった。
しかし・・・
「え?」
妙華は史の表情の変化に驚いた。
「どうして?」
妙華は理由が、わからない。
史は、その顔を両手でおおい、激しく泣き出している。