隣の祐君第64話母彰子からの端的な電話 祐は上野へ
母彰子は、「用件のみ」のいつもの感じ。
「昨日、奈良元興寺近くの和菓子屋さんの奥さんから電話がありました」
「その和菓子屋さんの娘さんが、祐の隣に住んでいるとか」
祐も端的。
「うん」
「お母さんにも、奈良にいる時に、お世話になった」
彰子
「そういうご縁なら、大切に丁寧にお付き合いなさい」
祐
「うん」
「また隣に菊池さんって大宰府からの人が来たよ」
彰子
「そうなの、詳しく聞いておいて」
「菊池は、大宰府では多い名字、何か関係があるかも」
祐
「みんな元気?」
彰子
「父さんも、姉さんも元気」
「むしろ、祐が心配、弱いから」
祐
「大丈夫だよ」
彰子
「もう18なの、しっかりなさい」
祐が「うん」と答えるなり、母彰子は電話を切ってしまった。
おそらく、講義の準備で忙しいのだと思った。
「さっぱり、はっきりしていいや」
そんなことを思いながら、再びPCを開く。
図書館情報を調べようと思ったけれど、母彰子と話をしたら気が変わった。
「せっかく東京にいるのだから、コンサートとか美術館に」
その情報を調べ出した。
東京に出る直前、父から、「母さんには内緒」と言われてもらったお金もある。
「何でもいい、社会勉強に使いなさい」
「社会勉強とは、何だ?」と思ったけれど、ありがたくもらった。
現金が入った封筒を開けて、驚いた。
「怖くて、使えない、こんな大金」
結局、現金で持っているのが怖くて、銀行の口座に入れてしまった。
「上野に行くかな、そこで探せば、なにかやっているはず」
祐は迷わなかった。
そのままジャケットを着て、アパートを出た。
隣の菊池真由美と、駅までの道ですれ違ったけれど、会釈のみ。
「今日は一人で動く」
しっかりと、心に決めている。