維摩VS文殊菩薩(9)
維摩は、うろたえる文殊菩薩に、さらに言い切った。
「一切の悪魔と、外道が、自分の侍者である」
文殊菩薩にとってみれば、頭を抱えてしまうほどの言葉である。
釈迦の弟子の中でも、最高の知恵者であると、自他ともに認められる文殊菩薩としては、全く理解が出来ない発言であった。
普通の考え方であるならば、悪魔や外道は、忌み嫌い、接触を断つべき相手になる。
しかし、維摩は、その悪魔と外道こそが、自分の侍者と言う。
人を誘惑し、この世の快楽に溺れさせ、最後には無残な結果に追い込むのが悪魔。
邪見を求め、それに溺れるのが外道。
しかし、本物の菩提心を持つ菩薩なら、それらを遠ざけはしない。
むしろ、そんな悪魔や外道に、その身を囲まれながら、逆に悪魔や外道を清めていく。
自分だけが悟りを得て、安楽な世界に閉じこもるなら、実に狭量なものでしかない。
まさに、文殊菩薩にとっては、安全と思っていた足元を震わせるような、維摩の厳しい指摘が続いている。