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Photo by
tarofukushima
伊勢詣(1)
伊勢を目指して歩きはじめて、既に十日。
最近の伊勢詣は老若男女関わりなく、人気のようだ。
そんな状態だから、満足に旅籠にも泊まれやしない。
おまけに雨が続き、旅籠にとどまる輩も多い。
ますます相部屋ということが多くなる。
「さて、今日も雨が止まない」
「だけど、なんとか宿ぐらいは」と思い、余分に金を渡し、旅籠に入った。
「頼むよ、俺は寝付きが悪い方だ」
「相部屋の男のいびきだけは聞きたくないから」
旅籠の者に、また金を余分に渡し、相部屋とならないように頼み込む。
「へえ・・・それはそれは・・・了解しました」
旅籠の者は、よほど金がうれしかったのだろう、頭をその膝につくほど下げる。
「あれほど渡せば」
久しぶりの一人部屋、のんびりと横になっていると
「お客様・・・大変、申し訳ありませんが・・・相部屋をなんとか」
さっきの旅籠の者の声がする。
「相部屋は、困るっていったじゃないか」
おそらく、狭い宿場町だ、部屋もとうとう尽きたのかと思うけれど、それでは余分に金を渡した意味はない。
「いや、お金はお返しいたします」
「それから・・・男ではございませんで」
少し意味深な低い声。
「女だと?」
まさか、女と相部屋とはありえない。
少しためらっていると、すっと障子戸が開けられる。
「あの・・・申し訳ございません」
「ご無理を承知で・・・」
折からの雨にすっかり濡れた三十代前半だろうか、それでも品の良い女が旅籠の者の隣に座っている。