坂口尚「石の花」①~⑤
坂口尚という名前を知らなかった。「石の花」という作品も当然知らなかった。ああ、なんてこと!今更ながら教えていただいてよかった。
エミール・クストリッツァ監督の「アンダーグラウンド」を観たときに、旧ユーゴスラビアについて調べて簡単にまとめた。その時にTさんに教えていただいたのが「石の花」だ。その晩のうちにAmazonに飛んで文庫版の古書をゲット。合間に少しずつ読み進めていた。漫画だからと読み飛ばしたら理解できなくなるので、咀嚼しながら・・・という感じかな。長い期間かけてやっと読み終わったけれど、なかなか記録できなかった。
坂口尚さんの絵は「さすが虫プロでアニメの原画や演出に携わっていた方!」という感じで、構図など感嘆してしまう。文庫版じゃなくてもっと大きな版で読みたかったな。
この作品は1983年から雑誌に連載された作品。エミール・クストリッツァ監督の映画に描かれていたのとほぼ同じ時代が舞台となっている。
第二次世界大戦でナチス・ドイツの侵攻を受けたユーゴスラヴィア。その時はユーゴスラヴィア王国だった。平和な村はあっという間に戦禍に見舞われ、主人公の少年は殺すか殺されるかの極限状態でパルチザンの一員として生き抜いていく。幼馴染の少女は、ユダヤ人ということで収容所に送られ・・・。兄は二重スパイとなる。
米英連合軍が善で、ドイツが悪という単純な話ではない。坂口尚は敢えて複雑なユーゴスラヴィアを選んだそうだ。旧ユーゴスラヴィアの複雑さを表す言葉でよく知られているのは次の言葉だ。
5つの民族(セルビア人、クロアチア人、スロベニア人、モンテネグロ人、マケドニア人)
4つの言語(セルビア語、クロアチア語、スロベニア語、マケドニア語)
3つの宗教(カトリック、正教、イスラム教)
2つの文字(ラテン文字、キリル文字)
戦争、紛争はどちらの側にもそれぞれの正義がある。またどちらにも悪がある。複雑な旧ユーゴスラヴィアを舞台にすることによって、戦争の真の姿が深くえぐり出されていく。
泥沼の中においても人間として、人間らしい心や行いを求め続けることの困難さ、苦悩・・・それゆえの美しさ!ほんの微かでも善意や愛を信じようとする主人公たちの姿が胸を打つ。
坂口尚(1946~1995)は、わずか49歳で急性心不全で亡くなったそうだ。
かなり昔の作品だけど、今こそもっと多く読まれるべきだと思った。