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【なりたかったもの】

私は本当の父親の記憶があまり無い。
遊んでもらった記憶もない。
私が幼稚園の頃、親は離婚をした。
父と母はいつも喧嘩をしていた。
喧嘩が始まると
「2階に行ってなさい」と叱られた。

私はいつも心の中で
「誰かたすけて」とずっと思っていた。
喧嘩を止めたくても怖くて止めることが出来なくて
階段を上がりきらないまま
次こそ止めるぞ!と思いながらも
止めれずに階段で泣くことしか出来なかった。

特に父親との思い出が無いのは
多分、父親は私に全く興味が無かったからだろう。

母親は父親の悪口をよく言っていた。
私はなぜかそれを聞くのが嫌だった。
父親を否定されると同時に自分の存在も
否定されてる気分になったからだろう。
だけど一つだけ心に残ってるエピソードがある。

ある日、幼い頃の私が母親の前で大きなため息をついたそうだ。

「どうしたん?」と母が私に聞くと
「私、犬に生まれたかった」と一言
「どうして?」と聞くと
「そしたら、お父さんに頭を撫でてもらえるのに」
と、言ったそうだ。

それを聞いた母は腹が立ったらしく
父を責めたそうだ。

母が私を想って父を責めてくれた気持ちが
嬉しかったのと
犬になりたいと思った私の感情を知って
驚いたので記憶に凄く残っている。

その頃から私は「愛されたい」という
気持ちが強かったんだなと改めて思った。

そして大人になった今も
そういう感情になったりする。

とてもこだわりのある人で
気に入ったものを永く愛用するタイプの人が
いろんな物を大切にしている。

そんな人がある日
とても気に入ってるバッグが廃盤になって
凄くショックを受けていた。
「こんな事なら何個も買っておいたらよかった」
と後悔していたのだ。

私はそれを聞いて
何だかシンプルに凄いなと思った。
いろんな形のいろんなバッグがある中から
もしかするともっと良いバッグがあるかもしれないのに「これじゃないと嫌だ」みたいな
オンリーワン感が凄く良いなぁと思った。
それと同時に
こんな人に愛されたらきっと最高なんだろうなと思った。

「あのバッグになりたいな」と内心思いながら
ふんふんその話を聞いていた。

まさかバッグに憧れる日が来るとは
思ってなかった。

大事にされるバッグが羨ましい。
ここまで欲しがられるバッグが羨ましい。
バッグになりたい。

早く人間になりたいな。

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