AVICIIの死について思う事と新ドキュメンタリーについて
もうすぐAVICIIの新しいドキュメンタリー映画がNETFLIXで公開されますね。
私はAVICIIの大ファンなので一報を聞いた時はまたAVICIIの音楽を聴けて生前の彼の姿を見られる事が嬉しいなと思いました。しかし嬉しいばかりではなくファンとして複雑な感情も持ち合わせています。
DJとして大成功したのはまだ10代の頃で、21歳で既にアルコールの問題を抱え急性膵炎を経験、27歳で引退し、28歳で亡くなったAVICII。新しいドキュメンタリーを通じて彼の偉業や素晴らしい音楽や生きた軌跡を多くの人に知ってほしいと思いました。
2017年公開ドキュメンタリーAVICII: TRUE STORIES
しかし2017年に公開されたドキュメンタリー『AVICII: TRUE STORIES』を思い出し暗い気持ちになりました。このドキュメンタリーはAVICIIが亡くなる少し前に制作されたもので、AVICIIの引退の理由の一端を知る事ができる内容でした。
私はこれを劇場で鑑賞しました、日本での公開はたった2日間だけで上映館もそこまで多くは無かったので見ている人はそんなに多くないかもしれません。映画の内容を簡単に要約すると引退前のAVICIIの様子が密着カメラによって撮影されたドキュメンタリーにライブ映が織り交ぜられているという作りになっていました。ドキュメンタリーパートはAVICIIがいかにしてスーパースターDJになったか、どのような生活を送っているのかが描かれていました。
スタジオで楽曲製作するシーンでは「あぁ、AVICIIはこうやって曲を作っているんだなあ」と知る事ができたり、フェスの舞台に立つ前の移動中にも休息せず作業する姿にスーパースターDJの過酷さを見ました。それらの映像はAVICIIの楽しそうな姿よりも、苦しそうだったり精神的に参っているようなシーンの方が多かったように記憶しています。他のDJのドキュメンタリーにも過酷そうなシーンはありますが、AVICIIは群を抜いてもうダントツで辛そうでした。そもそもこの作品は『なぜAVICIIは引退したのか』というテーマで作られていたと思うので、そのようなシーンが多くて当たり前だと思います。
AVICIIの引退理由とは
AVICIIは音楽や音楽制作を愛しているけれどLIVEにはプレッシャーを感じていて、休みたがっていて、でもそれは聞き入れられず働かなくてはいけなくて、心身ともに疲れ切っていた事がわかりました。AVICIIは自分の人生を取り戻したくて引退したのです。
それがAVICIIの真実のストーリーなのだと思いました。
ドキュメンタリーパートのラストシーンはどこかのリゾート地でAVICIIがのんびり過ごしている姿がドローンで撮影され、次第にドローンは上昇し、だんだんAVICIIが遠ざかり、最後には彼は見えなくなってしまって美しい景色だけが残るというようなものだったと思います。AVICIIがファンにとって遠いところに行ってしまった様子を示唆しているようで寂しくはありましたが、この美しい青空や海の近くでAVICIIが元気にいてくれるのならいいな、と素直に思いました。そのくらいこの映画ではとにかくAVICIIが辛そうにしているのが可哀想で見てられないほど気の毒で、とても辛かったのです。
愚かな私はこの作品を見るまでAVICIIがここまで追い詰められていたなんて思っていなかったし、度重なる来日公演のキャンセルに腹を立てたりしていたのです。あぁ、AVICIIごめんなさい。ファンなのに何もわかっていなくて、「いいかげんにしろ!」などとSNSで責めるような事を書いてしまった事をこのドキュメンタリー鑑賞後は本当に後悔しました。
AVICIIのようなスーパースターDJがどれほど過酷な思いをしていたのか、この記事に詳しく書かれていますのでAVICIIの引退について知りたい方は読んでみてください。
日本公演でのAVICIIの苦しみ
私がAVICII: TRUE STORIESで最もショックを受けたのは日本公演と来日前のシーンです、来日しているシーンの彼もやっぱり疲れていて苦しそうに見えました。来日公演を控えたAVICIIはもう限界だ、休ませてくれ、と本当に辛そうな顔でマネージャーに訴えていました。その時にマネージャーがカメラに向かって言っていた言葉が忘れられません。マネージャーは「AVICIIは金の有難みをわかっていない、どうやってこんないい生活ができていると思っているんだ。」というような事を言っていました。確かに一理あるかもしれません。AVICIIは彼の仕事ぶりが嫌ならクビにする事もできたでしょうが、彼にマネジメントを一任したのはAVICIIです。大型フェスでは1年以上前から交渉が始まるのは当たり前で急に嫌になったからキャンセルしたりだってできないのです。休みたい休みたいというAVICIIの言い分はマネージャーからするとただの甘えだったでしょう。仕方のない事かもしれません。それでもファンとしてはもっとAVICIIの健康を第一に考え、AVICIIに寄り添ってくれるような人がマネージャーならばこの事態は避けられたのではないかと思わずにいられないです。
しかしこれは綺麗事です、私はAVICIIの来日を待望していたし大喜びでライブに参加していたんです。AVICIIが来日しなくて良いくらい毎日ゆったりと暮らせていれば彼は今も生きていたかもしれないけど、その頃の私はAVICIIが苦しんでいるのも知らず「はよ来日せんかい」とSNSでAVICIIに向けメッセージを書いていました。AVICIIのマネージャーと同じようなものです。そのことが辛くて自分の馬鹿さに嫌気がさしました。好きなアーティストのライブに行って自分は楽しませてもらっていたのに、それがアーティストの負担だったなんて。
私はこれ以降アーティストの来日キャンセルに腹を立てなくなりました。ショックは受けますが「また来れる時に来てね」という気持ちにしかなりません。AVICIIの苦しみを知ったからです。
AVICIIの死
AVICIIが引退宣言をしたのが2016年3月28日、AVICIIの来日公演が2016年6月4日、ドキュメンタリーの日本での公開が2017年11月23日。
そしてAVICIIが亡くなったのが2018年4月20日。
私の心は千々に乱れました。まさか、死んでしまうなんて。引退してのんびり幸せに暮らしていると思っていたのに。自分の人生を取り戻したいと言っていたAVICII、10代ですでにショービズの世界に取り込まれ、わけもわからず激動の毎日を送り、メンタルヘルスの問題を抱え酒に頼らざるを得ない生活を27歳まで続け、やっとやっと自由になったのに28歳で、引退してすぐに死んでしまうなんて。莫大なギャラや華々しい舞台を捨ててでも静かに暮らしたかったのに、その彼の希望が叶えられないまま人生を終えてしまったなんて。そんなのあんまりにも辛すぎます。
AVICIIの死因
彼の死が報道された直後は死因は明らかにされなかったけど、自殺の噂は絶えず多くの人はAVICIIが自殺したと考えていました。ドキュメンタリー映画を見ていた私も自殺なんじゃないだろうか、と思ってしまいました。他の多くのファンもそう思っていました。あの映画を見ていれば誰だってそう思うはずです。依存症を克服して幸せに生きられる人はほんの一握りだし、メンタルヘルスの問題を抱えていたAVICIIの死因が明かされないという事はつまりそういう事なのだろうな、と思いました。
心無いファンの攻撃とメディアの報道
噂の中には『AVICIIはワインボトルを割り、その破片で自らの頸動脈を傷つけ自殺した』というような大変ショッキングなものもありました。この説はある期間まるで真実かのようにネット上で語られていましたし、死因として取り上げていたメディアもありました。ご家族は死因を明かしたがっていなかったのにです。彼の死の真相を探ろうとするメディアやファンには行き過ぎたものを感じました。私はただ何も言えず、ショックで呆然としていました。
27歳で亡くなったアーティストを纏めて27clubと呼んだりするのですが、そこに享年28歳AVICIIは入れるのか?と不謹慎な議論がされたり、一部のファンがAVICIIの当時の恋人をSNSで批判したりともうめちゃくちゃでした。ご遺族や恋人の女性の「そっとしておいて欲しい、あなた達ファンが知っているのはAVICIIで、Tim(AVICIIの本名)ではない」という言葉を見て心底悲しくなりました。なぜAVICIIだけでなくご家族がこんなに辛い目に遭わなければいけないのか。恋人の女性を批判する人の中には熱心なファンもいました。私には理解できません、どうしてAVICIIの愛した人を傷つけるのか?どうして彼が死んだのは恋人の女性のせいだというような事になるのか?そもそも自殺と発表されたわけではないのに。この頃のAVICIIのご家族はAVICIIを失いただでさえ傷ついていたのに、メディアや一部の心無いファンによってさらに苦しめられていたと思います。
AVICIIの死を受け入れられない私
日本でもAVICIIに対して「何で死ぬんだ、あんな才能があるのにもったいない」とか「残された恋人や家族を悲しませるなんて」みたいな事を書いている人が多々見受けられました。私は「うるせーーーー、AVICIIが死んだ日にクソみてーな事いうんじぇねえよ」と大変憤り相互の人だろうとかまわずブロックしまくりました。
どう悲しもうと、どう受け止めようと人それぞれその人の自由です。でもその時の私はAVICIIの死がショックすぎて彼を少しでも悪く言う人を見るのが辛かったのです。「AVICIIなんで死んだんだよバカヤロー!」的な事を言う人もブロックしました。死んでしまった人がバカヤローなんて言われなくてはいけないのは悲しかったです。そうやって悲しみを癒す人もいるのでしょうが当時の私はそのような事を言うファンの人を見るのすら辛かったです。数人の気の合うファンの人と少しやり取りしてAVICIIの死を受け入れようと、悲しみを受け入れようとしました。しばらくAVICIIの音楽を聴くことはできませんでした。
AVICII: TRUE STORIESの公開停止
ほどなくしてドキュメンタリーAVICII: TRUE STORIESは公開停止となりサブスクから姿を消しました。日本でも公開されていたのかどうかは覚えていませんが、世界で公開停止になったという報道がされたので日本でも見れなくなったのだと思います。
なぜ公開停止になったのかわかりませんがあのドキュメンタリーを見たらAVICIIに仕事を入れまくったマネージャーに批判が集まってしまうかもしれないし、死因についてまた色々言われる事が予想されるので公開停止は当然だと思いました。Netflix側の判断なのか、ご遺族が差し止めたのかはわかりません。今現在も日本でこの作品を見る事はできません。どのサブスクにも無いですしDVDやブルーレイの日本での販売も無かったと思います。
自殺とニューアルバム
その後ご遺族はAVICIIの死因が自殺であった事を示唆しました。やはり自殺だったのかと私はまた大変なショックを受けました。そこから後に未発表曲がリリースされたり、ライブ音源が公開されたりと色々なプロジェクトがありました。私はまだAVICIIの死を受け入れたくなくて、未発表音源だってAVICIIが完成させていないのだから世に出すべきなのか?などと思っていました。しかしご両親も協力しているという事を知り、それならばと曲を聴いてみました。アーローブラックの歌声を聴いた瞬間涙が出ました。メロディは確かにAVICIIのものです、そこにアーローブラックの懐かしく感傷的で美しいヴォーカルが乗っていて、そんな曲をまた新たに彼の死後に聞く事ができるなんて想像もしていませんでした。そのアルバムが発表されたのが2019年、今から5年前です。
少しずつ変わっていく音楽業界
彼の生前も多くのDJがAVICIIの曲をフェスやライブやクラブでかけていましたし、AVICIIが死去した直後はどのアーティストもAVICIIを偲んでこぞって曲をかけました。そこからコロナが蔓延し、フェスやライブは無くなり、やっとライブが再開されだした2021年後半~2022年頃にはAVICIIの曲をかけるDJは少なくなってきました。全くいなくなったわけではないし、新曲もないのに相変わらずAVICIIの曲はよく使われていますがそれでも昔よりはAVICIIの曲を聴く機会は減っていてそれがとても寂しかったです。
なんだかAVICIIが忘れられていくようで、同時期に活躍していたDJ達の姿を見るたびに、新しいフェスのラインナップを見るたびにAVICIIの不在を思い切ない気持ちになってしまいました。たまにAVICIIの曲がかかっても若い人たちは知らないのか昔のように大盛り上がりで合唱なんて事も少なくなったように感じました。新しい音楽は日々出てきますし、AVICIIの存在感が少しずつ薄まっていくのは当然でしょう。00年代後半から10年代にかけて驚異的な盛り上がりを見せたEDMの人気も陰りが出ていまでは一昔前の流行になってしまいました。現役のDJ達ですら話題に上ったり来日する機会はどんどん少なくなっていくでしょう。それに伴いAVICIIはこのまま少しずつ忘れられていくのでしょうか。
新ドキュメンタリーへの不安
そんな中、AVICIIの新しいドキュメンタリーが発表されました。これは喜ぶべきことなのでしょう。AVICIIが忘れられずに、多くの若い人にも知ってもらえる機会です。当然制作にあたりご両親の許可も得ているでしょう。これは喜ばしい事であるはずです。
でも私は不安です。公開されても見ないかもしれません。
それはなぜかというと、前述したとおり前作のドキュメンタリーの内容があまりにも辛かったからです。それが真実なので辛くても仕方がないですし、あの頃まだAVICIIは生きていましたから悲惨な内容であってもラストには希望がありました。今までは辛くても、これからは幸せになるんだというAVICIIの意思が感じられました。なのでAVICIIの生きている頃はあのドキュメンタリーをポジティブなものとして捉えることができました。
しかし今あのドキュメンタリーを見ると、どう見えるでしょう。AVICIIの希望は潰え、10代20代の若く輝かしい時期に苦しい思いをし、報われる事のないまま自殺してしまったのです。彼はアーティストとして成功しましたが死ぬ前の彼が求めていたのは名声やお金ではなかったように見えました。AVICIIの生涯は決して幸福に満ち溢れていたとは言えないと思います。少なくともAVICII本人やご家族はそういう風に語っています。ご両親はAVICIIに活動を制限するように話した事もあったそうです。親から見ても心配になるほどAVICIIは疲弊していたのでしょう。私もAVICIIの苦しんでいる姿の映像はもう2度と見たくありません。
では新しいドキュメンタリーはそこをどう描いているのか。AVICIIの負の部分、華やかな表舞台で天才DJとしてキラキラ輝く姿ではなく血反吐を吐くような思いで緊張で震えて、ステージに立ちたくない、嫌だ休みたいと懇願する姿、これをどう描くのか。私はそのまま描いてほしいと望んでいます。彼の苦しみや問題をありのまま描いてほしいです。でも、そういう作りならば私は見れないと思います、彼の苦しみを見るのはとても辛いので。私は見られないかもしれないけど、ドキュメンタリーならそういう現実になるべく則した作りでなければ価値がないと思います。
ホリデーシーズンの公開が何を意味するのか、求められるのはエンタメ作品
しかし、これが年末に公開されるということで非常に不安に感じています。NETFLIXがホリデーシーズンに大々的に宣伝し公開するという事は、その内容は明るいものになっていると予想されます。AVICIIのドキュメンタリーであれば彼の自殺について触れないわけにはいかないでしょう。でも彼の自殺を含むドキュメンタリーがホリデーシーズンに楽しめるような明るい雰囲気で作られているとしたら、私は受け入れられません。AVICII: TRUE STORIESで見たAVICIIの苦痛がまだ生々しく記憶に残っているからです。どう考えても彼の人生をPOPに楽しい雰囲気の映画に仕上げるなど無理でしょう。ですがおそらく暗く辛いシーンはあまり入れずにAVICIIの功績を称えるような楽しい作りになっているのではないかと予想します。もしくは過剰に感動を演出した泣ける作りになっていたりはしないでしょうか。
そういうのを作るのはまだ早くないですか?まだAVICIIが亡くなってから6年やそこらしかたっていないのです。でもエンタメ業界というのはそういうものなのでしょうね。AVICIIの人気が忘れられてないうちに作る事にも価値があるのでしょう。制作する意義よりも儲かるかどうかが重視されるのも当たり前です。でも私は気持ちがまだおっつきません。
この年末という時期に公開というのはどういう事でしょうか。どのサブスクもはホリデーシーズンに特に力を入れている、という印象です。契約者や視聴時間の増える時期なのでしょう。クリスマスから年末年始を意識した作品が大々的に特集されたりしています。家族の休日に相応しいハートフルで楽しい作品や娯楽大作や人気ホラーやコメディが例年推されている印象で、逆に不謹慎で下品な作品や見終わった後に考えさせられるような重い作品は影が薄くなります。ホリデーシーズンの明るく楽しいラインナップにAVICIIのドキュメンタリーが並ぶ事に違和感を覚えます。見ていないので何とも言えませんがAVICIIの死がエンタメとして消費されるような作りでない事を望みます。
NETFLIX制作への不安
NETFLIXは以前殺人事件をテーマにした作品やアーティストのドキュメンタリーで度々批判されたり炎上しています、犯罪被害者や死者を軽視し搾取するような作品を作ったと批判を受けていました。遺族に批判された事もあります。だから私は不安なのです。
AVICIIの苦しんでいる姿のシーンにAVICIIの曲がエモく挿入され思わず泣いてしまう、みたいなものは私は到底受け入れられません。逆にAVICIIの楽しそうな姿ばかり目立つような作品も嫌です。どんなものがよいかというと、やはりAVICII: TRUE STORIESみたいなものがいいです、AVICIIの苦しみもそのまま見せるべきです。
伝記映画やドキュメンタリーについて思う事
エルヴィスやジュディガーランドの伝記的映画を見た後に私は悲しい気持ちになりました。ミュージカル映画で全体的には楽しい雰囲気でも、でもやっぱり悲劇のスターを描いた作品だから鑑賞後は胸にズッシリとくるものがあります。あれだってエンターテイメント消費と言えると思います。でも往年の今は忘れられつつあるスターの姿を現在に語り継ぎ、過去のエンタメ業界の闇を暴くという意義はあるのかもしれません。あの2作品はパンフレットを買って読みましたし、主演俳優のインタビューや監督のインタビューも見ましたが、エルヴィスやジュディに敬意を持って制作されている事が伝わってきました。
AVICIIの映画はいったいどうなるのでしょうか、ご家族が傷つくような作りになっていなければいいのですが。AVICIIに敬意を持って作られているといいのですが。彼の死が休日のための単なる安っぽいエンターテイメントにされていませんように。
まだどういう気持ちでAVICIIの音楽を聴けばいいのかわからないし、悲しい気持ちは付き纏うけど、AVICIIとAVICIIの音楽が大好きだという気持ちだけはずっと変わらないと思います。
新しい映画が素敵だといいな。
近々AVICIIのライブの思い出など書きたいと思います。ドキュメンタリーは評判が良ければ見て、また感想を書くかも。