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アヴィニョン 法王とワイン

マルセイユから電車で1時間半くらい北西に行ったところに、アヴィニョンという街がある。最初に聞いたとき、ピカソの「アヴィニョンの娘たち」に関係があるのかと思ったが、このアヴィニョンとピカソのアヴィニョンは別物らしかった。ピカソの絵画は、バルセロナのアヴィニョ通りにあった売春宿の娘たちを描いたもので、名前は似ているが全く別の場所らしい。

この南仏アヴィニョンにかつていたのは、キュビズムの娘たちではなく、ローマ教皇だった。

南仏らしい白い石造りの街並みが印象的なこの街は、かつてローマ教皇庁が置かれていたことで有名な街だった。当時の教皇の居城は、いまは博物館を兼ねた観光名所だ。教皇宮殿という名なので、壮麗な城を想像していたが、14世紀と時代が古いこともあり、宮殿というよりは要塞といった印象の薄暗く閉ざされた城だった。現在のローマ教会の本拠バチカンとは印象がまるで違う。バチカンのサン・ピエトロ大聖堂とその広場は、建築の壮麗さと巨大さでローマ教皇の威光を感じさせる迫力がある。それに比べると、このアビニョン教皇庁は、教皇の権威がそれほどでも無かった時代があったのだなと、歴史への不思議な実感を持たせてくれる。

この地にはもう一つ有名なものがある。「教皇(Pape)」の名を持ったワインだ。教皇庁設置時代にこの地域で作られはじめたワインは「シャトーヌフ・ドゥ・パプ(Châteauneuf-du-Pape)」と「教皇」をラベルに持つ。教皇の名を頂くワインは珍しいので、ワインファンにはその産地としてちょっと名の通った街だそうだ。教皇は英語ではPope(ポープ)だが、フランス語だとPape(パプ)になる。綴りが似ているので、フランス語が分からなくても、なんとなく名前が理解できて嬉しい。これはどちらもギリシャ語の父=papasが語源だかららしく、言われてみれば父=パパかと納得できる。

ほんとうは、そのご当地ワインが気になってアヴィニョンに立ち寄ったのだが、南仏の夏の日差しとカラリとした空気ですっかりくたびれてしまい、赤ワインよりはビールかアイスクリームかな、という気分になり実現しなかった。酒をきっかけにした日帰り小旅行だったが、ローマ教会の歴史に少し触れることが出来たので良しとした。(数日後、別の街で偶然ハーフボトルを見つけて飲む事ができた)


【今回訪問した場所】
教皇宮殿(Palais des Papes)
http://www.palais-des-papes.com/en
※サイトは英語ですが、現地には日本語の音声ガイドがあります。

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