フェルデンクライスレッスンを初めて受ける方へ・・

フェルデンクライスメソッドに興味を持った、これから受けようと思っている、以前受けたことがあるがよくわからなかった...そんな方に向けて書いていこうと思います。

私の体験談

さて、私が初めてATMレッスン(グループレッスン)を受けた時の話をしましょう。当時、私はプロのダンサーで体は平均より柔らかく、体についての知識はある方だと思っていました。そんな中、人の勧めで受けたATMレッスンは何が何だか分からずに終わったことを覚えています。

レッスン中、先生に何度も「この動きはどうすか?」「胸骨はどのように動いていますか?」「何か変化はありますか?」と、次々と質問されても自分の中でどれもはっきりとした答えが無く(言葉で応える必要はない)もどかしさが残りました。動きも先生が言葉だけで誘導するため『合っているかな..』ということばかりが気になった覚えがあります。

今になったらその感覚全ての説明がつきます。

質問に答えられなかったのは..
難しいことを聞かれているわけではないのに答えが見当たらないのは、自分に興味を持ち意識を向け、自分が感じていることに正直になることに慣れていなかったためです。フェルデンクライスレッスンで向けられる質問は、全て自分がどう感じるか、なので答えは自分の中にあるはずなのです。

考えてみれば戸惑うのも当然でした。私がどう感じるかなんてそれまでやってきたダンスレッスンでも学校でも他の習い事でも親からも、聞かれたことがなかったのです。そのため、自分がどう感じるか、という部分が重要だとも思ったことがなかったのです。
これは私の境遇が特別なものだったわけではなく、日本の文化や教育を当たり前に受けてきた人は大体同じだと思います。ちなみに日本に限らず、学校教育は押し並べてそうだ、とフェルデンクライス氏は言っています。

動きが合っているのか心配だったのは..
これも、当時の私が受けてきた教育や習い事、生活のあれこれにしても、全て『正解』に向けて努力することを教えられてきたからです。そこには【必ず正解がある】という思い込みも埋め込まれています。

現在は、フェルデンクライスレッスンを教える身ですが、生徒が全く別の動きをしていたら(例えば右と左を間違えている、など)声をかけます。でも、例え、効率的な動きをしていなくても正しいように直すことはしません。

そもそも『正解』なんてあるのでしょうか?一人一人の体はほとんど同じ構造であれど違います。例えば右腕を上げる、それだけの動きでも全身のコーディネーション、どの関節がどのタイミングでどれだけ動くか、を見れば、百人いれば百通りあります。その無限の方法の中で何が正しいかは、他者が決めることではなく自分が決めることなんです。その判断基準は、自分にとってどの方法が一番楽なのか。そのためには話は戻りますが、たくさんの質問に頭の中で答えながら、自分がどう感じているかを明確にする必要があるのです。

【自分がどう感じているかなんて重要ではない、結果、合っているか間違っているかが重要なのだ!】と教え込まれた私たちの多くは私のように初めてフェルデンクライスレッスンをすると脳内がハテナだらけで終わる可能性があるんですよね・・

フェルデンクライスは体のためではなく脳神経のレッスン

従来のスポーツやフィットネスでは、どこそこの筋肉を鍛えたり、どこそこを伸ばしたり、体に直接アプローチをします。フェルデンクライスメソッドでアプローチするのは脳神経なのです。

体の動きというのは、筋肉が主導権を握って行うのではなく、どのようにやるのか、脳が指令を出して筋肉がそれに従います。でも、その指令がトンチンカンだったらどうでしょう?

私はよく体を会社に例えます。脳が社長、神経が部長、筋肉などは平社員です。

どんなに平社員が優秀で力があっても、社長が会社のためにならない事業を指示をして、それを上手くまとめられない指示を部長が社員にしても、会社として成果は上がりませんよね。
社長が変化を嫌うために、方法をアップデートしないで仕事を振る部長だったら、社員に労力がかかりすぎて過労で倒れるかもしれません。
会社を変えるためには平社員の努力ではどうにもならず、トップを変えると体質が変わる、というのはよく言われていることではないでしょうか。

体も同じです。筋肉など、体に直接アプローチして能力を上げさせてもそれを使いこなせる上司、すなわち脳神経がなければ宝の持ち腐れになりかねないのです。

フェルデンクライスレッスンは、身体全身への権力のある脳神経へのアプローチなのです。

先生が見本を見せない理由

これも、他のスポーツやフィットネスには無い部分ですね。人間にとって視覚とはとても重要な情報源で、頼り気味です。極端な話ですが、視覚・嗅覚・触覚・味覚・聴覚、どれか一つ失わなければならない、となった時、視覚を選ぶ人は少ないのではないでしょうか。

さて、動きを視覚で得た情報だけでやることは可能なのか・・ということですが、まあ、ある程度は可能でしょう。

小学校時代、こんな友達がいました。バトン部だったのでバトンを持って行進するとき、彼女は必ず同じ側の手足同時に出てしまうのです。何度先生が注意をし、見本を見せてもだめなのです。運動ができる彼女が行進なんて簡単なことができない、ということに私は驚いていたことを覚えています。
バトンを持たずに行進すれば大丈夫だったので、彼女はしばらくの間、バトンの代わりに鉛筆をバトンのように持って歩かされていました。そして徐々に慣らして行って、最終的にはバトンを持ってしっかりと行進をしていました。
彼女の場合、普通に歩いた時に自然に腕が振れていたわけなのに、バトンをもった瞬間、そのコーディネーションが消えてしまう。なので鉛筆という代用品で脳を騙しながら、自然な腕振りの感覚を残していったのです。

このように、見本を真似て自然な動きを体得するのは難しいのです。視覚で得られる情報では足りない部分が出てきます。例え、なんとなくそれっぽくできていたところで、細かくコーディネーションを見れば違う・・・そこが同じ練習をしてもトップアスリートになる人となれない人の分かれ道なのです。

戸惑うことは悪ではない

フェルデンクライスメソッドが従来の私たちが受けてきた教育から大きく違うアプローチであることが、少しご理解いただけたでしょうか?

「何をやっているのか分からなかった」「何のためなのか分からなかった」「何も感じなかった」・・・

これからフェルデンクライスレッスンを受ける方はこんな感想を持つことになっても驚かないでください。
もうこんな感想を持ってしまった人も落胆しないでください。

フェルデンクライスメソッドは「気付き」のレッスンです。「気付く」ことでしが人間は変われません。最新の掃除機を買っても、汚れに気づかなければ部屋は綺麗になりません。言い換えれば、汚れに気づきさえすれば、すででだって綺麗にすることが可能です。

正しくやろう、分かろう、とすることも必要ありません。今日のレッスン、分からなかったな〜、ということを感じること、それに気付くことがとりあえずの一歩です。また別のレッスンをしてみた時に、おや?と何か新たな発見があるかもしれません。

脳が理解をすることは目に見えないため、変化を感じるのは難しく不安に感じるかもしれませんが、その見えない脳神経を変化させないと会社の体質・・・じゃなかった、身体の動きは変わらない、ということを覚えておいてください。

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