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海外ノンフィクション書評#1「世界一高価な切手の物語 なぜ1セントの切手は950万ドルになったのか/ジェームズ・バロン著・高山祥子訳」(2018)

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物語の主人公は、たった一枚の切手。発行時にはほとんど価値の無かったその切手は、後に何度もオークションにかけられ、その都度値段が跳ね上がっていく。

「世界一高価な切手の物語 なぜ1セントの切手は950万ドルになったのか」は、そんな切手に魅せられた者たちが織りなすノンフィクションだ。ちなみに、950万ドルは、日本円にして10億になる。

1856年、英領ギアナで暴動が起きた。本国から切手が届かなくなることを想定して、新聞社で切手が臨時に発行された。この時生まれた1セント・マゼンタが、幾多の年月を経て950万ドルの価値が付くことになろうとは、誰も知る由もなかった。

1セント・マゼンタが発見されたのは、発行から17年後だった。当時12歳だったルイス・ヴァーノン・ヴォーン少年が1セント・マゼンタをどこか(詳細は明かされていない)で見つけ、6シリングで売ってしまう。この時1セント・マゼンタは、希少なものではあったが、欲しいという人物もいなかったので、価値があるわけでもなかった。その後、1セント・マゼンタは所有者が変わるたびに、価値が上がっていく。

本書で知ることが出来るのは、コレクターの世界だ。本来ならば、郵便物を送るためのものでしかない切手に魅せられ、手に入れたい、蒐集したいという欲望を抑えられない人間が世界中に存在する。そういった人たちがいたからこそ、1セント・マゼンタは価値が付いた。950万ドルという想像もつかない値段に惑わされがちだが、根本は食玩やトレーディングカードといった世界と大差ないのだ。

著者のジェームズ・バロンは、ニューヨークタイムズの記者として活動している。彼はちょっとしたパーティで、サザビーズの競売人であるデイヴィッド・レッデンから、1セント・マゼンタについて聞かされ、取材を敢行する。著者自身も、1セント・マゼンタに魅せられた一人なのだ。切手コレクターの世界は、果てしなく広く、深い。

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