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ムック版『sprout!』創刊にあたって
2023年にポッドキャストとして始まった長野ローカルプロジェクト『sprout!』。翌2024年にポッドキャストから派生した紙の本=ムックを年2回刊行することになりました。
長野県という地域の魅力、人々の魅力、活動の魅力を伝えることで、県内に活気を起こし、県外から注目を呼び、豊かになる。
そしていつの日か、地域の森から紙をつくり、その紙から本をつくり、本を地域で流通させる、つまり、「本をつくればつくるほど森も地域も豊かになる」こと。
さらに、そんな本が長野だけでなく日本全国、世界中に誕生している……そんなことを思い描きながら創刊しました。
『sprout!』の持続可能な出版活動
以下は、八燿堂が『sprout!』において実現したいビジョンです。
八燿堂は「200年後の生態系と共存・共生する本づくり」を掲げています。ムック版『sprout!』でもこの考え方は変わりません。八燿堂が『sprout!』で実現したいと考えている、持続可能な出版活動について、紹介させてください。
はじめに
八燿堂は2018年に東京で開始し、2019年に長野の標高1000mの小さな集落に移住しました。理由をとてもざっくり言うなら、もっと自然とつながった暮らしがしたかったからです。素晴らしい空気と水、周囲は森と星空、圧倒的な自然が広がるばかり。私は敷地で畑を始め、本づくりと庭づくりを並行する毎日を嬉々として楽しんでいました。
ところが、日々森に囲まれていると、だんだん気づくことになります。森のなかに、倒れ掛かった木が何本もある。鬱蒼としていて暗い。地面が崩れている。そう、森が荒れている……。
移住後に知り合った友人たちから、こんな話を聞きました。人の手が入らなくなった森は鬱蒼としてしまい光が差さず、生物多様性がかえって損なわれる。また、密集して生えている以上、根が浅くなるため、地滑りを起こしやすい。などなど。
つまり、目の前に広がっているのは、豊かな森ではない。「だから、適度に人が森に入り、適度に材を使う必要がある」と、ある人は言いました。環境問題=環境保護だと思っていた私には、「森林を切らずに守る」のではなく「適切に手を入れながら木材を使うことが、森の保全や再生につながる」という視点は驚きでした。
その人は「定期的に木を消費する」と言いました。消費という言葉には抵抗がありましたが、「定期的に使う」という考え方が心に残りました。
森を豊かにするために、定期的に木を使う。
だったら、自分の仕事を通して、何かできないだろうか?
『mahora』でのプロセス
八燿堂の発足時に掲げた「少部数・直取引というやり方は、自分の手と目が届く範囲で本をつくり、届ける、という考えにもとづいています。これは『mahora』という八燿堂の基幹タイトルを通して現在も継続しているアプローチです。
結果、八燿堂の発足から2024年で6年が経ち、全国にとても親密なつながりを生み、豊かなネットワークを構築することができました。とても有意義で実りあるプロセスだったと思います。
だけど、少しずつ疑問が出てきたのも事実です。
というのも究極的には、「世界を変えたい、世界を豊かにしたい」と思いながら出版活動をしているわけですが、このままのやり方を続けて本当に世界が変わるのだろうか?という疑問です。
確かに、変わりはすると思います。だけど相当の時間がかかるでしょう。だから疑問というよりは、もっと先の景色を見たくなった、と言ったほうがいいかもしれません。
いままでのあり方は大切に続けながら、もうひとつ別のレイヤーのアプローチを持ってもいいかもしれない……と、思うようになりました。
個人的なターニングポイント
並行して、長野に来て1年も経たない頃、足の骨を折る大怪我をしました。1ヶ月入院、6ヶ月松葉杖、結局完治せず、同時期に感染症の流行も重なって、物理的に動けなくなりました。
その結果、強制的にローカルに目を向けざるを得なくなりました。マルシェに足を運び、知り合いが増えていくなか、信念を持って活動を続ける素晴らしい人たちや、長野という地域の面白さに気づきました。
これがポッドキャストを始める一因になりました。
いざやってみたら、さまざまなつながりが増えました。取材対象、聞いてくれる人、さらにその次の輪、人がまた人を呼ぶ感覚……。
そして再び気づいたのです。自分の仕事は、本にすることだった、と。
だったら、これを本にできないだろうか?
コンセプトとビジョン
定期的に世に生み出され、地域の人の手にわたることで、地域の森や自然環境の再生に寄与するもの
長野というローカルそのものや、地域で活動する人々の、魅力を伝えるもの
2つが結びついて、アイデアが生まれました
[地産地消の本]
■地域の荒廃した人工林を資源ととらえ、
森から紙をつくり、紙から本をつくる
■地域の魅力を誌面に落とし込み、
定期的に刊行し、地域に流通させる
[短期ビジョン]
本をつくればつくるほど地域の環境が再生される、
地産地消のローカル誌
↓
[長期ビジョン]
日本中に姉妹誌をつくり、
全国に環境再生型のローカルメディアが無数にできあがる
これが、ムック版「sprout!」のコンセプトとビジョンになりました。
日本の人工林
日本には、かつて林業が栄えた時代がありました。八燿堂の所在地である長野県小海町も同様で、町を走るJR小海線沿線は、林業を中心に飲食、宿泊、歓楽などさまざまな産業が発展し、にぎわいを見せていたと言います。
森は豊かさをもたらしてくれるもの。先人たちは、自分の子孫にも財産を残してあげたいという思いから、山に大量の木を植樹しました。こうして長野県は、現在でも県土の約8割を森林が占めるにいたりました。
ところが、低価格の輸入材に押されて、国産の木が売れなくなりました。衰退した林業から働き手が流出し、木を切る=森を手入れする人が減少しました。また、人が減ったために人件費などがかさみ、かえって国産の木材が高騰、さらに売れなくなるという、悪循環が生まれました。
かつては豊かさの象徴であった人工林が、すっかり荒れ果てて悩みの種になる。
そんな森が、日本中にあるのが現状です。
現在の製パルプ・製紙業
ところで、前述した日本の古紙リサイクル技術は非常に優れていて、国内の古紙回収率は約8割、古紙利用率は約7割におよびます。実際、普段の生活で目にしたり利用したりする紙のほとんどには、割合はさまざまですが、再生紙が含まれています。
再生紙ではない紙(ヴァージンパルプ)はと言うと、原料の大半は海外から輸入されています。海外の森林から伐採した木材から、海外の工場でパルプ(木材に含まれる繊維)を抽出し、船便で大量に日本に輸送し(パルプに加工たほうが大量に積載できる)、日本の製紙工場で洋紙をつくる。これがおおよその流れです。
いずれにせよ、たくさんの人たちのたくさんの努力によって構築されてきたこれらのシステムがあるおかげで、毎日の暮らしで紙を安く買える、手軽に手に入る、ということが実現できるわけです。
しかし……。大量生産・大量リサイクルされる紙の世界と、使われず放置されて荒れたままになっている目の前の森が、私にはうまく結びつきません。海外からの輸送時のCO2排出量や、前述した古紙リサイクル工場のあり方も気にかかります。
もっと、シンプルにできないものだろうか?
森⇔本の循環をつくる
木から紙がつくられ、紙から本がつくられる。言わば、本は自然界の賜物です。ところが、本から自然に向かう矢印は? いまの出版界には、本から自然へのアクションが少ないのです。つまり、まだまだ循環していない。
もちろん、大手出版社のなかには森林認証紙を積極的に使い、グローバルな視点で環境保全に取り組んでいるところもあります。けれど、目の前の森は? あるいは、古紙リサイクルは、資源を大事に活用する側面はあっても、あくまで人間が再利用するためにつくられたシステムであって、それ自体が自然を再生するわけではありません。
問題は、本の製造過程で国内の木が使われていないことにあります。
もっと単純に、「走れば走るほど空気がきれいになる車」のような、本のあり方はないか?
つまり、「本をつくればつくるほど、森が豊かになる」。そんな出版のあり方です。
例えば、地域の荒れた人工林を「財」としてとらえ、その間伐材から紙をつくり、その紙から本をつくり、本を地域に流通させる。そのような「本の地産地消」を通して、出版活動そのものが森や自然環境を再生する仕組みをつくれないだろうか。
そして本を手に取った読者が、「この本って、あの森からつくられたんだって?」のようにして、本を通して地域の森や自然とのつながりをつくれないだろうか。
人間にとってのだけでなく、生態系や自然にも豊かさをめぐらせること。もっと言えば、「人間を含む自然の生態系の一部に、本を位置づける」ということなのでしょう。
森⇔本の循環をつくる
地域の放置森林を出版物の用紙として資源活用する仕組みを構築する。それにより、本をつくればつくるほど自然環境が再生されるという、出版における新たな付加価値を創出するとともに、コンテンツ以外の制作過程や流通面でもローカルのつながりをつくる。
もし、「本は環境再生につながる」という仕組みが確立できれば、出版不況と言われて久しいなかでも、「本のエシカル消費」みたいなことが起こるかもしれません。
それにこれなら、前述した本の大量生産・大量消費のシステムとも共存できるわけです。なぜなら、本をつくればつくるほど森が豊かになるのだから。もちろん環境を損なわない程度の適量であることは必須でしょうが、既存のシステムはあったほうがとても助かる。ただしほんの少し、目先を変えて、仕組みを整えるだけです。
課題
ただ、2024年現在、八燿堂はリサーチを開始したばかりで、何の成果も得ていません。特に立ちはだかっているのが、
国内、特に長野の木材からパルプをつくる工場(できれば長野に所在)
これがなかなか見つかりません。木材の輸送時に排出するCO2量を考えると、地産地消することがベストだと思われ、ゆえに長野の木材を長野の工場で加工する方法を探しているのですが……やはり、前述したように国産の木材を使用すること自体がコストに見合わないため、「そもそもそのような工場が存在しないのではないか」という懸念もあります。
『sprout!』だけ、もっと言えば本の印刷だけでは、工場の機械を動かす採算が合わない、ということなら、八燿堂としては本だけにこだわっているわけではありません。例えば、行政の発行する文書や広報誌、学校で使用する教材にも、この紙が使えないでしょうか? それでもコストに見合わないのであれば、補助金や助成金も視野に入れられないでしょうか? もしくは、そのような製パルプ工場が存在しないなら、いっそのことゼロからつくってしまう?
まだリサーチを始めたばかりですが、ここまで来ると一人出版社だけの手に負えません(笑)。プロジェクト全体が林業、製パルプ・製紙業、流通などにおよぶため、実現するには相当ハードルが高いと感じており、さまざまなセクターの協力が必要です。一緒に並走していただける方、ぜひともお声がけください!
▼八燿堂について
▼sprout! について
▼mahora について
▼八燿堂の中の人、岡澤浩太郎について
〔サポートのお願い〕
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よろしければ、このプロジェクト"sprout!"や、八燿堂の活動にサポートいただけたらうれしいです。金額はご自身のお気持ちのとおりに、任意でご指定ください。いただいたお金は、本の印刷費やポッドキャストの制作費、フライヤーなど宣材物の制作費などにありがたく充当させていただきます。
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