[interview]#16 前田美沙さん(ヨアケ茶園/天龍村)
飲んだ瞬間に広がる独特の味わいに驚き、産地を聞いて二度驚いた筆者。天龍村? 長野でお茶ができるの? 気になって取材に向かった先は、ほぼ断崖絶壁にへばりつくように佇む、絵に描いたようにのどかな集落。中井侍という集落の名前もまた驚きでしたが、案内してくれた前田美沙さんは野生児のように健やかで、話す内容もなんとも達観しているというか頭ひとつ図抜けていて……詳しくはご一読いただくとして、とりあえずひと言言わせてもらいます。こんな場所があったのか!
編集・取材・構成=岡澤浩太郎/八燿堂
写真提供=前田美沙(except top)
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※このインタビューのダイジェスト+αはポッドキャストで公開しています
暮らしとともにあるお茶
岡澤浩太郎(以下、岡澤) 前田さんは天龍村にある中井侍という集落でヨアケ茶園を営んでいますね。
ヨアケ茶園のお茶は上田市のNABOで飲んだことがあるんですけど、初めに飲んだとき、すごく独特と言うか不思議な感じがしたんです。緑茶のような爽やかさじゃなくて、どこか中国茶っぽいというか……。
前田美沙さん(以下、前田さん) 発酵茶みたいな?
岡澤 ああ、それか! ちょっと複雑な味がしたんです。
前田さん 中国茶や烏龍茶もそうなんですけど、ひと晩寝かせると発酵茶に近くなるんですよね。だからどうしても毎年味が少しずつ変わるんです。
岡澤 前田さんは初めて飲んだとき、どう感じました?
前田さん いまは慣れちゃいましたけど、確かにそれまで飲んでいたお茶とは全然違って。
それまで、お茶って渋くて苦くて、甘いお菓子に合うもので、単体で飲むイメージはなかったんですけど、ここのお茶はお茶単体で飲んでも全然胃に負担がないというか。具合が悪くても飲めるし、すごく優しいお茶だなと。
岡澤 ああ、確かにやさしい味ですね。この辺の人はもうずっと飲んでるわけですよね?
前田さん 一日中ずっと飲んでますね(笑)。
岡澤 「CHAGOCORO」のインタビューにもありましたけど、集落の人にとっては、もう本当にお茶と生きることが一致している感じなんでしょうね。お茶を飲むだけでなく、収穫する場面とか、ひとつひとつが生活に染みついているというか。
前田さん そうですね。結果的にお茶は売っているけど、それがメインなのではなく付随しているだけで。暮らしのなかにお茶があって、ずっと続けてたんだなって。
岡澤 前田さんは天龍村に来て何年目になるんですか?
前田さん 7年目ですね。あっという間でしたけど。
岡澤 いまは具体的にどんなお仕事をされているんですか?
前田さん 自分のお茶畑と、高齢になったじいちゃんばあちゃんのお茶畑の管理です。平均年齢84歳くらいなので、茶摘み以外の肥料撒きやお茶の木の剪定を私が請け負ってやらせてもらっています。
岡澤 管理委託ということですね。作業はひとりでやるんですか?
前田さん そうです。すごく忙しいときは友達とかに手伝ってもらうこともあります。
岡澤 あれだけの面積で、しかもすごい傾斜だから、大変じゃないですか?
前田さん 大変ですね(笑)。夏はかなりきつかったです。
岡澤 それから工場もやられていますよね?
前田さん 集落の上のほうに製茶工場があるんです。もともとは中井侍のお茶の生産者組合で運営していたんですけど、高齢化でみんなやるのが難しくなったので、私と、以前地域おこし協力隊で村に来た若いお兄さんと、パートのおばさんと、おじさんの4人でやっています。
工場が稼働するのは茶摘みの時期の5月の20日間だけなんですね。それで、製茶する合間に自分の畑を摘んで、加工して、という感じです。
無理せず、のんびり、それで十分
岡澤 年間の流れは?
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