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[日日月月]2009年9月、モロッコ
この連載は…
八燿堂の中の人、岡澤浩太郎による、思考以前の言葉の足跡です。まとまらないゆえとっちらかってますが、その過程もお楽しみいただけましたら
新卒から数えて2社目となった出版社を退社した私は、有休消化の折に行ってみたかった国々を訪ねた。そのうちのひとつがモロッコだった。
フェズ、マラケシュ、サハラ砂漠、アトラスの麓、カサブランカの港、さまざまな遺跡、といろいろとまわった記憶があるが、当時の写真を引っ張り出してみたら、記憶が混濁していて、どの町でどの写真を撮ったのか、定かではない。結果、ランダムになると思うが、少し紹介しようと思う(持参したデジカメが故障しガラケーで撮った記憶がある。画質が悪いのはその理由ということにしておく)。
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あれはフェズの旧市街だったか、思い出すのは美しい路地で、9月の強い日差しが建物に遮られて、けれどやっぱり暑くてじっとりと流れる汗をぬぐいながら、石畳で舗装された道を行くのだが、くねくねと複雑に曲がりくねっていて、どこをどう歩いたかさっぱりわからなくなる。
どこの市場だったか、とても巨大で、面白がって観光客が行かない奥の方へどんどん進んで行ったら、だんだんと露店や商店の品ぞろえが変わり、人々にじろじろと見られ始めて、何を感じたのか、男が私に歩み寄り、「ハッシシ?」と声をかけられて苦笑した(当たり前だが断った)。
これもどこの町だったか、佇まいが気になって入った小さな店が書店で、アラビア語の分厚い本が狭い店内の壁にびっしりと並べられていた。記念に何か買おうかと思ったが、どことなく静謐とした空気で、宗教的な本だと直感し、これは安易に踏み入ってはならないだろうと、後ろ髪引かれながら店を出た。
ああそうだ、いまはどうだかわからないが、モロッコは南北に文化のグラデーションがあって、北に行くほど色が白くなり、南に行くほど赤茶色くなっていく。建物も、人の肌も。
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雇ったガイドが気を遣ってくれたのか、食事はどれもとても美味しくて、何日目だったか、主食のようなトウモロコシの何かを食べ過ぎて、腹を壊して寝込んでしまった…。
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遠くの砂漠まで、朝早くラクダに乗って、日の出を見に行った。夕焼けみたいに赤かったこと、太陽ののぼる速さがあっという間だったことに、驚いた。確かベルベル人のキャンプでお茶をごちそうになったと思う。
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携帯電話がまだめずらしかったのか、カメラを向けると子どもたちははしゃいでくれた。どこの町だったか、夕方、宿から出て散歩していると、現地の人たちにじろじろと見られて、好奇心で子どもが寄って来て、言葉もわからず適当にコミュニケーションしたら、なんだか通じたような気になって、少しの時間だったけど、一緒に遊んだ。
どこだったか、初めて着いた町で、宿の部屋の窓辺で疲れた体を休ませていると、夕方になって、日が暮れて、建物が白っぽく統一された街並が美しく染まって行って、するとモスクからか、アザーンの、声というか音というか音楽というか、が流れてきて、町は昼間の喧騒を急速にフェードアウトさせたように映った。アザーンが収まるころ、晩御飯を待ちわびたような子どもの声がし、お母さんなのか、大人の女性の声がそれに応じた。
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かつてビート系の文化人たちが魅了された町。私はなにに惹かれてモロッコを訪れたのか、まあ、ただの直感だったと思うが、やっぱり旅は私の予想をはるかに越してくれた。ひと言でいうなら、美しかったのだ。
愛しい日々。私はひとりだったけど、世界に包まれていた。
不条理とか、理不尽とか、悪魔の仕業だとか、いろいろな言い方ができるのかもしれないけれど、人間にとって逃げられない何かが訪れることが、あるにはあって、そんなときに自分に何ができるのかと、じっと手を見る。
愛しい町、どうかその美しさを、失わないで
R.I.P.
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