【諺】場に咲かず、実も結ばず
麻雀の卓に座るとき、誰だって気合が入る。牌が配られる瞬間、今日こそは和了の嵐を巻き起こすつもりだ。最初の配牌を見て、「よし、今日は行ける」と気合が高まる。そして、局が始まる。ところが、最初の数巡が過ぎる頃、早くも異変が起こる。手を進めようと考えているうちに、隣のプレイヤーがさっと牌を捨て、ツモ牌を見てにやり。次の瞬間、リーチの声が響く。あれ、もうリーチ? まだこちらは何も形になっていないのに。
「これはまずいな…」と思いつつ、さらに数巡が進む。リーチが宣言されたあとの場は一段と静かだが、頭の中はざわついている。そうこうしている間に、別のプレイヤーがすかさずリーチを追っかける。牌を出す手つきが、どこか自信に満ちている。対照的に、こちらの手はまだ全く整わない。周りがどんどん進むのを横目で見ながら、ただ無言で牌を切る。
そして次の瞬間、あの音が響く。「ロン」。またしても自分以外が和了だ。横に座るプレイヤーが嬉しそうに牌を倒し、得点をかき集める。私はただ、何事もなかったかのように牌を片付ける。そう、何も起こらなかったのだ。自分には、何も。
局が進むごとに、周りは着実に手を進め、次々と和了していく。隣のプレイヤーがツモり、向かいのプレイヤーが再びリーチ。誰もが手を固め、華々しく咲いている。だが、私の手元には何もない。次の局に入っても状況は変わらない。牌を切るたびに、希望が少しずつ遠ざかる。手は動かしているが、場の流れにまるで乗れない。周りが盛り上がっている中で、私だけが静かに孤立しているようだ。
「リーチ」「ロン」「ツモ」。周囲から次々と和了の声が上がる。どこか遠くから聞こえてくるその声を聞き流しながら、私はただ牌を切る。勝負の場にいるはずなのに、まるで参加していないような気分だ。局が終わっても、何も感じない。隣で牌をかき集める音が響くが、私にはその音もどこか遠くに聞こえる。何も起こらなかった。いや、私にとっては何もなかったのだ。
気がつけば、私の目は卓の端に固定されている。誰かが和了したのか、それとも流局したのか、それすらもどうでもいい。感情はもうとっくに消え失せていた。虚無。それだけが私の中に静かに広がっていく。
牌を片付けながら、私はただ淡々と動いていた。勝負はあったのだろうか? この数時間、私は何をしていたのだろうか? 答えはない。虚無だけがそこにある。感情がなくなったかのように、ただ一点を見つめる私。今日もまた、場に咲かず、実も結ばず。無表情で牌を積む音が響く中、虚無がすべてを覆い尽くしていた。
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