第66回まひる野賞受賞作自選十首①
「職を失う(原題:スター)」 佐巻理奈子
膝小僧両の腕(かいな)に抱いているまだまだ不幸じゃないこの体
補助業務の補助はどこまでだったでしょう 五時のチャイムの響く薄明
バス停の闇に紛れて寝る人よその横を往く車の光よ
白鳥はあんまりおいしくないと知りスマホを消して眠りにつけり
暗がりの揺らめく底に沈みたる金貨いつまでも祈りが残る
とろとろと灰汁をとるなり開口の浅利のたましい浮かぶあたりを
逃げ道を探す夢から目覚めれば、あれは道ではなく夜の河
Kさんにあげた残りの箱ティッシュそろそろ次の箱になるころ
縛られたまま咲きあふる連翹のやりっぱなしのやられっぱなし
散り散りになった預金が手を振っているような空まっすぐに行く