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第69回まひる野賞受賞作品②

ベランダから見える公園

吉岡優里

 

夜が片目を開けて照らした公園の砂場に刺さる赤いスコップ

公園に猫は現れ弧を描きジャングルジムの傍に落ち着く

声帯切除された小犬が鳴くようにさみしさはいま息をしている 

きみに似た新たなきみと恋をして視界にいつも横顔を置く

月面を歩くつよさで真夜中のしずかな車道をふたり歩いた 

砂の頬に涙が道を作っても母の両手は頬に触れない

這うように手首に泡が滴ればくちびるは添うぬるい手首を

この世は別に酒を飲んでも変わらないただ半袖が寒くなるだけ

裸足は身体を惨めに冷まし短パンの脚を抱えて月を見上げた

夏の雨は言葉にすれば美しい遠雷はなぜこんなに光る

雨粒に星の粒子が迷い込み濡れてゆくほど光る気がした

風邪をひいた心のままで風邪をひく 痩せたタオルがなぜかやさしい

ティッシュぺーパー一枚を抜く一瞬の音は響いて独りの部屋に

地球のゴミのようなわたしを朝方の夏のひかりは許してくれる

顔のないこどもの声が駆けている朝の終わりにトーストを焼く

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