第66回まひる野賞受賞作自選十首②
「嬌声と黙(もだ)」 久納美輝
噴水の前で聖書を配る人とあつい握手を交わしたい冬
自転車を押し上げながら口ずさむサイン、コサイン、あとなんだっけ
こめかみに指先あてて引き金を引かばずどんと耳に赤富士
坂の上より見下ろせばはてしなく合わせ鏡のごと続く路地
踏切にセーターを脱ぐセーターと車輪に起こる青き火花(イスクラ)
歳を経(ふ)るたびにちいさくなる祖母を庭より見たり遠近法で
どちらかが死ぬまで続く祖父母らのいさかいのなか入れ歯を運ぶ
ブレーキを小きざみに踏む助手席の母があかべこみたいに揺れる
額からつま先までの自意識をコインで軽く削ってください
鈍行のいろんな席で眠りたい車窓から降るひざしのなかで