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旅で磨こう「文化力」

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「大人の心は、いつも発見の旅を待っている」。そんな旅のヒントを、これまで体験した内外の旅を通じ伝えたい。
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旅で磨こう「文化力」 始めます

#旅行 #紀行 #文化力 #エッセイ  世界を席巻した新型コロナ禍で、増え続けていた海外への旅は、すっかり冷え込んでしまった。されど旅の魅力は色褪せることはない。旅は発見と感動を与え、好奇心を満たしてくれる。さらに旅によって、「文化力」を磨くことが出来る。私にとって、旅は生きていることの確認の場であった。智が満ち、歓びの原動力となる、そんな旅を、生ある限りこれからも続けたい。気障に言えば、「大人の心は、いつも発見の旅を待っている」。そんな旅のヒントを、これまで体験した内外の

日本と韓国をめぐる不幸な歴史に向き合う旅— ソウル 日本で処刑、埋葬されたテロ犯、祖国では英雄・銅像に

 日本と韓国の不幸な歴史の中で、尹奉吉(ユン・ボンギル)が1932年に起こした「上海爆弾事件」があった。尹はテロ犯として、金沢で処刑、埋葬されたが、戦後になって掘り出され、母国に埋葬し直された。私が朝日新聞金沢支局に在任していた1991年に、この史実を知った、時を経て2004年6月になって高句麗研究の学会と、韓国中央博物館などの美術品見学に出向いた際、尹の墓や記念館を訪ねた。尹は英雄として祀られ、慰霊碑や銅像まで建 立されていた。1909年にハルピン駅で伊藤博文・前韓国統監

芸術が花開き魅惑の地を有するスペイン古都の無差別爆撃に抗議し制作したピカソの《ゲルニカ》

 一枚の絵画を見ることを主目的に海外へ出向いて行ったことがある。スペインのマドリードにあるパブロ・ピカソ(1881-1973)の《ゲルニカ》だっ た。2007年秋のことだ。朝日新聞社では1995年、戦後50年企画の目玉として、実物を借用し日本で展示したいという悲願があり、私も関わった。しかしスペイン政府は門外不出を崩さず、持ち出し許可が得られず、米ポロライド社の特殊撮影での実写による原寸大のレプリカ(複製)を展示した。定年後には現地で本物を見たいとの思いが宿っていた。スペイ

日中国交正常化40周年の年、日本とゆかりの大連へ 租借地となっていた満州時代の名残の建築数々

 隣国の中国への旅は両手足の指を足した数ほどになる。1996年に唐時代の都だった西安を皮切りに、首都・北京をはじめ、シルクロードのルートにあるウルムチ-トルファン-クチャ-カシュガル、敦煌など西域にも何度か、世界遺産の景勝地として知られる九寨溝・黄龍、さらには北朝鮮と国境を接する集安にも足を延ばしている。敦煌に次いで、今回は日中国交正常化40周年の2012年4月に訪れた東北エリアで日本とゆかりの深い大連・旅順・金州の旅についてリポートする。 『アカシヤの大連』の舞台を彩る美

経済危機から復活、五輪の聖地ギリシャ世界史を飾った輝かしい古代文明の名残をそこここに

 4年に一度、世界の人々を熱狂させる平和の祭典オリンピック。その発祥の地がギリシャにある。聖火はオリンピアの遺跡で点火され、開催地へと運ばれている。パリ五輪の開会式がセーヌ川で行われ、船上パレードは五輪発祥国のギリシャが先頭で登場していた。古代地中海世界の大国であったギリ シャのアテネにアクロポリスが鎮座する。2024年5月、秋篠宮家の次女、佳子さまは日本との外交関係樹立125周年に公式訪問されクロポリスにあるパルテノン神殿を視察された。私が初めてギリシャを訪れたのは、国家

五輪開幕で賑わうパリは、何より画家の聖地 ルーヴルやオルセー美術館に世界の至宝

 パリでオリンピックが7月26日から8月11日まで開催。その後、パラリンピックが8月28日から9月8日まで開かれる。パリは2004年と2010年に2度訪問しており、14年ぶりに3度目のパリを楽しみたいが、観戦・観光客ラッシュや円安もあり、ここは過去の思い出を綴る。  《ミロのヴィーナス》と《モナ・リザ》に魅了  花の都にとどまらない。ファッションの、グルメの、革命の……など様々な形容で多くの人の感興をそそるパリ。しかし私にとっては一にも二にも芸術の都なのだ。30年有余、ア

「大英」だけではない、魅力あふれる イギリス紀行            文学の舞台や自然美の湖水地方や田園、水道橋…

   初めてイギリスを旅してから13年も過ぎたが、その年、ウイリアム王子とケイトさんのご結婚直前でイギリス国旗が各所に掲げられ、テレビ取材の準備も進められていたこともあって、よく覚えている。栄光の大英帝国時代の名を冠する大英博物館を訪ねたいと、機会をうかがっていた。その旅は、イングランド北部の湖水地方から中央部のコッツウォルズ地方、さらには南西部の古都バースなど多くの魅力に満ちた土地を訪ねる10日間のツアーだった。「大英」だけではなかったイギリスの魅力を、行程に沿って記す。

人の死を見つめた旅、インドのベナレス巡礼者が求める人生の最後、河畔で焼かれ骨灰が川へ

 一枚の写真の前でくぎづけになった。「藤原新也の聖地 旅と言葉の全軌跡展」(2004年、朝日新聞社主催)を見た時のことだ。その写真には、人間の死体を犬の群れが食べている光景が撮られていた。目を背けたくなる作品は、まぎれもなくインドのベナレスで撮った現実の一コマであった。写真には「人間は犬に食われるほど自由だ」のタイトルが添えてられていた。  藤原はインドを長く放浪した写真家で知られている。文章も達意で、小説家であり思想家でもある。展覧会の図録にはこんなコメントを綴られている

「砂漠の美術館」中国の敦煌は世界の宝 窟の数は1000以上も、壁画や塑像に加え古文献

    甘州から粛州までは五百支里(編注・一里四百-四五十メートル)、約   十日間の行程である。水の涸れた川の岸に露営した翌日から、部隊は細   かい石の原へはいったが、その石の原は進むにつれて次第に沙漠の様相   を呈して 行き、終いには全くの沙漠に変わってしまった。行けども行   けども一木一草なく、沙の原だけが果てしなく続いて遠く天に連ってい   た。馬は沙中に脚を埋めないように蹄(ひづめ)に木履を履かされ、駱   駝は蹄を※牛(やく)の皮で包んでいた。  (講談社

神秘と謎に満ちた古代エジプトを再訪 ピラミッド圧巻、ナイル川流域の古代遺跡も驚嘆

 エジプトの旅の続編で、2003年12月のシナイ半島訪問後、12年の時を経て2015年9月に再訪した。ギザのピラミッドから2キロの近くで建築中だった大エジプト博物館は、新型コロナウイルスの感染拡大で何度も延期され、2024年春に開館する。世界遺産のピラミッドの観光と、《ツタンカーメン王の黄金のマスク》を展示するエジプト考古学博物館の鑑賞は当然として、2度目の旅のハイライトは、クルーズによるナイル川の上流にあるルクソールやアスワン、アブ・シンベルなど古代エジプトの遺跡めぐりだっ

初めてのエジプトはモーセのシナイ山 敬虔なイスラム教国家に旧約聖書の世界

 7000年前、世界最初の文明を拓いた古代エジプト。悠久の歴史を持つエジプトへの関心は高く2度旅した。その魅力は、謎に満ちた巨大建築物のピラ ミッドだけではない。今回はシナイ半島を取り上げる。エジプトはスエズ運河を挟んでアフリカと中東に領土を有する。中東ではイスラエルとパレスチナのガザ地区に国境を接し、昨年末からの中東の戦乱ではガザへの救援物資が国境の検問所に運ばれていた。約20年前の2003年12月、モーセが十戒を授かったとされるシナイ山に登り、ご来光を仰いだ思い出が今も

かつて日本の統治下、“有事”懸念の台湾今や世界トップの半導体、観光新名所も次々

 近年、気になるニュースに“台湾有事”がある。中国政府は、台湾はもともと中国の領土だとして、必ず統一すると主張してきた。中国が軍備増強を図り国力をつけるなか、軍事力を使ってでも台湾を統一するという構えを見せるようになっている。これに対し、アメリカは「中国が台湾に侵攻したらアメリカは軍事的に対応する」とする考え示し、平和的な関係を望む日本も、その立ち位置が問われている。台湾は、かつて日本統治下にありながらも親日的だ。中国大陸から分かれ、政治や行政、経済も独自路線を貫き、アジアの

日本と古くから歴史の交流、芸術と文化のオランダ 数多くの名画を遺し、37歳で自殺した薄幸のゴッホ

 オランダは、江戸・徳川幕府の鎖国時代も長崎湾に浮かぶ扇型の人工島“出島”を通じて、唯一交易を続けた国だ。西洋の様々な物品だけでなく蘭学が普及し、オランダは“新しい世界への窓”となった。歴史的に、鉄砲やキリスト教伝来のポルトガル同様に、関心を寄せていた。すでに4半世紀も前になったが、2000年8月、旅行社が企画した「名画と古都」のツアーに出かけた。 1987年に安田火災海上保険(現・損保保険ジャパン)が、ゴッホの代表作《ひまわり》(1888年)を53億円で落札して世間の耳目

大航海時代の残影、ポルトガルを初訪問華麗な装飾の修道院や独自の文化的建造物の数々

 ポルトガルへの旅は、私にとって56ヵ国目とはいえ、いつか訪ねるであろうと確信していた。幼い頃学んだ鉄砲やキリスト教伝来の歴史の記憶や、7年前に隣国のスペインを旅していて「次は」との思いもあった。15~17世紀、未知の世界に勇躍し一大海洋国家を築いた大航海時代の輝かしい歴史の残影と、華麗な装飾の修道院が点在し、独自の文化的建造物や景観は、大いに好奇心を満たしてくれた。加えてキリスト教の三大聖地とされるスペインの「サンティアゴ・デ・コンポステラ」に足を延ばせたことも有意義であっ