【ロック少年・青年・中年・老年小説集】「中年からのバンドやろうぜ1…〈肥満とブルーズ、減量とロック⑤〉~プロディガルサン失意の日々2~」
MRI検査までは1か月半ある。
回転性のめまいは、自力でしか治せないのではないか?
直観的に自分で治そうと考えて…まずは減量を開始した。
しかし、やみくもに食べないようにしたところで、
食べることが好きな自分には限界が来ることが見えていた。
なんとか、食べながら痩せよう。
都合のいい考えだったが…
一般的な少しずつ痩せるなどという、
悠長なことを言っていられない体調不良。
体重増加に一因を求めても不正解とはいえないであろう。
そもそも、こんなに体重が増える前は、こんなに
体調が悪かったわけではなかったと思う。
いや、もしかして、体調が悪いということが太る原因なのかもしれない。
一度思い立ったら、とまらない性格だ。
まず、体重を落としてみよう。
実行の前に、いろいろ調べてみた。
ビバリーヒルズダイエットも知っていたが、
これは大食いになっていく傾向もあるし、
第一、お金がかかる。
続かない。
他にもグレープフルーツを食べ続けるだとか、
いろいろあることも実は知っていた。
詳しいといってよかった。
しかし、どれも挫折した。
こうなったら、まず、
健康に向かうようにしてみよう。
それには野菜をたくさん食べたらどうか?
ユキオはしばらく大量の青菜などを食べ、
玄米や大麦などを食べだした。
極端だが、豆腐を大食いしたりもした。
納豆も…しかし、極端なことは、
続けることは難しくなるものであった。
しかし、めまい症の
「いつ起きるかわからない」恐怖を考えると、
なんとか、少しは体重を落としたい。
押し入れの奥にしまっていた体重計を使って…
日誌をつけながらの減量が始まった。
体重は重い場合、
最初はまあまあ減っていく。
大量の野菜、玄米、
豆腐、納豆…
食べない減量よりはるかにましであった。
2週間たつと、
体重は4キロ減っていた。
めまいの発作は、
なぜか出なくなっていた。
気のせいか…2週前よりは体調がよくなった気がする…
気をよくしたユキオは、
非番の日に、区の管理栄養士の無料相談や、
健康ストレッチの無料講習会等に参加した。
Mさんという女性の管理栄養士に相談したところ、
自信満々で見せた日誌は、
プロの目からは無理のあるものと判断された。
まあ、当たり前だった…
落胆するほどではないが、
Mさんの厳しい指導をうけながら献立の例などを
いただいた。
まず、ユキオのダイエットの問題点は、
野菜をとりすぎていて、
他の栄養が吸収できない可能性があると言われた。
まさか…そんなことがあるのか。
「コグレさんの場合は、1㎏以上とってますが、
例えば一緒にとったたんぱく質の吸収を阻害するかもしれません。
もう少し、全体の量を減らして、バランスよく、
野菜は350グラムを1日にとるようにして、
揚げ物はもう今後食べないようにしてください」
「揚げ物ですか…とんかつとかはだめなんですか?」
「今後は食べないほうがいいでしょうね」
「一生ですか?」
「…痩せるまでは、やめたほうがいいでしょうね」
一生とんかつは…絶望がやってきた。
「でも、月に一度は豚骨ラーメンのスープはいいでしょうね。
コラーゲンがとれます」
「はあ? とんかつはだめで、豚骨ラーメンはいいんですか?」
なんだか、ユキオは疲れてきた。
「ごはんは無理に玄米にしなくてもいいですが…
お茶碗1杯、小鉢でいいですから、30品目を目標にして、
一日3回、ゆっくりとよく噛んで食べてください。揚げ物はとらないようにして、焼き魚、ゆでた魚肉、大豆製品などをバランスよく…」
「1年でどのくらい痩せますかね?」
「1年で1キロと考えて10年で10キロ落とすようにしてみたらどうでしょうか?」
「10年後でもまだ10キロしか減らないんですね…」
「何キロおとしたいんですか?」
「20歳のときの体重何で、最低でも20キロは落としたいです」
「無理して落とすとリバウンドしやすいですし、健康を損ないます。
BMI値で標準体重まで落とせばいいんじゃないでしょうか?」
非常に管理栄養士の方らしい、現実的な提案ではあった。
お礼を伝えて、区役所から帰った。
確かに、いまの極端なやり方も続けるのは無理だという気もした。
Mさんの献立例などを参考に、
今後は歩くこと、腹筋やストレッチに重点を置いて、
新たに減量作戦を開始した。
ドン・キホーテで万歩計を購入し、
ウォーキングの記録を開始した。
あと1か月、MRI検査の日までに、
体調をよくしておこう。
ユキオはなんだか節制の日々に
心が落ち着くような、心の張りを感じつつあった。