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トートタロット人生相談所⑪「3人の魔術師…模話氏編④~マリアンヌ先生~」

印刷所に入ることが、決まり社員宿舎に入居した日、街に出た。

久しぶりに解放感があり、新宿に出た。
今日は土曜日。仕事は、月曜日から。
こんなのびのびした日は久しぶりだった。

社員宿舎は、印刷所からは5分くらいで、会社で借りているアパートのようで、全部で12戸くらいだった。隣人へは引っ越しの際にあいさつをした。
2階の角部屋で、鉄筋の1DKで、古いが風呂もあるし、家賃は会社の手当があるため2万円。再出発には理想的な環境だった。

新宿の三丁目に向かって歩く。別に目的はなかったが、街路樹が心地よかった。赴くままに歩いていると、ふと占いの看板を見つけた。所持金が、あまり減らなかったこともあり、ふらりとビルに入った。

雑居ビルは半階上にエレベーターがあった。
占いのお店が何店舗か入っていた。
そのうちのある店に入った。

「いらっしゃい。ご予約ですか?」
「いえ、はじめてです」
「どのようなことを占いたいですか?」
「いま、幼少期のことで、トラウマといいますか、性格を改善したいと思っているんですが…よいアドバイスができる先生がいらっしゃればうれしいです」
「わかりました。では、こちらにどうぞ」

すぐ、奥のブースに案内された。
「どうぞ、こちらです」
「はい」
ドアをあけると、若い痩せた背の高い女性が座っていた。
「マリアンヌといいます。よろしくお願いいたします」
「あ、よろしくお願いいたします」

しばらくやりとりがあってから、当初のトラウマの話になった。
どういう占いなのかわからなかったが、ここは霊感占いのようだった。
子どもの頃の出来事をできるだけ伝えたあとに、
マリアンヌさんはしばらく目をつぶっていたあとに、
守護霊から受け取ったという言葉を語りだした。

「あなたが、うまくいかない人生を送ってしまった理由を、
守護霊の方が伝えているようです」
「どういわれているのでしょうか」
「ショックを受けるかもしれませんが、聞かれますか?」
「ええ、もう、ここまで不幸が続いているので、受け止めて少しはましな人生を生きたいと思っているんで…お願いいたします」

「途中で聞きたくなければおっしゃってくださいね。かなりショッキングなことですので…」
「え…そんなにですか」
「ええ、やめときますか?」
「いえ、聞きたいです」
「わかりました。では、お伝えいたしますね。まず、あなたはいままでトラブルを起こしてきた人たちのことですが、まず、思い出してください」
「はい」
「そのひとたちは、ご守護のかたはとても善意があって、優しい方がほとんどだったとおっしゃっています。それにもかかわらず、あなたは、その方々の善意を逆恨みしてトラブルに発展するケースが多かったようですね」
「え…そうでしょうか」
「はっきり言いますが、あなたは、自分の気持ちを抑え込むタイプで、
自分がトラブルになると危険を及ぼすタイプには恐怖心があるため、その人たちに対しては攻撃性を抑圧していましたね」
「…」
「つまり、自分が安全だという、攻撃しても怖くない善良な人たちかどうかを確認したうえで、あなたは攻撃性を解放してきたということです」
「あ…」
「続けますか?
「お願いします…」
「要するに、弱いものいじめに近い形で、逆恨みだとか、いいがかりに近いかたちでその人たちを攻撃してきたのです。つまり、加害者なのに被害者としてその人たちを傷つけてきたということです」
「そんなことを、守護霊の方はおっしゃっているんですか?」
「はい。このままでは、人間としてやってはいけないことをしたまま死ぬことになるから、早く気付いて、自分を変えるように言われているようなのです」
「…」

「あなたは、そういう状況をどこかたのしんでいるようです。不幸を自分から望んで、まっしぐらになっています。いま、気付かないと、もっとたいへんなことが待っているので、いまなんとか自分と向き合うように…そうおっしゃっているようです」
「…」

「ショックを受けたと思いますが、正直に伝えさせていただきました」
「…実は、いま、そういうことをセラピーなどを通じて、なんとか解消しようとしているのですが、それにしても、悪魔のような人間性で、おはずかしいです」
「ご守護のかたの助言を受け止められることが、きっと今後につながると、ご守護様からも言われています。苦しいかもしれませんが、がんばってみてくださいね」
「ありがとうございます。なにか先生からもアドバイスをお願いします」
「…。思い切っていいますが、あなたはこういう助言をされても、すり替えてしまうタイプです。時間がたつと、こういう内容もすり替わり、忘れてしまいます。それが、いまの状況をつくりだしていることを理解する必要があるようです。逆恨みだとか、この性格も、憑依だとかではなく、ご自分でつくりだしているものです。ただ、本来の魂はこういうエゴとは関係がありあません。ですから、このエゴをつくりだしてしまった理由、原因をつきとめるとともに、自分の意志の弱さを克服して強く生きてくださいね」
「…」
「少しいいすぎたかもしれません。気づいてないかもしれませんが、あなたはいまものすごい目で私をにらんでいます。あなたのエゴが今出ていることに気付いてください。よかったら鏡をみてください」

鏡には三白眼の悪魔のような目が映っていた。
なんとか自分を抑えていた…しかし、本当のことを言われていると感じてはいたが、怒りが湧き上がってきていた。
なんとか自分を冷静に保ちながら、
部屋を出た。

打ちのめされた状態で、茫然としたまま、1時間くらいして社員宿舎に着いた。明るいうちに冷たい布団に入り込んで横になった。ぐったり疲れてしまっていた。

明日は、御形先生に予約を入れてある日だ。
なんだか落ち込んだまま、その日は食事もしないで気付いたら寝てしまった。気づいたら、真夜中だった。

水道から水を飲んで、冷蔵庫にあった魚肉ソーセージと食パンを胃袋に押し込んだ。背中からつかまれている不幸のかたまりを、いつも同様にかんじたまま、うがいだけして、また布団に入った。

虚空に何か、目に見えない存在が、あざわらっているような気がしていた。
動悸がしたが、気付いたら、寝入っていた。

【続く】

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