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第一話「おわりはじまり」/HSPの俺が想像力=強さの異世界に転移したら最強闇魔術師に! 転移前編
タイトル:HSPの俺が想像力=強さの異世界に転移したら最強闇魔術師に!
作者:まごころ
「敵に遭遇したら、、、それは自分自身だった」
ウォルト・ケリーの「ポゴ」より
――――――――――――――――――――
【ろ?ん?ー?は、??かい???りついた‼】
………
『勇気』。結局はここに行きつくことになる。
好きな人に告白する勇気、大勢の前に率先して出ようとする勇気、声を上げて自分の意見を伝える勇気、臆せず周囲を統一しようとする勇気、恥をかくことを厭わない勇気。
自覚はある。今の俺に一番足りないものだ。
周囲の目ばかり気にする人生を送ってきた。
常に相手の顔色をうかがって、関係なんて一切ない人間に気を遣って、特段酷い性格でもなのに優しい人間を取り繕って……バカみたいだよな。
でも、そうした当たり障りのない人間でいることが、俺の理想としていた平穏な日々を送ることに直結しているのだと、昨日ぐらいまでは疑ってなかったんだ……
だが、どうもそれは違うらしい。と知ったのは今日だ。
受動的に生きようが能動的に生きようが、人は人生のいずれかのタイミングで必要な決断を迫られる。周囲の目を乗り越えて、傷つく恐れと向き合わなければならない時がやって来る。
それを知ったのが今日だった。そして、こんな基本的なことすら知る機会がない、甘ったれた人生を送ってきた過去の自分の愚かさに気付いたのも今日だった。
ぬるく育った人間が招いた、当然の結果。
勇気のない者が導き出した、愚かな答え。
全く、つまらない人生だったな。
「はぁ……」
俺は奈島真司(なじま しんじ)。高校二年生。学歴は中の上。基本ぼっち。恋愛経験なんて、、あるわけないだろ。
学校の帰り道、俺は橋の上で手すりにもたれて黄昏ている。
今時珍しいよなそんな奴。通りがかった人達がチラホラこちらを見てたけど、まあ結構イタい奴だと思われたことだろう。
でもそんなことどうだっていいのだ。
気晴らしになるかと思ってかれこれ一時間ここで黄昏てたみたんだが、一向に気持ちは変わらないまま。
正直、辛い。
時間がたつほど胸騒ぎは高まるばかりだし、あの時出た冷や汗もまだ止む様子がないし、気持ち的にはもうここから飛び降りてしまいたいって感じだ。まあそんな人目につくこと恥ずかしくてできないけど。
え? 今日何が起きたのか? まあそりゃ、話さなきゃいけないよな……
うん、その、、えっと、、、うーん。
まあ、、とい、れ、、うーん。
…………
………………
要は…だから……おならを、、ね?
その、、、授業中に、出してしまって。。。
え? だからなんだって?
……くそ、なんで分かんないかな。
五時間目の国語の授業中、急に腹痛が訪れたんだ。
それで、最初はまあベルトとか緩めとけばどうにかなるだろって感じで、でもすぐに『あ、これ我慢できないタイプのやつだ』って感じ取って、急に胸騒ぎがし出して焦り出しちゃって、でも授業中に手を挙げる勇気なんて俺にはなくて、それで時計を見たら授業終了まで残り四十分だったけどもう死ぬ気で我慢するしかないやってなって、、冷や汗とかも滝のように出てきちゃって、、そしたら五分くらい我慢したところで『あ、もう無理っす。限界っす』ってなって、、頭も次第に正気じゃなくなってきてて、、、なんかもう勢い任せに立ち上がって手を挙げちゃって、、、
「あっ、せんせっ……」
「おお奈島! じゃあ次のP152の三行目から頼むぞ!」
(は?)
「えっ…いや、じゃなくて、と、といっ……」
「どうした? もう読んでいいぞ?」
「ち、違うんです先生! あの、トイレ行きっ――」
ぶ~ぅぅぅぅうううう!
人生終了の合図。
そして俺はぶちまけてしまった。
間違いなく俺の人生の中で一番大きい音だったと思っている。
まあ不幸中の幸いと言っていいのか、大きいのは一切出なかった。
そういう面では助かったよ。人生終了したことに変わりはないんだけど。
少しの沈黙が続いた後、次第に教室がざわつき始めた。
微かに聞こえるヒソヒソ声が徐々に大きな笑い声に。
俺はすぐさま教室を出て走り出す。だが恥ずかしさの頂点だったのか、ここからは先はもう記憶がない――
帰り道。いつもなら何の感情も抱かずに通り過ぎていたこの河川敷に、今日は何かを見出して立ち止まってしまった。
……で、今に至るってわけ。
「(はぁ…もう帰ろう……)」
これ以上黄昏てても仕方がない。
河川敷は俺を救えなかった。そして俺は明日もその次の日もヘタレで意気地なしの放屁野郎なんだ。
もうそれでいいじゃないか……
【??まし?じは、いえ???るき?した‼】
登下校の際通る住宅街、いつもの道。だがいつも通りじゃない俺。心なしか街にも歓迎されてない気がする。
依然、胸騒ぎは消えないまま。歩を進める度にため息ばかりついてしまう。
ずっと考えている。あの時の俺には余裕があったしタイミングもあった。
いつでもトイレに行きたいと言えたはず。
それなのに俺は一度だけ恥をかく選択より、自分の人生を台無しにする方を選んでしまった。自分の人生を守る選択ができなかった。
俺はそんなに弱い人間だったのか?
周囲の目に選択を振り回されて、自分の人生を見捨てるようなそんな馬鹿な真似するような奴なのか?
確かにまだ手に入れたものは少ないけど、彼女作りたいとか、受験頑張って大学行って遊びたいとか、良い会社に就いて母さんの負担を減らしたいとか、それなりに目標作って頑張って今日まで生きて来たんじゃなかったのか?
分からない。自分が。
でもきっと、向き合わないといけないと思う。
じゃないと俺、これから先ずっと自分を嫌いになると思う。
「勇気が欲しい……」
正直、どうやって手に入れればいいのか見当もつかない。
こんな俺でも今から手に入るのか? 遺伝とか才能とかあるんじゃないのか? 追求し過ぎたら怪しい商材とか買わされるんじゃないのか?
あ、そうだ。まずは家に帰ってY〇uTubeとかで調べてみよう。胡散臭いインフルエンサー辺りが解説とかしてるだろ。あとy〇hoo知恵袋とかでも質問してみるか。
ちなみに明日学校休む予定だったんだけど、もしかしたら明日までにこの気持ち切り変えることができるかな?
よし、ちょっとだけ心に光が差し込んできたぞ。やっぱ人生なるようになるもんだな。
ふと前方を見ると、夕日が道を明るく照らしている。
気付けば俺はT字路に差し掛かっていた。このまま右を曲がればもうすぐ我が家に…
「(ん?)」
俺の正面、一つの小さな影がこちらに向かって歩いてきてる。
「(あれは……猫か?)」
そう、ただの一匹の猫。
見たことない人類の方が異例だと扱われるほど、世界中にありふれた存在。実際、この辺りでも子供が餌付けしている例もあって目撃するのは特段珍しいことでもない。
今更一見する価値などない。にも拘わらず俺は何故かその猫に見入っている…… いや、なんか見入ってるのとは違うぞ。何だあの猫…何故か目を反らすことができない。
突然現れた変質者さながら、視界に入れてなきゃ何が起こるか分からない恐怖の可能性を感じる。
【ろだ?げー?は、しょうねんをみ?けた‼】
あの猫の実態を掴みたい、なんて好奇心は皆無。さっさとこの場から離れよう。幸い家はもうすぐだ。
俺は急ぎ足に切り替えた。
不測の事態はもう十分。家に帰ったら調べものもこなさなきゃいけない。
よし、今から忙しいぞ。
プィィィィイイイ!!!!
「(わあああああああああ!!!)」
なんだ!? クラクション!? え、何、事故? どこで!?
マジでびっくりしたんだが…ちょっとおなら出ちゃったし。
だが猫から目線を逸らすことができた。一体何が起きた?
プィィ! プィ! プィィィィイ!
「(うるせえな……)」
再び前方を見ると、運転手と目が合った。
なにやらしびれを切らした表情で俺の方を見ている。
てか車来てたのか、全く気付かなかったな。
で、あの猫もまだこっちに向かって歩いてて… あーなるほど、あいつが路地の中央を陣取ってて通れないのか。この路地狭いし。
うんうん、確かによく見たら「この猫どうにかしてくれ」って表情で俺に訴えている。
まあ流石に無視するわけにもいかないか。
俺はすぐさま例の猫の元へ向かった。
というあのクラクションを間近で受けたんだよな? なんでまだそこを歩いていられるんだ? 危機管理能力的なのが、もう機能してないのか?
性格や環境にもよるのだろうか、人間様には分からん。
俺は不器用な手つきでそいつを抱え上げ、道の端へ寄った。
そして車の運転手に「捕まえましたよ」的な会釈を送ると、「ありがとう」的な会釈が返って来て、車はスピードを上げ去っていっく。
……とりあえず置くか。
近くにあった家の囲いに乗せようと、両腕を伸ばす――
「(白猫だったのか…)」
白けた様子でこちらを見つめている。
よく見ると結構ポンコツそうな顔してるしなんか意外とかわいいぞ。
それにあの驚くほどの鈍感さに加えて体には傷もないし汚れもない、となれば十中八九飼い猫だろう。
また厄介事に巻き込まれた。
それにしてもすごい瞳だ。
夕日のせいかキラキラ輝いて見える。それにコイツの目線、なんか眩しいんだ。熱い眼差しってやつを感じる。
「(ん?)」
そういえば、白猫なのに毛の感触がないな。
この触り心地…これは皮膚…か?
あれ、てかなんか尻尾長くね?
しかも、よく見たら体もちょっと光ってるんだけど。
え、怖っ。
何コイツ、キモっ!!!
思わず俺は手を離してしまった。
だが、コイツはそのまま地面に落下―― とはならない。
俺が手を離したのを感じ取った瞬間、重力に逆らい体を一回転させた後、そのまま宙に浮き始める。
徐々に高い位置に。そして俺を見下せる高さまで。
これは疑いようがない。
コイツ、ただの猫じゃねえ。