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釣り需要のコロナ特需が一服、市場在庫調整が長引く――ティムコ決算から読み解く釣り業界の現状

新型コロナウイルス感染拡大期には「密」を避けられるレジャーとしてアウトドアや釣りが大きな注目を集め、釣り具各社の需要が膨らみました。しかし、その反動と近年の円安・原材料高騰、また猛暑や水害などの天候不順が重なり、釣り業界は一段と厳しい局面を迎えています。

ここでは、釣具やアウトドア用品の企画・製造・販売を行う 株式会社ティムコ(東証上場、コード7501)の2024年11月期決算短信(2023年12月1日~2024年11月30日)を手掛かりに、釣り業界全体の今の市況感を、できるだけわかりやすく解説します。


1. ティムコの2024年11月期決算概要

売上・利益動向

  • 売上高
    32億12百万円(前年同期比 -5.6%
    コロナ禍に沸いた需要の反動減と、その結果として続く市場在庫調整が響きました。さらに猛暑や大雨被害、地震などの天候・災害要因で釣行機会自体が減ったことも売上減要因となっています。

  • 営業利益
    前年の1億16百万円の黒字から一転し、-30百万円(営業損失)
    仕入コストの上昇(円安・原材料価格上昇・物流費高騰など)や人件費など販売管理費の増加が重なり、マイナスに転じました。

  • 経常利益
    前年の1億18百万円から-24百万円(経常損失)
    持分法適用の関連会社(フライ用品の海外展開を担っていた可能性がある会社など)に絡む損失が響きました。

  • 当期純利益
    前年の1億8百万円の黒字から-1億9百万円(当期純損失)
    固定資産の減損損失や関係会社株式評価損などが重荷となり、最終利益も赤字に転落。

セグメント別の状況

  • フィッシング事業
    売上高:8億2百万円(前年同期比 -11.1%
    営業利益:54百万円(前年同期比 -53.1%

    • 円安による輸出は堅調だったものの、国内販売はコロナ特需の反動減に加え、天候不順で釣行自体が減少。

    • ルアー用品・フライ用品が厳しく、釣竿(ロッド)で一部好調商品はあったが全体を支えきれず。

  • アウトドア事業
    売上高:23億89百万円(前年同期比 -3.6%
    営業利益:92百万円(前年同期比 -50.3%

    • 暖冬や秋の高温で防寒衣料の販売が大幅に落ち込み。

    • 春夏物は比較的好調に推移し、通信販売(EC)も堅調だったが、結果的に前年割れに。

    • 仕入原価の上昇分を売価に転嫁しきれない状況と、人件費などの固定費が重なり大きく減益。

  • その他(不動産賃貸等)
    売上高:19百万円(前年同期比 -3.9%
    営業利益:12百万円(前年同期比 +36.5%

    • 賃貸面積のやや縮小がありつつも、修繕費の減少により利益は伸長。

    • 規模は小さいため、全体への影響は限定的。


2. 釣り業界全体に見られる「需要の反動減」と「在庫調整局面」の長期化

ティムコの減収・赤字転落には、以下のように釣り業界全般にかかる市況悪化が関係しています。

  1. コロナ禍による需要急増の反動

    • 密を避けるアクティビティとして一気に需要が高まった釣り用品。小売店もこぞって在庫を積み増した結果、ポストコロナでは需要がやや落ち着き、在庫が過剰に。

    • 特に、ルアー(疑似餌)や関連小物など単価の低いアイテムほど店舗に在庫が滞留し、メーカーへの追加発注が伸び悩む構図に。

  2. 為替や原材料高による仕入コスト上昇

    • 円安が続き、海外生産品(ロッドブランクやリールなど)の仕入価格が上昇。

    • 製造過程や輸送費の高騰も重なり、メーカー側のコスト負担が増大。

    • 消費マインドも一服しているなか、値上げ転嫁が難しく、利益が圧迫される。

  3. 猛暑・台風・豪雨・地震などの影響

    • 2023年夏~秋にかけて各地で極端な気象災害が頻発。

    • 高温や水害により釣り場・レジャーフィールド自体が利用できなくなったり、釣行への意欲がそがれたりするケースが増えた。


3. ティムコの今後の見通しと主な施策

ティムコは2025年11月期の業績について、売上高36億20百万円、営業利益1億3百万円、経常利益1億6百万円、当期純利益67百万円を予想しています。大きく増収増益を狙う背景には、以下のような取り組みが示されています。

  1. EC(オンライン販売)・デジタル施策の強化

    • 今後も拡大が見込まれるEC市場に対応し、商品ラインナップやプロモーションを強化。

    • 動画配信やSNSなどネットを活用したファン作り・ブランド訴求を一層推進。

  2. 海外展開の加速

    • フライ用品中心に海外での販売を進めてきたが、他ジャンル(ルアー、ロッド、アウトドアウェア等)にも展開拡大を模索。

    • 円安環境を追い風に、輸出比率を高めることでリスク分散と成長の両面を狙う。

  3. ブランド力・顧客接点のさらなる強化

    • 自社ポイント制度や直営店イベントなどでファンとの結びつきを深める。

    • 釣りとキャンプなどアウトドア他分野を横断的に楽しむ提案を強化することで、既存顧客の利用頻度アップや新規層の開拓を図る。

  4. アウトドアウェア事業の効率化と認知度向上

    • 「フォックスファイヤー」ブランドの認知拡大と商品力強化に加え、店舗の事業効率化(損益管理・人材配置の最適化など)を推進。

    • 防虫素材「スコーロン」など機能性素材の商品開発で差別化を図り、季節変動のリスクを抑えつつ収益を安定化していく狙い。


4. 釣り業界を取り巻く課題と期待

課題

  1. 在庫調整の長期化
    コロナ特需で膨らんだ在庫がまだ完全には消化されず、メーカーへのオーダーが低調。小売店・卸・メーカー各社にとって、在庫をどう回転させるかが喫緊の課題です。

  2. アウトドア競合の激化
    キャンプや登山など、他のアウトドア市場に比べると釣りはレジャー人口こそ多いものの、一部ジャンル(ルアーフィッシングなど)での競合が激化。特に国内シェアをもつ大手各社が積極投資する中、中堅メーカーや専門メーカーはブランド力・技術力で差別化が必要。

  3. 気候変動リスクの深刻化
    猛暑日数の増加、大雨や台風被害の頻発は、自然をフィールドとする釣り業界において無視できないリスク要因になっています。

期待・明るい材料

  1. コロナ禍で拡大した裾野は一定数残る
    一時的な反動減はあれど、新規に釣りを始めた人の一定割合が継続ユーザーとして残る可能性がある。初心者向け商品の販売や情報発信がカギ。

  2. 海外需要の取り込み
    円安をチャンスと捉えた輸出拡大、あるいはインバウンド(訪日外国人観光客)の釣り体験への訴求など、日本の自然や釣り文化を活かす商機が広がる。

  3. DX(デジタル変革)活用での新しいビジネスモデル
    動画配信、オンラインコミュニティ、ECサイトなどを総合的に活用し、メーカーが直接ユーザーと繋がりながら企画やマーケティングを行う動きが活発化。製品開発と集客がシームレスに循環する形が実現すれば利益率の向上も期待される。


まとめ

ティムコの2024年11月期決算は、釣り市場の「在庫調整の長期化」や天候不順などの影響を如実に示す結果となりました。しかし、コロナ特需で増えたユーザーを新たな釣りファンとして定着させられるかどうかは、釣り業界全体の今後を左右する大きなポイントでもあります。

ティムコの決算短信からは、業界の逆風を象徴する厳しい数字が見えてきた一方、2025年11月期には増収・黒字化に向けた具体的な道筋も示されています。釣り人口増加に向けたアウトドア市場との融合、ECやSNSを駆使したファンコミュニティづくり、海外展開の加速など、「メーカー⇔ユーザー」の距離を縮める取り組みが、今後の釣り業界再活性化の鍵となるでしょう。

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