「させていただく」禁止令は 1年でGDPを10兆円押し上げる
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さて、今日は「させていただく」問題です。何を今さらでしょうけど、このフレーズを気持ち悪く思って、変だと言った日本で最初の人間は、このボクなのです。言い過ぎか。言った者勝ちだ。
30年くらい前のことです。当時の新入社員が「研修を受けさせていただきました」などと言っていたので、何だあの言い草は、あいつには自分の意志はないのかと毒づいた覚えがあります。
彼とボクの歳の差から考えると、1993年あたりなのです。当時は誰も、このフレーズの気持ち悪さについて言及していなかったはずです。ネットを調べても2000年以前の記事はないですね。
それはともかく、この「させていただく」は2000年代初頭から大流行りしました。会社の中でも聞かない日はないほどでした。メールで一つの文章の中に2回使われた例を、何度も見かけました。
このフレーズへの批判は、今さらも今さらです。ネットを探せばいくらでもあります。ただし長く見てきた分、ボクが一番切れ味があるはずなんだけど、やめておきましょう。
一言だけ言わせてもらいましょうか。芸能人が「この度、入籍させていただきました」と言っているのをよく聞きます。勝手にやったら、えーがなって思います。
じゃあ、「この度、妊娠させていただきました」とは言わないでしょう。そういうことなのです。
ね。短いけど、いい切れ味でしょう。自画自賛です。
あと「拝見させていただきます」問題を1000字くらい書きたいんだけど、やめておきましょう。これはかなり深くて面倒くさい話になりますので。
近年、もしかしたら日本の低迷は、これが原因かもしれないと考えるようになりました。無難で便利なテンプレートを使って、覚悟なく責任を曖昧にする意識が積み重なった結果が、今の日本ではないでしょうか。
政治家を始めとして1日少なくとも3回は言っているような気がします。日本全体では1日3億回のサセテイタダキマスが発せられています。1年で1000億サセテイタダキマスですよ。1年で1000億回もの責任回避の無難が日本に蔓延しているのです。
ボクの試算では、本来日本は、GDPを今より毎年約10兆円ずつ増加させていたはずです。1000億サセテイタダキマスで10兆円損失です。つまり1サセテイタダキマスは100円です。もちろん責任の重い人のサセテイタダキマスほど損失は大きいでしょう。
事業の責任者が「来年度の売り上げは前年比110%とさせていただきます」と言っているのを何度も聞きました。そのフレーズで聞くと、その目標設定にはたいした覚悟がなく、もっと上層部から言わされている感があります。
あーあ、この事業は現状維持も危ういなって、聞いている部下だけでなく、言っている本人も無意識でそう思っている雰囲気があります。なぜ「目標は前年比110%とします」と言い切らないのですか。覚悟や気概が伝わりません。トップの強い意志は、とても大事なことのはずです。
そのフレーズを聞き始めて以降は、前年比100を切るのが当たり前になっていきました。
このコラムのタイトル「させていただく禁止令はGDPを年10兆円押し上げる」は、そういうことです。自分で何かしようと思ったら、決死の覚悟をもって言葉に使命を与えていきましょう。ハードボイルドに。犯行声明を読むように。犯行はしなくていいですが。
そうです。ハードボイルドに言い切る風土を作っていこうぜ、と言いたいのです。
さて話は変わりますが、京急電鉄では、ドアを閉めるとき「ドアが閉まります」とは言わないのだそうです。「ドアを閉めます」と意志と責任をもってアナウンスされているそうです。そういうことです。ハードボイルドです。いいぞ京急。でもよく聞くと、たまに「ダアー閉めます」とも聞こえるそうです。それもハードボイルドでいいぞ。それではまた。
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