Review#14:FURTHER IMPUZZIBILITIES (Jim Steinmeyer)
Jim Steinmeyer氏のセルフワーキングかつインタラクティブなマジックを掲載したシリーズの第二弾。2006年初版発行。
第1巻のレビューはこちらになります。
タイトルだけでも興味深い
このまま全巻レビューするかのような書きぶりですがそんなことはありませんw(謎の宣言)
2023年6月時点で発行されている全10巻、タイトルを見るだけでも英語の勉強になります。subsequentやensuingの厳密なニュアンスの違いとかあんまわからないので、タイトルの面白みが味わいきれないのが悔しいですが!
このシリーズが良いのは、読み進めながら手元で自分も現象を体験できることです。第二作は1つめの作品からまず読者体感型ですし、楽しい。薄いのでサクッと読めるのもいいですね。ただ、共通の原理を用いたバリエーション作品も目立つので、研究成果を読んでいる、という感覚で読むのがベターでしょう。
あと薄い冊子なので20ドル前後なのもポイントが高い。
では作品紹介です!
収録作品
1.The King's Coronation
Coronationっていう単語を見て、今はどうしてもコロナウイルスを想起してしまいますが、「戴冠」という意味です。
4枚のキングを手元に表向きに持って、スペリングしながら後ろにまわしては捨てる、という作業を繰り返した後、マジシャンは客の手元に残っているキングのスートを言い当てます。
読みながら体験できます。これもhands-offで電話越しでも、Zoom越しでも、相手の手元にカードがあればできてしまうのが良いですね。まぁ、スペリング自体は英語なんですけれども。笑
2.Automatic Palmistry
Palmistryは"Palm"という単語から想像できるかもしれませんが、手相占いのことです。両手の拳が最後左右どちらを開いているかを当てるマジック。何か物体を握るわけではないですが、ある意味でwhich handのプロットとも言えるでしょう。
ただ、これはあかんやろと思いました(笑)あまりにシンプルにしすぎてセルフワーキング最大の弱点である「逆算」が容易すぎます。本人もそれを認めてはいますが、途中のスペリングのプロセスなどでランダム性はカバーできるだろう、ということですが...実用には耐えるものではありません。1つ目の作品と共通した原理を使った習作という位置付けで読むとよいかと思います。プロップレスなのは良いですが。
3. The Princess In A Crowd
プリンセスカードトリックのバリエーションです。ラジオでもテレビでも演じられます。15枚のパケットから1枚選んで、観客が何度かディールしていきながら、最後に客のカードを知らないはずの選ばれたカードのところでマジシャンがストップをかけます。手続き自体はシンプルなのですが、エンディングに至るまでの道のりが長いのがキズ。
4.Coins In A Strange Land
今回レビューを書くために取り出したら、当時のメモで「すごい」と書き込んでありました(笑)Stewart Jamesの"Stranger in a Strange Land"をベースにしている、と書いてあるのですが、おそらく"Stranger From Two Worlds"が正しいかと思われます。(手元にある"The Essential Stewart James" で確認しました。)
Steinmeyerのこのバージョンはアメリカの小銭であるダイム、ペニー、ニッケル、クオーターの4枚を用いて、指を置いて、スペリングしながらコインの上の指を移動します。最後に指を置いているコインを言い当ます。自分でやっても驚きます。どうしても日本円だとアメリカみたいにコインに別名がない(10セントコインをダイムと呼ぶ、など)から、なかなかアレンジはすぐに思いつきませんね...。色々やりようはありそうなんですが。
この類のトリックをエンターテイメントに仕上げたのは、Woody AragonのRing Divination(DVDセットWoody Land収録)と思いますが、私はオチが気に入らないので演じたことがありません(笑)
5. Piles Of Money
前述の4枚のコインを使った別のトリック。ダイムとペニーで山をつくり、ニッケルとクオーターで別の山を作り、合計2つの山を作ります。その上に指を置いて、"big"か"little"をスペリング。これを繰り返して最後の1枚に絞り込みますが、これをマジシャンが当てます。原理も同様ですが別バージョン。アメリカ人なら覚えておいて損はなさそう?
6. Five Cards on the March
次はカードを用いる前述のStewart Jamesのトリックをベースにした作品。1~5のカードをスイッチしていって、最後に残ったカードを当てます。興味深いのは、実はマジシャン側は数字はわからないのですが、最後の位置はわかっているので、当て方を工夫できそう。当て方次第では数字もわかっていたかのように伝えられそうですね。
7. The Lesser Dictionary Test
電話越しにもできる辞書を使ったブックテストです。
1から6の数字を使って3桁の数字を2つ作ってもらい、足しあげて、各位の和をとって...(続く)というご都合主義的計算をして最後に1桁の数字にたどり着きます。そこからアルファベットと対応させ、辞書をひいてもらい、そこにある単語を当てます。
これも習作としては面白いですが数理色が強すぎて厳しいでしょう。参考になるのは、数字の議論をしているのにアルファベットに対応させるところでしょうかね。イマイチ。
8. Five Friends Play Blackjack
10カードポーカーならぬ、10カードブラックジャック。3ターンほどブラックジャックをしますが、必ずマジシャンが勝ちます。最後の勝ち方は、Aが1枚1枚追加されていき、合計が21になります。これは盛り上がりそうです。ただ、ちょっと手続きが覚えなくてはいけない部分も多いです。
とてもカジュアルに演じることが求められますが、そうすれば数理的な背景が探られにくいと思います。ここまでの収録作品の中ではだいぶマシなほう。(マシ、というのは、ストレートな逆算をしにくい、という意味で。)
9. The Great Silverware Scam
ピアノトリックをナイフとフォークでやるやつ。あんまりそれ以上のコメントがないのですが、セリフがフル紹介されているので、その部分はとても参考になります。しかし、「即席のトリック」と言いつつ、各々7,8本のナイフとフォークがその場にあるシチュエーションとは。あんまりレストランのカトラリー入れの部分にもそこまでの本数入ってないような...(笑)Michael Weberが好きそう(Weberはピアノトリックのバリエーションをたくさん発表しています)
10. The Thirteen Card Dilemma
フォールスカウントを一切使わない、数えるたびに枚数が変化するカードトリック。この時点で「大丈夫か?」と思ったあなたの感覚はおそらく正しい。日本の義務教育で算数を学んだ人に対して果たして通用するのか怪しい謎の数え方をすることによって、パケットが13枚になったり14枚になったり15枚になったりします。冒頭でやや優れた策略により枚数がカモフラージュされますが、それ以降は基本的に同じ原理と数え方にトリックの根本が立脚しているため、「いやそれは無理やろw」と一度でも思われたらアウトかもしれません。
ただ、さすがに人に試さずにこれを書くのはどうかと思ったので、3人の友人に試したところ、2人は見事に騙されました。が、1人はソッコーで「いやいや」とツッコミが入りました。ということで、ある程度は成立する可能性が高く、演者のレベル次第ではカバー可能かもしれません。ぜひ読んで感想を教えてください皆さん。
あとがき
トリックによっては「厳しい」と書いているのですが、そもそもセルフワーキングかつ原理のバリエーションを紹介した冊子なので、「即レパートリー入り」を求める人はあまりオススメできません。研究の種ということで、好奇心旺盛な方には本当にオススメです。
ただ、その中でもCoins In a Strange Landは個人的には好きですし、覚えておいて重宝しそう。8つ目のブラックジャックのトリックも、カジュアルに演じることさえできればとてもよいトリックだと思いました!
薄い冊子ながら表紙が箔押し、化粧扉あり(表紙をめくって最初のところにある遊び紙)というのも、おしゃれ。これで16ドルはいい買い物だと思います。
※本記事は過去、一時期書いていたブログで公開レビューをベースに大幅に加筆修正したものです。