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Review#12:Letters from Juan vol.3 (Juan Tamariz)

タマリッツからの手紙シリーズ、vol.3です。全6巻で、どうやら毎月発売するつもりらしいので、折り返し地点まで来たことになります。しかし昨今のPenguin Magicの動きを見ていると、最終的に全6巻を1つのハードカバーにしたデラックスエディションを発売してきそうですよね。さて、vol.1とvol.2は既にレビュー済みですのでそちらもよろしくです(vol.1vol.2

vol.3まで読んでほぼ確信に変わったのですが、この本を読み色々と学び取り理解するには、アスカニオの理論の理解と、タマリッツの他の作品、あるいは彼の理論をある程度理解している必要があります。本書の中で「これはThe Magic Rainbowに書いたとおり…」とか「Book Testは他のDVDでもやっている通り…」といった、他の作品見ておいてね、的なメッセージが目立つのも事実。
という前提があるため、そこを履修していなかったり忘れたりしている場合、「クソノートやんけ!」という感想になるのもやむなし。ほな作品紹介。

なおショップにはあまり現象が記載されておりませんが、おなじみConjuring Archiveには現象のアウトラインが記載されていたのでご参考までにどうぞ。Thank you Denis Behr!

Unique Double Prediction

vol.1の"Shovel"を彷彿とさせる、メキシカンターンオーバーを使用した作品。現象と使用する技法だけに注目するとと面白みに欠けるマジックであるのは事実なのですが、アスカニオの理論(「忘却誘導要素の挿入」「初期状態の強調」など)によるカバーや、タマリッツの理論(Comet Effectなど)を反映した秀作(習作でもある)、という印象を受けました。これを「は?これだけ?」と一刀両断するにはもったいない作品。なぜここでこの技法を選択肢し、このような演出、ハンドリングにしたのか、行間を読む必要があるでしょう。欲を言えば、このあたりも詳細に理由を書いてくれていればよかったんですけどね。
タマリッツが自身が全部で4つのimprovement(改案)を提示しているのですが、3つ目、4つ目の改案におけるメキシカンターンオーバーの生み出す錯覚が凄まじく、これは膝を打ちました。Sonataを読んだ人へのごほうびとなる追加アイデアですね。

One Armed Tribute

タマリッツの師であるJuan AntonとRené Lavandに送る一大カードマジックルーティン。 ノックアウト級の現象を畳み掛けてきます。アンビシャスカードの現象、トータルコインシデンス的な同じ場所から出てくる現象、トライアンフ、カードスルーテーブル、カラーセパレーション等、多段式に現象を連発。しかし、テーブル上のデックからのマルティプルリフト、サイコロジカルフォースを使用する等、技法の難易度は結構高いものになっています。

カードのディスプレイの仕方が独特になるのですが、使用するテクニックをカバーするために変わった見せ方をしている部分がある等、そういう点は学びになります。加えて、多段式で現象を繰り出す中で、後段に連れて観客を巻き込んでいく構成になっており、その点も良かったです。
Letters from Tamariz vol.3の予告編にもこのマジックを演じている瞬間(1:07~あたり)が撮影されてます。おいPenguin Magic、もしかして君最後に映像販売するんじゃなかろうな?

Impromptu Book Test

タイトルの通り、即興のブックテストなのですが、本とデックさえあればできるものです。しかし「デックが必要」という点でお察しの通り、ページ選択にデックを使用する、というデメリットがあります。一応、タマリッツ流の「なぜページ数を選ぶのにトランプを使うのか」がtipsで語られています。結構こじつけだなという感想を得ました。
解説がかなり簡素で、当て方や雰囲気は他のDVDとかでやってるのでそれ見てね、という感じで、そこは残念。なのですが、ページ選びに至るまでのカードを選んでいくプロセス(最終的に足し算をする)はかなりフェアです。タマリッツ曰く、マジシャンでも見抜けないだろう、と。まぁ、確かにそうかもしれないけど、マジシャン側からの指示に結構ツッコミどころが多いんですけどね。
というかこの数字の足し算の原理はカードで特定の数字(高々2桁)を選ぶのに使えるため、ACAANとかにを活用するといい作品ができそうです。

Grand Poker Demonstration ~Vernon Formula Plus~

Letters from Juanに掲載されてきた作品の中で最も壮大でありタマリッツの真骨頂という作品がついにきました。書籍"Mnemonica"執筆時点ではつくれなかったというポーカーデモンストレーションです。折り返し地点の最後を締めくくるにふさわしい壮大さです。

Mnemonica Stackを少し変更するだけで、難しいディール技法なしで、7つもの現象が起きます。ブラックジャックのフェーズもあれば5枚配る通常のポーカーのフェーズもあり、最後には赤黒が分離するなど現象も多様。これがほぼスライト不要というのが恐ろしいです。手順を実際にやるには、覚えることが多い欠点を除いて。(ただ、この欠点はTamarizも自覚しており、解決策もtipsで提示してくれています。これは有用です。)

私の勉強不足により、Vernon Poker Demonstrationとの関係性について特に論ずることができないのは申し訳ないのですが、(たぶんオーバーハンドシャッフルにおけるスタッキングのところなんでしょうが)、まぁ、すごい作品でした。Mnemonica Stackの底力というか。色々Mnemonicaで見せられたあと最後にこれやられたらたまげるわなぁ。

雑感

まぁ、私はタマリッツの熱心なファンなので、バイアスを持たずにこの作品集を評価することはなかなか難しいのは事実です。
海外掲示板で結構酷評されているのが目立つのですが、主訴は「作品がショボい上に値段が高い」というものです。確かにいくつかの作品はそう言われても仕方ないかなと思うものの、前述のようにアスカニオの理論や彼の他作品との違いなどから、タマリッツの思考を読み取る教材としては良いものだと思います。ただそれが明示的に書かれていないことにより、この評価を生み出している気がするんですよね。本なのだから、たくさんハンドリング選択の理由を書いてくれたらいいんだけどなぁ。それなら、たぶんみんなこの値段も納得するんじゃないかな。EditorにJason Englandの名前とかあるので、そこらへん頑張ってほしいですね。

あと、全6巻というのに「タマリッツといえば虹なので、全7巻にすればいいのに」って思ってたら、西欧では虹って6色なんですね。

赤・橙・黄・緑・青・紫

西欧における虹の色

vol.1が赤、vol.2が黄、vol.3が緑なので、残すところ橙、青、紫。これで"Magic Rainbow"が完成すると。粋じゃないですか。

よろしければ過去レビューもご覧ください。

国内ではMAJIONさんで取り扱い中!


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