「訪問介護の基本報酬引き下げ」から見る『自分事』としての介護
今回はこれらの記事を見ていきます。
【記事の概要】
[訪問介護の基本報酬を引き下げ]
・厚生労働省は来年度の介護報酬改定で、訪問介護の基本報酬を引き下げる。
・深刻なホームヘルパーの不足には処遇改善加算の拡充による賃上げなどで対応していく構え。
・訪問介護の基本報酬を引き下げた理由としては「様々な要素を考慮した」として、主に2つを明示的にあげた。
① 経営状況
昨年11月に公表した直近の「経営実態調査」の結果によれば、訪問介護の利益率は7.8%で、全サービス平均の2.4%を大きく上回った。
② 介護職員以外の職種の処遇改善の推進
政府は昨年末、来年度の改定で介護報酬を全体として1.59%引き上げ、うち0.98%を介護職員の賃上げに充てる方針を決定。
残りの0.61%を各サービスの基本報酬などに振り分け、これで介護職員以外の職種の処遇改善も実現する考えを打ち出していた。
また訪問介護は利用率が高く、介護職員以外の職種がほとんどいない。
・この2点が訪問介護の基本報酬を引き下げる大きな理由とされ、介護職員以外の職種も多く働いている特養や老健の基本報酬を逆に大幅に引き上げる形となった。
・このほか、来年度から一本化する処遇改善加算を拡充する効果も強調。
・介護報酬の引き上げによる財源(0.98%分)を用い、訪問介護の加算率を最上位で24.5%まで高めると発表。
・基本報酬の引き下げを断行しても、これでヘルパーの賃上げは具体化できるとの認識を示した。
[在宅介護は机上の空論へ?]
・訪問介護の基本報酬が下げられたことで
「一部の地域を除き、地域包括ケアシステム、在宅介護は机上の空論となる道を突き進むだろう」
と、淑徳大学総合福祉学部 結城康博教授は指摘する。
・団塊の世代の要介護者が増えていく今後は地域包括ケアシステムの深化が欠かせず、在宅介護の主力の訪問介護を拡充すべきと考えられる。
・しかし今回の基本報酬の大幅な引き下げによって、新規参入の事業者は少なくなると予想される。
「国は在宅介護の推進を諦めた」。世間でそう思われても仕方がない改正内容と言える。
・訪問介護は人件費の比率が高く、厚労省は訪問介護について、処遇改善加算を拡充すればヘルパーの賃上げが実現できる、基本報酬を引き下げても事業所の努力で対応していけると考えたと推測される。
・新たな処遇改善加算の最も高い区分(加算率24.5%)を取得すれば相応の賃上げが実現できるかもしれないが、この区分はクリアすべき要件が多く、実際に取得できるのは限られた事業所にとどまるのではないか。
・現状ヘルパーの人手不足や高齢化が進むなか、中心になって現場を支えているサ責などの忙しさは増しており、生産性向上などにしっかり取り組む余力のあるところは少ない。
[介護職員の処遇改善とは]
・介護職員の処遇改善とは良質な職場環境、研修環境など『安定した事業運営』があってこそ保障されるものであり、単に賃金を上げれば実現されるものではない。
・事業所の経営基盤が強化されなければ処遇改善は不十分な内容にとどまり、今の深刻な人手不足は解消へ向かわない。
・たとえばライバルの他産業、小売業や飲食業、宿泊業などの職場環境・研修環境をみると、訪問介護事業所より優れているところがほとんど。
・加えて昨今では急激な物価高騰などで事業所の経営基盤は更に揺らいでいる。
・基本報酬の引き下げで収入が減れば、閉鎖・撤退する事業所が一段と増えてしまうだろう。
・賃金を引き上げることも重要だが、事業所の体力、ヘルパーの働く環境を強化することも不可欠。
【『空間』を見て『時間』を見なければ貧しくなる】
これらの記事の背景にあるのは『数値からの合理的判断』と『実態』の差にあります。
言い換えれば
◇前者が数字で再現可能な『空間』の領域
◇後者が数字で再現不可能な『時間』の領域
の話をしており、介護の対象が『人(生命)』であることから、本来ならば『時間』『空間』の両領域で介護の問題を考えていく必要がある訳です👨🏻🏫
※『空間』と『時間』への理解を深める為には、こちらの記事を先にお読みください。
『時間』の領域にある「人」に対して『空間』の領域だけで対応策を考えても、『時間』が考慮されない分「当てはまらない可能性(反証可能性)」が残る為、『机上の空論』になってしまいます😧
「数値をいじれば人の問題が解決する訳ではない」という話ですが、しかし現実的な問題として「国にお金がない」ことを無視することはできません🙅🏻♂️
極端な話、介護報酬を無尽蔵に増やせるなら介護報酬の議論すら不要で、「好きなだけ増やせばいい」という話になります😅
そうならないのは、介護保険制度に則った介護報酬の財源は公費と保険料から賄われ、それらは国民から徴収されているからです。
国民から徴収するお金を無尽蔵にすれば、すなわちひたすら『増税』すれば、介護職の賃金は上げられるかもしれませんが、
「介護職も『国民』であり、いずれ『介護保険制度の利用者』になる」
事実を忘れてはいけません😔
国民はただ支払う額が増え、介護職も賃上げ分より将来的に納める額が上回れば意味がない、という「貧しくなるしかない話」なのです😰
【「自分事」として介護を捉えれば社会が見えてくる】
ですから、私たちは介護の問題を『空間』と『時間』の両面、すなわち「目の前の現実」として捉えて対応策を考えていく必要があるのです。
何故ならこのままいけば、介護人材不足の深刻化によって全国民が
・親の介護を無料で行うか
・他人の親の介護を有料で行うか
という二択を迫られる『一億総介護職時代』になる、と予想されるからです。
現在でさえ高齢者が高齢者を介護する『老老介護』、未成年が親や家族の介護をする『ヤングケアラー』の問題が深刻化する中で、「介護の担い手」について考えずにいられる国民は誰一人としていないのです😖
国民一人ひとりが国全体の介護を「自分事」として考えられて初めて、介護保険料の徴収や介護職の賃上げにも納得感が生まれる訳です。
それは、強いては年金や医療、社会問題そのものを自分事として捉える目を養うことにもつながります。
なぜ国がこれだけ貧しくて、年金も十分に支払われないのか。
なぜ「介護を必要とする状態」が生まれ、長引くのか。
なぜ介護の担い手が減り続け、その余波が高齢者や未成年に向けられてしまうのか。
それらが見えるようになった時、今の社会が『コト〉ヒトの社会』であり、『ヒトの価値』を「介け護る」のが介護の役割だと心に落とし込むことができるでしょう☺️
【まとめ】「自分事」として介護と向き合えば
今回は「訪問介護の基本報酬引き下げ」について見ていきました。
訪問介護の基本報酬が引き下げれることによって事業所数が減り、入所系が増えれば少人数での『管理』がしやすくなります。
日本の人口動態が減少の一途を辿る以上、「一人ひとりの家に回って介護をするのは非生産的・非現実的だ」と考え、人を集めて一括管理する発想となっても仕方のないことかもしれません😔
しかし、そうした管理生活に待ち受けているのは介護ロボットや介護ICTなどのテクノロジーによる『正しい』介護であって。
介護を必要とする「自分」という『ヒト』ではなく、「日常生活上必要となる「介助」という『コト』を提供する対象」として扱われる未来になるかもしれません😱
少なくとも「介護の担い手」が不足すればするほど代替手段として介護ロボット等が導入されていきますし、現場で人が行う介護ですら『正しさ』によって「言うことを聞かせる介助」が広まりつつあります。
「自分」を『ヒト』として扱ってくれるのは、どこまで行っても人以外にはいません。
どれだけ人工知能が精巧になって、人よりも人らしく振る舞えるようになるのだとしても、それはあくまで数値で再現可能な『空間』の領域での完成形です。
善悪も、清濁も併せ持つ『ヒト』のノイズを再現するには『時間』の領域が欠かせず、テクノロジーを始めとした科学は「数値なしでは成立しない」ため、『時間』=『ヒト』の領域にたどり着くことはできないのです。
一人ひとりがこうした現状を理解し、介護のこと、社会のことを考えるようになれば。
すなわち「自分事」として介護問題を捉えるようになれば、自ずと介護人材は増えます。
誰しも情報として「介護に人手が必要だ」と知っていても、どこかで「それでも私には『まだ』関係ない」と思い込んでいるもの。
しかし介護とは『時間』と『空間』の両面から進むものであり、「今の介護の進化形」が「将来『あなた』が受ける介護」となります。
あなたが受けたい介護とは、どんな介護でしょうか?
今の介護が、その受けたい介護につながっているでしょうか?
そのように「自分事」として介護が見えたなら、あなたは自ら介護について調べ、学び、介護の担い手となっていくでしょう☺️
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今回の記事に共感してもらえたり、興味を持ってもらえたなら、ぜひご覧ください☺️
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