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15歳の娘が男だと言い出した。(その6)

約束通り、学校の購買部の前でSと待ち合わせをした。

6時間目の終了と共に校舎中にブザー音が、響く。
それと同時に、生徒たちの声に混ざって、椅子や、足音が溢れ出す。

一斉に降りてくる生徒達に混ざって、笑顔で階段を駆け降りてくるSちゃんの横には、仲良しのグループの一人、S奈ちゃんがピッタリ寄り添っていた。
娘と手を繋いでいた。しかも恋人繋ぎだ。
(今時女子って、中3になっても、手を繋ぐのだろうか?
S奈ちゃんは、学校1イケメンと言われているD君と付き合っていると娘からは聞いていた。同姓といえどもSと恋人繋ぎなんてして、大丈夫なんだろうか。。)
S奈ちゃんは、私に気がつくとスッと、手を離した。
S奈:「Sのお母さん、こんにちは」
母「こんにちは。」
S奈「Sの制服を買いに来たんですよね、じゃ、私先帰るね、S」
S「うん、バイバイ」
さっきまで恋人繋ぎをしていた割には、ずいぶんあっさりした様子だなと思いながら、購買部のドアを開ける。
入り口には、女子と男子の制服一覧表が貼ってある。
それを見ながら、Sが希望しているはずの、女子用のパンツをリストから見つけようとした時だった。
S「昼休みに試着したから、取り置きしてもらってる」
母「ああ、そうだったの。じゃあ、いくつ必要?」
入室時から、購買部の女性が、私をずっと目で追っているのは感じていた。でもそれは、生徒の保護者が買い物に来ている程度の視線ではなく、なんだか観察されているような、刺さるような視線だった。
S「2本は必要」
母「わかった。」
「すみません、娘が取り置きをお願いしたそうなのですが、パンツ2本をお願いします。」
購買部「えっ、、と。。こちらですが、大丈夫ですか。」
奥歯にものが挟まったような、はっきりしない物言いだった。
はい、と言いかけたところ、透明ビニール袋に貼ってあるシールの表記が
目に入る。
「男子M」と書かれたの紺色シール。
間違いではないかと、目を疑った。
横には視線を合わせようとしないSちゃんが、突っ立っている。
今朝、あの子が制服が欲しいと言い出した時と同じ、心細そうな横顔だ。
何かが起きていると、思わざるを得なかった。

しかしここで、Sにとやかく聞けば、購買部の女性達の好奇心に満ちた視線に
晒されるに違いない。
娘を守らなければという咄嗟の保護本能から、思わず、
「それで、結構です。」
と言ってしまった。


続く



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