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怪談・・・でいいのかな?

いつも利用しているスーパーで不審な女性に遭遇した。歳は40代前後と思われる。
美容室にずっと行っていないような伸び放題の髪に分厚いメガネをかけていて、流行など意に介してないといった時代不詳な服装。

とにかく、独特な雰囲気を醸し出していた。

私は彼女に自分の後をつけられていると気づいた。いつからついて来ていたのかわからないがつかず離れず、2メートルほどの距離を保ちつつ、ついて来ている。そして、私の視線が彼女のいる方向へ向いたりすると、さっと商品棚に隠れたりしている。

怪しい・・・

私は少し薄気味悪さを感じながら、でも、どうすることも出来ず平静を保ちながら精肉コーナーの冷蔵ショーケースの前で立ち止まった。商品を眺めているふりをしながら、気配でそっと彼女の動きを伺う。

すると、彼女はじわじわと私との距離を縮めているではないか。

私の背後70~80㎝くらいまで近づいて来たとき、勢いつけて私はそちらを振り返った。
ふいに振り返られて彼女は一瞬ひるんだが、さっと私に何かを向けて来た。

彼女の手元を見ると、二つ折りの携帯電話(当時はまだみんなガラケーの頃)。アンテナ部分に手作りなのか何なのかパラボラ状のものが装着されている。
それを私へ向けて、小さな声でぶつぶつ独り言を言っている。

このヒト、ヤバい・・・?

異様な雰囲気を漂わせる彼女から逃げようと私はその場から足早に離れた。

ところが、彼女はついて来るのをやめようとしない。そして、やはり何かぶつぶつ言っている。

何を言っているんだろう?

横目で彼女の気配を伺いながら耳をそばだてる。

「…ワタシには …わかっている」

語尾がそう聞こえた。

何? 何がわかってるって?…

私の後ろ姿に改造携帯電話を向けたまま彼女はそろりそろりついて来る。

えっ? えっ??  近づいて来る⁉

私は意を決して振り返り、「何ですか⁉」と、言おうとしたその一瞬先に彼女が先にはっきりと言い放った。

「アナタはレイだ、ワタシにはわかっている!」

ふいに言われることのない単語は脳内検索に時間を要する。

…は?

レイ? レイって何?

えっ? …霊⁉


「私にはわかっている!」

彼女は携帯電話をぐいぐい私に近づける。

「ちょ…っ!」

私は自分に向けられている携帯電話を遮ろうと手を伸ばすと、彼女は踵を返して走り出した。

反射的に私は彼女の後を追いかけた。


「ちょっとあなた!  待ちなさいよ!  失礼じゃないですか!」

レジの付近まで来て追いつき私は彼女の腕を掴んだ。

ところが、その私の手をさっと振り払うや素早い身のこなしで店の外へ飛び出して行き、あっという間に見えなくなってしまった。

小さく息を切らし、呆然とする私。

私の買い物カゴにはいくつか商品が入っていたため、店の外まで追いかけるわけには行かず、諦めてレジに向かうしかなかった。

この様子を怪訝そうに見ていたレジのスタッフと目が合う。

気まずい。

「あっ、さっきの人、ここへよく来る人ですか?」

私は平静を装って尋ねた。

「さぁ…見たことないかも?」

スタッフは首をかしげる。

「どうされたんですか?」

やはり気になっていたらしく前のめりに聞いて来る。
私は返答に詰まった。

私のことをユウレイだって言うんですよー!

…なんて、言えない。
恥ずかしくて言えない。

毎日のように利用しているスーパーだ。
そんなこと言ってしまったらレジに行くたび、

「あ、このお客さん、ユウレイって言われた人だー」

そう思われるに決まってる。

『ユウレイに間違われた人』として、私は記憶に残されてしまう。

レジスタッフ仲間はお客さん情報はたいていしっかり共有されている。
私はきっと『あのヒトがユウレイのお客さん』と、引継ぎをされてしまう。
同業の私はスタッフ間のお客様情報の共有はカンタンに想像できる。

あだ名をつけるのだ。

恐らく私は『ユウレイさん』と呼ばれる。
このスーパーでは『ユウレイさん』が自ら、自分のお供えものを買いに来るらしいと怪談に仕立て上げられてしまうかもしれない。

「いえ、大丈夫です。何でもありません」

私は沈黙を決め、レジ台にかごを置き、会計をお願いした。

イヤなことがあったとき、気が済むまでそれを周囲にこぼしてストレスを軽減させたいものだ。

ちょっと聞いてよー
私、こないだ
ユウレイに間違えられたんだよねー

何でだと思う?

そういう経験ある?

ないかー!

ないよねー!
だよねー!(笑)


誰かに言いたい。でも、共感など得られるはずもない。
笑われるか、聞かされた相手は引き潮のように私から距離を置くかもしれない。

自分がこの世のものでないと間違われたことが恥ずかしい。口惜しい。そんなことは誰にも知られてはならない。

見られたくない靴下の穴のように自分の記憶のすみに押し込むしかない。

生きててすみませんね


以前、知人の紹介で霊能力があるという方に会ったとき、

「あなたはたまに幽体が肉体からはがれそうになってるみたい」

と、言われたことがある。そのときはどんな冗談だと苦笑しながら受け流してしまった。
でもどこか引っかかるものがあった。

まず、エレベーターのセンサーに反応しないことがたびたびある。
待ち合わせに入ったカフェでいつまで待っても店員さんがお冷を持って来ないので変だな~と思いながらいると、待ち合わせた相手がやって来て私のいるテーブルに座った。そこで相手のお冷だけ持ってやって来た店員ははじめて私に気づいたらしく、「あっ!スミマセン‼」と、動揺されたこともあった。

そういうことを色々思い出してみるに、やっぱり、自分は何かあるのかもと思わずにいられなかった。

このスーパーでの出来事の後、恥ずかしかったけれど私は再度、その霊能力者の方を訪ね、改めて相談に乗ってもらった。

こんな相談はレアケースと言われた。
まあそうだよね。普通は「憑いてる」方だもんね。


あれ以降、彼女を見かけることはない。
あのおかしな携帯電話は何だったのだろう?

幽霊探知機だったのか?

だとしたら、私はそれに反応した。「あなた、霊が憑いてますよ」ではなく、私が霊認定された。肉体はあるとはいえ私は中途半端なのか?

いやいや、たとえ反応したにしろ失礼だ。せめて、ひと言聞いてくれるのが礼儀じゃないか。「生きてますか?」とか。

私、この世の者なんですけど、これも怪談ってことになるのだろうか。


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