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お弁当を買いに。

一時期、市役所へ行く用事が重なったことがある。
市役所へ行くって、人によっては面倒なことかもしれないが、私は鼻歌まじりにウキウキと通っていた。

諸々手続きだとか、そういったことが楽しかったわけではなく、市役所に併設される店のお弁当を買うのが私のお目当てだったからだ。

きっかけはハローワークへ提出する書類が必要で、市役所へ何十年ぶりかに市役所へ行ったことから。

その日は午前中がっつり講習を受けた後で、時間もとうにお昼を過ぎていてかなり空腹だった。

帰りにスーパーへ寄るのも家に帰って何か作るのも面倒だなぁと思いつつ、市役所の入り口を出ると脇に立っているお店が目に入った。

コンビニ風なお店なんだけど、よく見るフランチャイズの看板ではなかったので、もの珍しさもあってふらっと入ってみた。

店内に陳列されている商品は何と言うか、すごくシンプルであれこれ置かれてはいない。

『お弁当』と書かれたPOPのところへ行くと、中身の見えない真っ白なの発砲容器が積まれていた。ご飯の量の違いで値段は450円と500円。メインを魚か肉のどちらかを選ぶだけの二種類だった。

目が廻りそうなくらいお腹が空いていたので、値段につられて私はそれを一つ買って帰った。中身が見えないからたぶん、店の人に確かめて魚を選んだ気がする。

割り箸の袋を見ると、地元では昔からある仕出し料理屋の名前が入っていた。利用したことはないけれど「あぁ、そういう料理屋さんがあったなぁ」くらいの。

なので、「ふーん」と思っただけで何の期待も思い入れもなく、ただただ空腹はごちそうってことで頂いたわけなのだけど。

これが大当たり。

見た目地味。
色付けのパセリもなく、おかずの盛り付けに派手さはまったくないのだけれど、コンビニによくあるようなやたら甘くて濃い味付けと違い、とても自然で上品。醤油・酢・味噌が使われてバランスも良し。野菜も機械ですり下ろしちゃったキャベツなんかじゃない。煮びたしにマリネに煮物とか、けっこう種類も入ってて。

しかも肝心かなめのご飯である。
これがスーパーやコンビニのそれと格を分ける秀逸さであった。仕出し料理屋さんならではと思われる技。

冷えた状態を想定された炊き方である。ちょっと水分多めというか。でもベタッとはしてない。ちゃんと粒が立っていてもっちり。
お弁当に適した品種とわかる。
釜もぜったいガス炊きね。

いやいやいやコレ!

割烹料亭で出されてもおかしくないんじゃないの⁉
450円でいいの⁉
そっけない真っ白のプラ容器に詰められてていいの⁉

心の中で叫びまくり。
すっかりハマってしまった。

が、しかし。
問題は市役所内の売店じゃないと買えないという点だ。

市役所の駐車場は窓口を利用しないと無料券を発行してもらえない。お弁当だけ買いに行っては当然、駐車料金が発生してしまう。

せっかくの450円のお弁当なのよ。
450円で食べなきゃバチが当たるじゃないの。

せっかく安くてこれほどのお弁当が買えるのに、おめおめ駐車料金をかけてはなるまいと、あの仕出し弁当恋しさに私は無い知恵を絞り、一度で済む用事も何かにこじつけて二回に分けてみたりしてそれはそれはいそいそと、市役所へ通った。

とはいえ。
何だかんだこじつけてみても市役所を定期的に利用できる目的はそれほどないわけで。

・・・・・

今日、一年ぶりに行く用事が出来た私は朝からワクワク。ぜったい買い逃してはならない。仕出し弁当が入荷する頃合いもしっかり逆算の上で家を出る。

弁当一つを買いに行くのにこれほど真剣なのは、手袋を買いに行ったときのきつねの子供くらいしか思い出せない。

早朝から散らつく雪で足元もぬかるんでいる。
クルマから降りて市役所の玄関へ向かう人たちはみなうつむいて小走り。
そんな彼らをよそに「るんるんるん♪」と軽い足取りの私。

市役所での用事を済ませ、駐車場無料の印を頂くや店へまっしぐら。

店内に入ってわき目もふらず陳列されているであろうコーナーへ目をやる。

が。
あの素っ気ない白い発砲容器を探すけれど見当たらない。
代わりに透明なふたに包まれた色とりどりのフィルムカップの華やかなお弁当が目に入った。

あれ?何か雰囲気違う…

と思っていると、ふと店員さんと目が合う。

「お弁当ですね?」

「あ、はい。これお願いします」

にっこり声をかけられて反射的にうなづいてそれを持ってレジへ。

「これ、お弁当を買って下さった今日のお客様にお渡ししてます」

とても愛想のよい店員さんが手作りクッキーの袋を差し出した。
あ、そういえば今日はクリスマスイブ。

「わぁ美味しそうですね♪ ありがとうございます」

違和感を残しつつ、笑顔でその小さな袋を受け取って店を出た。



あの仕出し屋さんは確か㈲とついた社名だったな。

もしや、コロナ騒動後に力尽きてしまったのでは?
ふとそんな懸念がよぎり、スマホを取り出して検索しようとしてやめた。

何だか、見なくてもいいかなって思った。


今日買って帰ったのがコレです。¥500(税込)
卵焼き、冷凍のかな?…💦

五穀米ご飯
揚げハンバーグ・エビフライ・しめじと小松菜の煮びたし
玉子焼き・酢の物・漬物
プチロールケーキ(苺クリーム)

ロールケーキ、ふわふわで
苺クリームも甘くなくて美味しかった♡


プチクリスマスプレゼントでいただいたクッキーもやっぱり手作りの素朴で優しい味でした。

これも良き、かな。



彼ら(名もなき)職人さんたちはこうして恋焦がれるファンがどこかにいるなんて知りもしないで、よもや自分の技が職人技だなんて思いもしないで、今日も粛々と米を炊いたり、煮物を作ったりしてるんだろうなぁ。。

地上の星のあなたに届いて~





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